2013年に国が生活保護費の基準を引き下げたことを違法と判断した今年6月の最高裁判決を受け、厚生労働省では有識者による専門委員会が対応を検討している。
しかし、支給されるはずだった差額分はいまだに支払われておらず、裁判を闘った原告は「これは貧乏人だけの問題だけではないことを知ってほしい」とうったえている。
●弁護団「厚労省が守るものを取り違えないで」
2013年の生活保護の基準改定をめぐって国を訴えた原告や弁護団らでつくる団体「いのちのとりで裁判全国アクション」が11月7日、東京都千代田区の厚労省で記者会見を開いた。
団体は「生活保護の利用者は、違法とされた平成25年改定によって長年にわたって『健康で文化的な最低限度の生活』を下回る厳しい生活を強いられ続けている」と強調した。
厚労省が引き下げ率の再計算や、差額分の全額支給の見送りを検討していると、朝日新聞や共同通信が報じたことを受けて、団体は「すでに議論の流れができている。私たちが専門委員会に入らないと公正な議論はできない」と牽制した。
弁護団の西山貞義弁護士は「私たちの意見を丁寧に聞いて合意形成していこうという姿勢がまったく感じられない。厚生労働省は守るべきものを取り違えないでほしい」とうったえた。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●生活保護は47の制度に影響、原告「みなさんにも関係ある」
この日の会見には、生活保護を受給している当事者も出席した。
原告の一人、武田新吾さんは「最高裁の判決が出て以降も、原告の中には亡くなった人がいます。2013年から2015年の引き下げは、本来なら私たちが使えたはずのお金を国が削った、搾取したということ。それが違法とされた以上、一刻も早く返してもらって、生きているうちに使えるような状況をつくらないといけません」と語った。
生活保護費の基準は、子どもの給食費や学用品費を支援する「就学援助」など、多くの制度の算定指標となっており、影響が及ぶ制度は47にのぼると指摘されている。
同じく原告の小岩りょう子さんは、こうした実態を踏まえて「(生活保護の問題は)みなさんにも関係がある。貧乏人だけの問題ではないということをお伝えしたいです」とうったえた。
●「政府の姿勢が受給者の声をないがしろにしている」
「いのちのとりで裁判全国アクション」は、厚生労働大臣に対して、以下の3点を求めている。
(1)違法な基準改定を行い、長年これを放置したことについて、まずは、原告及びすべての生活保護利用者に対し、真摯に謝罪すること。 (2)原告及びすべての生活保護利用者に対し、未払いの差額保護費を遡及支給するとの基本方針をただちに表明すること。 (3)生活扶助基準と連動する諸制度(就学援助など47の制度)への影響についても、実態を調査し、被害回復を図るとの方針をただちに表明すること。
同アクション共同代表をつとめる稲葉剛さんは会見で、これらの要望に賛同する署名が5万8094人と1471団体から集まったことを紹介。
最高裁が違法と判断したにもかかわらず、国が謝罪や被害回復しない中、受給者への風当たりが強くなっていることに触れたうえで「政府の姿勢が、受給者の声をないがしろにしていいというメッセージを社会に発信している」と批判した。