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大阪府の「君が代」斉唱チェックはやりすぎ? 弁護士に聞いた判断のポイント
2013年10月08日 18時05分

教師がきちんと「君が代」を斉唱しているかどうかチェックせよ――大阪府教育委員会がそんな内容の文書を各府立学校に送付していたことが明らかとなり、話題になっている。

報道によると、9月4日付で通知され文書には、学校行事で君が代を斉唱する際の注意として、「教職員の起立と斉唱をそれぞれ現認する。目視により、教頭・事務長が行う」と明記されていたという。指示は単なる注意喚起に留まらず、校長らは結果について、府教委に文書で報告するよう要求されている。また「判断が難しい場合」については、詳細の報告と、府教委への相談も求められているという。

起立・斉唱を「チェック」などという話が出てくるのは、歴史観や思想などから「君が代を歌いたくない」という人が一定数いるからだ。教育現場での君が代斉唱は1990年代から長く論争の種となっており、今回の通知に対しても「やりすぎ」という指摘がある。

教育現場での「君が代」をめぐる裁判はこれまでいくつもあった。そういった裁判ではどのような議論がなされたのだろうか。また、その中には今回の事例を考えるためのヒントはあるのだろうか。君が代問題にくわしい猪野亨弁護士に聞いた。

●「起立を命じることが間接的に思想良心の自由を制約する」と認めた最高裁判決がある

「最高裁は従来、君が代の斉唱を命じるための起立という職務命令については、思想良心を侵害しないとしてきました。しかし、2011年5月~6月の一連の最高裁判決は《君が代斉唱に関して起立を命じることが間接的にその者の思想良心の自由を制約する》ことを認めました。

さらに2012年1月16日の最高裁判決では、起立命令違反に対する懲戒処分について判断した際、《単なる不起立では儀式を混乱させたとまではいえない》として、戒告を超える懲戒処分に慎重姿勢を示しました。また、不起立の繰り返しだけによる累犯加重による懲戒処分も否定しました」

つまり、どういうことだろうか。

「これらの判決から、次のようなことが言えます。

(1)単に起立しなかったことに対する処分は、戒告処分が限度であること

(2)起立さえしていればその儀式には何ら影響はなく、戒告処分の根拠すらもないということ」

●口元チェックは「斉唱の強要」と言える

すると「斉唱時の口元チェック」については……?

「そもそも、声を出してうたう『斉唱』は、『起立』以上に個人の世界観を侵害する程度が大きくなります。

それにも関わらず、教育委員会が現場に対し、口元をチェックし、それが実際に声を出しているかどうか疑わしい場合には報告書を提出せよ……と通達することは、権力による斉唱自体の強要といえます。

それに基づく職務命令は、現在の最高裁の基準からいっても憲法違反とされる可能性が高く、非常に問題です」

●教育現場に「ものを言えない雰囲気」を作り出してしまう

「もし、斉唱していないということで懲戒処分を受けるとなると、仮に最高裁で不利益処分が取り消されるとしても、現場の萎縮効果は絶大です。

さらに、それは管理職による現場の統制手段としても利用されます。教育現場にものを言えない雰囲気を作り出すことは、教育面からも非常に問題があります」

確かに「異論」が全く認められない教育現場では、教師だけでなく生徒も、ずいぶん息苦しく感じるだろう。猪野弁護士は「今後は、個々人の教員の思想良心の自由という側面のみならず、国家が特定の思想を強制することの是非、という側面からの批判的検証が必要です」と強調していた。

(弁護士ドットコムニュース)

教師がきちんと「君が代」を斉唱しているかどうかチェックせよ――大阪府教育委員会がそんな内容の文書を各府立学校に送付していたことが明らかとなり、話題になっている。

報道によると、9月4日付で通知され文書には、学校行事で君が代を斉唱する際の注意として、「教職員の起立と斉唱をそれぞれ現認する。目視により、教頭・事務長が行う」と明記されていたという。指示は単なる注意喚起に留まらず、校長らは結果について、府教委に文書で報告するよう要求されている。また「判断が難しい場合」については、詳細の報告と、府教委への相談も求められているという。

起立・斉唱を「チェック」などという話が出てくるのは、歴史観や思想などから「君が代を歌いたくない」という人が一定数いるからだ。教育現場での君が代斉唱は1990年代から長く論争の種となっており、今回の通知に対しても「やりすぎ」という指摘がある。

教育現場での「君が代」をめぐる裁判はこれまでいくつもあった。そういった裁判ではどのような議論がなされたのだろうか。また、その中には今回の事例を考えるためのヒントはあるのだろうか。君が代問題にくわしい猪野亨弁護士に聞いた。

●「起立を命じることが間接的に思想良心の自由を制約する」と認めた最高裁判決がある

「最高裁は従来、君が代の斉唱を命じるための起立という職務命令については、思想良心を侵害しないとしてきました。しかし、2011年5月~6月の一連の最高裁判決は《君が代斉唱に関して起立を命じることが間接的にその者の思想良心の自由を制約する》ことを認めました。

さらに2012年1月16日の最高裁判決では、起立命令違反に対する懲戒処分について判断した際、《単なる不起立では儀式を混乱させたとまではいえない》として、戒告を超える懲戒処分に慎重姿勢を示しました。また、不起立の繰り返しだけによる累犯加重による懲戒処分も否定しました」

つまり、どういうことだろうか。

「これらの判決から、次のようなことが言えます。

(1)単に起立しなかったことに対する処分は、戒告処分が限度であること

(2)起立さえしていればその儀式には何ら影響はなく、戒告処分の根拠すらもないということ」

●口元チェックは「斉唱の強要」と言える

すると「斉唱時の口元チェック」については……?

「そもそも、声を出してうたう『斉唱』は、『起立』以上に個人の世界観を侵害する程度が大きくなります。

それにも関わらず、教育委員会が現場に対し、口元をチェックし、それが実際に声を出しているかどうか疑わしい場合には報告書を提出せよ……と通達することは、権力による斉唱自体の強要といえます。

それに基づく職務命令は、現在の最高裁の基準からいっても憲法違反とされる可能性が高く、非常に問題です」

●教育現場に「ものを言えない雰囲気」を作り出してしまう

「もし、斉唱していないということで懲戒処分を受けるとなると、仮に最高裁で不利益処分が取り消されるとしても、現場の萎縮効果は絶大です。

さらに、それは管理職による現場の統制手段としても利用されます。教育現場にものを言えない雰囲気を作り出すことは、教育面からも非常に問題があります」

確かに「異論」が全く認められない教育現場では、教師だけでなく生徒も、ずいぶん息苦しく感じるだろう。猪野弁護士は「今後は、個々人の教員の思想良心の自由という側面のみならず、国家が特定の思想を強制することの是非、という側面からの批判的検証が必要です」と強調していた。

(弁護士ドットコムニュース)

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