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酷暑の2023年が及ぼした「最大の虫害」 カメムシ大量発生から市民と作物を守る戦い
2023年12月21日 10時13分

2023年の夏は記録的な暑さとなった。6〜8月の平均気温の基準値(1991〜2020年の平均値)との差は「+1.76℃」。1898年の統計開始以来、2010年(+1.08℃)を上回る最高値だった。

この猛暑・残暑の影響で夏から11月中旬ごろにかけて、「カメムシ」が大量発生した。カメムシ亜目に属する昆虫の総称で、異臭を放つことから「クサムシ」や「こき虫」という俗称がある。この虫の“被害”にあった方も多くいるのではないか。

農林水産省は2023年度、農作物に害を及ぼすカメムシに関する注意報を24府県に発令。ネット上でも「カメムシ発生」のワードが飛び交った。

高齢化する地方からは「もう自分では捕れない」「毎年、悪臭と暮らすのは耐えられない」などの悲鳴が上がっているというのだ。カメムシから市民を救出するために財政出動した自治体を取材し、“猛暑の跡”を振り返りたい。(ライター・望月悠木)

2023年の夏は記録的な暑さとなった。6〜8月の平均気温の基準値(1991〜2020年の平均値)との差は「+1.76℃」。1898年の統計開始以来、2010年(+1.08℃)を上回る最高値だった。

この猛暑・残暑の影響で夏から11月中旬ごろにかけて、「カメムシ」が大量発生した。カメムシ亜目に属する昆虫の総称で、異臭を放つことから「クサムシ」や「こき虫」という俗称がある。この虫の“被害”にあった方も多くいるのではないか。

農林水産省は2023年度、農作物に害を及ぼすカメムシに関する注意報を24府県に発令。ネット上でも「カメムシ発生」のワードが飛び交った。

高齢化する地方からは「もう自分では捕れない」「毎年、悪臭と暮らすのは耐えられない」などの悲鳴が上がっているというのだ。カメムシから市民を救出するために財政出動した自治体を取材し、“猛暑の跡”を振り返りたい。(ライター・望月悠木)

●QOL向上へ「役場でどうにかして」

「一升マスいっぱいに入っているカメムシの写真を持参され、『家屋内のカメムシの数です。毎年こんなにたくさんのカメムシと、その悪臭と暮らすのは耐えられない』という声がありました」

福島県金山町では、一般住宅、建物の居住用部分、地区集会所、宿泊施設を対象とした補助金を2020年から支給している(農業用途は対象外)。

カメムシやスズメバチ、シロアリといった日常生活に害を及ぼす害虫の駆除を業者に依頼した際に発生する費用に対するもので、「利用者は毎年30~40世帯で全世帯の4%ほど。補助制度の利用者数としては多い方です」と担当者は説明する。

「金山町では以前から家屋内にカメムシが大量発生していましたが、近年は虫に対する町民の不快感が以前より増したように思います。

加えて、高齢化が進むにつれ、雪国特有の大きな家屋に大量にすむカメムシを駆除することは大変な負担になっています。

ひと昔前であれば『そういうものだ』『出れば捕るしかない』で済ませていましたが、労力や体力を割く余裕のある人は減っています。住民の考え方が『役場でどうにかしてほしい』と変化したことも補助制度を始めた理由です」

制度開始後は「『助かった』といった声を多くいただいている」とし、「高齢世帯の負担を軽減することができ、住民の生活の質(QOL)向上にもつながった」と影響の大きさと手ごたえを口にした。

●補助金手厚くして「1等米比率が概ね回復」

他の地域では、深刻な農業被害も出ている。鳥取県南部町とJA鳥取西部は11月29日、水稲がイネカメムシの食害にあったとして、県に農家への支援を要請した。

もっとも、カメムシ被害は2023年にはじまった話ではない。以前から農作物を食い荒らす“害虫”対策に農業関係者は悩ませており、カメムシ防除(駆除)のために補助金制度を設けるなどカメムシ対策に乗り出している自治体は複数ある。

茨城県つくばみらい市では現在、水稲農家を対象に、カメムシ防除に効果のある薬剤の購入費について最大50%の補助金を支援している。

市の担当者は、「水稲を加害するカメムシ類は、籾を吸汁して“斑点米”と呼ばれる部分的に黒く変色したお米を発生させ、玄米の等級低下を引き起こす」と説明する。

「等級低下は米価を下げ、農家の収入に大打撃を与えます。そこで水稲病害虫対策として、2006年度より苗箱用薬剤購入費の一部を補助しており、2012年度よりカメムシ防除の薬剤も補助対象に加えました」

しかし、近年のカメムシ大量発生で「農協で最も品質が高いとされる1等米比率が例年の90%超から、2020年産米は70%台に留まった」というほどの深刻な被害につながった。

「市が次期作に向けての対策を検討するため、市内水稲農家と意見交換を行う中で『米価低迷の中、資材が高騰しており、防除対策を講じようにもコスト的に厳しい』という意見が少なくありませんでした。そこで補助率を最大50%まで引き上げ、農家のコスト負担の軽減を図りました」

金銭的な支援を手厚くした効果には手応えがあったようだ。

「農家から『薬剤が買いやすくなってカメムシ防除に取り組みやすくなった』『薬剤の購入費用にお金がかかっていたため助かった』といった声をいただきました。

また、補助金を活用して多くの農業従事者にカメムシ防除に取り組んでもらった結果、2021年産米では1等米比率が概ね回復しました」

無人ヘリコプターを使用して市内の稲作圃場にカメムシ対策の薬剤を散布する取り組みを実施している愛知県弥富市では、カメムシ防除の薬剤を散布した面積1平方メートルにつき0.30円を補助している。

「あいち海部農協から『カメムシによる米の被害が大きく、収穫に影響が出ている』『防除費用の補助をしてほしい』といった相談が多く、2021年から始めました」(市の担当者)

2021年度は338万円の予算に申請34件、執行額167万4380円。2022年度は240万円の予算に対し、52件の申請があり、執行額は258万6107円と前年超えでした」

補助金の利用は徐々に広がってきているようだ。

【筆者プロフィール】望月悠木:主に政治経済、社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。Twitter:@mochizukiyuuki

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