愛媛県の松山工業高校の空手部顧問から体罰を受けたとして、元部員が県に220万円の賠償を求めた訴訟で、県が「違法な指導があった」と認め、50万円の解決金を支払い、再発防止策を講じるなどを約束した内容の和解が成立した。和解は3月25日付け。
元部員は指導の一環として、1時間の「罰走」を7日間命じられていた。原告の代理人は、教育者に「罰走は体罰」という認識をもってほしいとうったえた。(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)
●どんな体罰があったのか
訴状によれば、原告の元部員は2023年3月、空手部の顧問から指導の一環として1時間のランニングを7日間命じられ、腰をうつなどのケガをした。また、同年10月には、体調不良を訴えて遠征試合の不参加を訴えたのに、顧問から認めてもらえず「(他の部員に)遠征なくなったって言ってきて」と説明するように迫られるなどした。
元部員はこのような罰走や参加強要によって強いショックを受け、適応障害を発症したとして、顧問らの行為が体罰やパワーハラスメントにあたるとして、県に賠償をもとめ、2024年2月に松山地裁に提訴していた。
原告代理人の岩熊豊和弁護士によれば、今年3月に裁判上の和解が成立。顧問による言動が学生への配慮を欠いた違法なものだと確認し、50万円の解決金の支払いなどが約束された。
そもそも顧問からの体罰のきっかけは「LINEスタンプ」だった。元部員の友人が、学校の教員の写真を使ったスタンプを作成。元部員らが購入した。それが発覚したことで学校から反省文の提出などを求められていた。
学校でのトラブルとはいえ、部活と関係のないところで起きた問題について、罰走を命じたことになる。
●どんな指導が部活の「体罰」に該当するのか
部活の指導において教師から生徒への懲戒が体罰にあたるかどうかの判断にあたっては、文部科学省のガイドラインが「社会通念、医・科学に基づいた健康管理、安全確保の点から認め難い又は限度を超えたような肉体的、精神的負荷を課す。(例)・長時間にわたっての無意味な正座・直立等特定の姿勢の保持や反復行為をさせる。・熱中症の発症が予見され得る状況下で水を飲ませずに長時間ランニングをさせる」と事例をあげて示している。
このガイドラインでは「計画にのっとり、生徒へ説明し、理解させた上で、生徒の技能や体力の程度等を考慮した科学的、合理的な内容、方法により、肉体的、精神的負荷を伴う指導を行うことは運動部活動での指導において想定されるものと考えられます」とも記されている。
スポーツの問題に取り組んできた岩熊弁護士は、「逆に言えば、生徒に説明せず、生徒に理解させず、生徒の技能や体力の程度等を考慮した科学的、合理的な内容、方法によらずに、肉体的、精神的負荷を伴う指導を行うことは、体罰に該当することとなります」と解説する。
そして、岩熊弁護士は、今回の出来事をめぐり、顧問らが「罰走」が体罰にあたるという認識を持っていなかったようだと指摘。
「顧問は『体力トレーニングを兼ねることができるから一石二鳥』という理由でランニングマシンを走らせています。また、元部員が走ることを承諾したと主張しました。このような主張からは、学校側には、罰走が体罰に当たるという認識はなかったと考えられます。
なお、県の教育委員会保健体育課の担当者も、罰走について『たとえば、何か忘れ物をしたとか、練習不足の部分があったとか、何かさぼっていることがわかったというようなことがあったときに、悪いことがあったあるいは練習不足があったことを理由に、指導の対象として、特定の人間に走ってこいと言ったことがある』などと元部員の親に発言しました。
県教委でも、罰走が体罰に当たるという認識がなかったことを裏付けているものと考えています」
●部活とは関係のない「トラブル」でさらに処分を与えることの問題は
さらに、そもそも部活と直接関係ない場面で生じた出来事について、空手部員としての立場を理由に罰としてランニングさせたことが「教育的な指導として適切であったのか」と疑問視した。
「生徒への指導は、教育的な目的に則ったものであることが求められます。元部員に対して、学校側がすでに『反省文』を書かせるという指導を実施していたのに、顧問は空手部の部員であることを理由に1時間のランニングを課しました。
この点について、被告側から合理的な根拠や具体的な説明はされていません。また、元部員が空手部にどんな迷惑をかけたのかも明らかにされていません」