1994年のプロ野球・ドラフト会議。同姓同名の選手がたまたま呼ばれたことをきっかけに、田中宏和さんは、同じ名前の人たち(同音異字も含む)と出会うことを始めた。
「田中宏和の会」を立ち上げ、いまや「ほぼ幹事の田中」として、30年に渡る活動のなかで269人のタナカヒロカズさんたちとつながった。2022年には178人が集まりギネス世界記録を達成。2023年にセルビアで記録を塗り替えられたため、10月18日には150人が参加し、再度のギネス世界記録にも挑戦。残念ながら記録達成は逃したが、まだまだ活動を続ける意欲に満ちている。
誰よりも「人の名前」を見つめ続けてきた田中さんは、著書『全員タナカヒロカズ』(新潮社)のなかで、結婚したときに夫婦で同じ姓にするか、別の姓にするかを選べる「選択的夫婦別姓」に賛成の立場を示す。
インタビューで田中さんは「賛成反対双方の意見を理解できるが、私は導入すべきだと思います」と語った。(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)
●共通の経験から生まれる独特の連帯感
同姓同名も200人以上集まれば多彩だ。警察官の田中さん、弁護士の田中さん、司法書士の田中さん、消防士の田中さん——。「政治家の田中さんはまだいないがいずれ出るのでは」と田中さんは話す。
「同じ名前」というだけで、グッと距離が近づく気持ちになる経験ならある。しかし、数十人、数百人の同姓同名が集まったときの高揚を経験する人はなかなかいないだろう。
2022年には178人の田中宏和さんが集まり、「同姓同名の最多人数の集まり」としてギネス世界記録を打ち立てた。
田中さんは同姓同名でつくられる集団を「拡張親族」と呼ぶ。共通の経験があり、独特の連帯感が生じるという。
●閉じられた集団を形成して気づいた多様性の可能性
世界各国の名前事情に触れてきた田中さんは、「選択的夫婦別姓」について、「世界的な傾向で言えば普通の制度です。世界的にみたら日本のほうが特殊だと思います」と指摘する。
今では集団の顔役として「今や特許庁に商標として登録できた『タナカヒロカズ』ブランドを守る者になったこともあり、自分は『タナカヒロカズ』以外にはなれない」と話すが、別姓には賛成だ。
「僕は名前に多様性があるべきと思っていて、結婚したら女性が無理くり男性の姓になるのはどうかと思うんです。選択的夫婦別姓に反対する人の中には、日本古来の伝統や家父長制を守るべきという立場のかたもいらっしゃいます。しかし、人口の減少とともに、どんどん珍しい姓が消えていく現状があります。
たとえば、なくなりゆく日本の少数言語と同じように、多様な姓を守っていくことと日本文化を守ることの考えには共通するところもあるのではないでしょうか」
活動を通じて、会社の仕事では会わないような人と出会う楽しみがあるという。
田中さん
「同姓同名の人と出会う楽しみがあります。しかし、同姓同名として閉じた活動と思われがちですが、普段なら出会えない人と出会えて世界が広がっていくんです。まるで閉じることで開かれていく感覚です」
同姓同名という極めて単一的な属性をもつ集団ながら、多様性がもたらす可能性を感じることができたのだと強調した。
2022年の記録はすぐにセルビアで抜かれてしまった。10月18日には2度目になるギネス世界記録にチャレンジし、150人を集めた。記録更新に必要な256人には惜しくも届かなかった。