当時14歳だった少女の年齢を知りながら性交したとして、不同意性交等罪に問われた30代の男性会社員に対して、大阪地裁は10月27日、懲役3年、執行猶予5年(求刑:懲役3年6カ月)を言い渡した。
被告人は少女とチャットアプリで出会い、初めて対面したその日に性交に及んだ。
被告人の「金をかけずに素人と性交したい」という身勝手な目的と、少女の抱いた「性交したいだけの男とは違う」という信頼の間に、あまりにも大きなギャップが存在していた。
SNSが生活から切り離せない現代社会において、いつどこでも起こりえる事件の構造と、その背後に隠された心のすれ違いのリアルさを裁判を追って見つめた。(裁判ライター・普通)
●「素人との性交」を目的に50人と会った被告人
法廷に現れた被告人は、外見的に派手な遊びを想像させない、ごく普通の会社員という印象だった。
検察官の証拠によると、被告人が性交を目的として複数のチャットアプリを用い始めたのは、事件の7年ほど前。顔や体型で相手を選別し、事件までに約50人の女性と出会ってきたという。
被告人が意識していたのは、相手の警戒心を解くための「ルーティン」だ。
顔を合わせても、まずは下心のない友だちのような距離感を作ることを意識し、緊張をほぐすためにドライブに誘った。手や肩に触れてみて、相手が拒否反応を示さなければホテルへ向かう。
被告人がアプリで少女を見つけ、メッセージのやりとりを始めたのは昨年末。プロフィール欄や会話で14歳であることは把握していたが、少女が自ら住所を教えるなど、警戒心の薄さを理由に犯行を止めることはなかった。
2週間後の初対面で性交に及び、その後も5〜6回にわたって行為を繰り返したいう。
●少女の信頼、ブロックされた際の「号泣」
一方、被害少女はチャットでのやりとりや対面時、自身の年齢を被告人に告げていた。被告人のことを「性交したいだけの男とは違う」と一定の信頼を寄せていたようだが、実際は会うたびに性交に至っていた。
事件が発覚したのは、母親がチャットのやりとりに気付いたためだ。母親が被告人に対して接触をやめるようメッセージを送ると、被告人は即座にブロックした。この事実を少女に伝えた際、少女は号泣したという。
母親は捜査機関の取り調べに対し「心身未熟な子どもは同意していたとしても、成人が経験値に任せて都合のいいように誘導していることがあると思う。今回の件は絶対に許せない」と強い怒りを供述した。
その後、被告人は弁護士と相談し自首。被害弁償金100万円が支払われたことが弁護側から証拠として示された。
●「同意があれば自由恋愛」という無責任な認識
被告人質問では、14歳と認識したうえでの行為だったと認めた被告人の「無責任な認識」が浮き彫りになった。
弁護人:そういう年齢の人と性交するのが犯罪とは?
被告人:自分が無知で、どういうことをしたら犯罪かわかってなく、自由恋愛だったらと。
弁護人:恋愛ならいいと思っていた?
被告人:あんまよくないかなと思いつつも、同意あればいいのかなと。
少女から誕生日プレゼントをもらっていたことや、暴行・脅迫を用いていないことから、「同意がある」と安易に考えていたようだ。
●少女の好意を利用した犯行
検察官から、年齢を知ってもためらないがなかったことを問われると「若すぎるとは思ったが、波長が合ったので」と答える被告人。
公判中ずっと声が震え、緊張していると思われる様子からも、現在は真剣に事件に向き合っていると感じるが、事件時はあまり深く考えていなかったようだ。
検察官:なぜ16歳未満への行為がダメだと思っていますか?
被告人:まだお子様で、正しいことを判断して選べないからと。
検察官:少女が大人になったら、今回のことをどう思うでしょうか?
被告人:辛いと思う。
検察官:それはどうして?
被告人:恋人でない大人と性交したのが傷つくのでは。
検察官:メッセージをブロックされたと聞いて、少女はなぜ号泣したと思う?好意を抱いていたからなのではないか?
被告人:・・・恐らく。
検察官:少女の好意を利用した犯行だ。
被告人:そう捉えられても仕方ない。
このやりとりは、少女の母親が怒りを覚えた「成人が経験値に任せて都合のいいように誘導している」という言葉をまさに体現していた。
●社会内での更生を促す執行猶予
裁判官は、判決理由として、本件を「常習的犯行の一環」「未成年の未熟な判断能力に乗じて、性欲のはけ口とした」と厳しく非難した。
一方で、被告人が犯行を認め、自首も成立していること、また犯行に際し欺罔(だまし)や強制力を用いていない点から、前科のない被告人に対しては、社会内での更生させる猶予期間を設けるのが相当であるとして、執行猶予付きの判決を言い渡した。