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JASRAC、音楽教室に一部敗訴でも…「教師の演奏」に著作権料発生、最高裁判決はどんな影響ある?
2022年10月25日 18時49分
#JASRAC #著作権

音楽教室のレッスンで演奏するのにも、著作権法の「演奏権」が及んで、楽曲を管理するJASRAC(日本音楽著作権協会)に著作権使用料を支払う必要があるのか争われた訴訟で、最高裁第一小法廷は10月24日、JASRACの上告を棄却して、生徒の演奏には「演奏権」が及ばないとする判決を言い渡した。JASRACが一部敗訴したかたちだが、今回の最高裁判決について、著作権にくわしい高木啓成弁護士に聞いた。

音楽教室のレッスンで演奏するのにも、著作権法の「演奏権」が及んで、楽曲を管理するJASRAC(日本音楽著作権協会)に著作権使用料を支払う必要があるのか争われた訴訟で、最高裁第一小法廷は10月24日、JASRACの上告を棄却して、生徒の演奏には「演奏権」が及ばないとする判決を言い渡した。JASRACが一部敗訴したかたちだが、今回の最高裁判決について、著作権にくわしい高木啓成弁護士に聞いた。

●主な争点は「音楽著作物の利用主体の判断」だった

今回の裁判は、JASRACが音楽教室から著作権使用料を徴収すると発表したことをきっかけに、ヤマハ音楽振興会などの音楽教室事業者が、JASRACを相手取り、音楽教室での演奏について、著作権使用料を支払う義務がないことの確認を求めたものです。

さまざまな点が争点となりましたが、やはり、主な争点は、音楽著作物の利用主体の判断でした。

どういうことかというと、たとえば、カラオケ店では、実際に歌を歌っているのは利用客ですが、法律的には、カラオケ店が歌っている(音楽著作物の利用主体は「カラオケ店」である)と判断されて、カラオケ店はJASRACに著作権使用料を支払う義務があります。

同じように音楽教室での教師と生徒による演奏も、法律的には音楽教室事業者が演奏している(音楽著作物の利用主体は音楽教室事業者である)と判断されるのではないか、という争点でした。

1審の東京地裁は「教師は、音楽教室事業者との雇用契約または準委任契約に基づき、その義務の履行としてレッスンを行うので、教師のする演奏については、音楽教室事業者の管理・支配が及ぶ。生徒は、受講契約に基づき、(音楽教室事業者の管理支配下にある)教師の指導に従って演奏等を行うので、音楽教室における生徒の演奏も、その演奏について音楽教室事業者の管理・支配が及んでいる」として、音楽教室での教師と生徒による演奏について、その音楽著作物の利用主体は、音楽教室事業者だと判断しました。

しかし、控訴審の知財高裁は、教師による演奏と生徒による演奏で異なる結論としました。

教師の演奏については、「音楽教室事業者は、教師に対し、受講契約に従った演奏行為を、雇用契約または準委任契約に基づく法的義務の履行として求め、必要な指示や監督をしながらその管理支配下において演奏させている」として、その音楽著作物の利用主体は、音楽教室事業者であると判断しました。

一方、生徒の演奏については、「生徒は、音楽教室事業者と締結した受講契約に基づく給付としてレッスンに参加しているのであるから、演奏を行う義務を負っておらず、音楽教室事業者が生徒に演奏を強制することはできない。生徒は、専ら自らの演奏技術等の向上のために任意かつ自主的に演奏を行っている」として、利用主体は、生徒自身であると判断しました。

このように、1審と控訴審とでは、音楽著作物の利用主体の判断が、分かれる結果となりました。

知財高裁の判決は、「演奏」や「公衆」などの意義から論じて結論を出しており、非常に緻密な内容でした。

ただ、過去には、知財高裁では利用主体を狭く判断されつつも、最高裁では広く判断された例もあり、今年9月に最高裁で弁論が開かれたため、どのように判断されるのか注目されました。また、知財高裁判決は、カラオケ店の事例との整合性についても一定の言及はなされているものの、個人的にはバランスが気になるところでした。

●教師の演奏が著作権侵害となると確定した影響は大きい

今回、最高裁は「生徒の演奏は、演奏技術の習得・向上のために行われるもの」であり、「教師の行為を要することなく成り立つものである」「教師による課題曲の選定や指示・指導は助力にすぎず、生徒は、あくまで任意かつ自主的に演奏するのであって、演奏することを強制されるものではない」として、生徒の演奏について、利用主体が音楽教室事業者であるとはいえないと判断しました。

つまり、知財高裁の判断が維持されたかたちです。これによって、教師の演奏については、音楽教室事業者が著作権使用料を支払う義務があるが、生徒の演奏については支払う義務がないという判断が確定しました。

実務面は大きな影響がありそうです。

JASRACは2018年4月から、対象となる音楽教室から著作権使用料の徴収をはじめています。

文化庁長官からの通知を受けて、JASRACは、演奏権が及ぶことを争う音楽教室事業者については訴訟終了までの間は、個別の督促はおこなわないこと、それ以外の音楽教室事業者についても利用の実態等を踏まえた適切な使用料の額とすることなどの措置をとっています。

ですが、今後、音楽教室の年間使用料を受講料収入の「2.5%とする」というJASRACの使用料規定は、見直しが迫られるものと思われます。

また、JASRACは2016年4月以降、カラオケ教室やボーカルレッスンを含む「歌謡教室」から著作権使用料の徴収をはじめており、この分野の使用料の金額にも、今回の判決が影響する可能性があります。

一方、音楽教室側にとっても、今回の判決によって、音楽教室での教師による演奏が著作権侵害となることが確定した影響は大きいです。

JASRACに著作権使用料を支払わなければ、JASRAC管理楽曲を教材に使うことができないことはもちろん、たとえJASRACに著作権使用料を支払っていても、たとえばゲーム音楽など、JASRACの管理楽曲以外は、法律上、著作権者の許諾がなければ、教材に使うことができないことになります。

今後、音楽教室事業者側は、JASRACと使用料率を協議したうえで、著作権使用料を支払っていくことになりますが、現場的には、利用曲目をJASRACに報告する必要があり、このような事務作業がけっこうな負担になるのではないかと思います。

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