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ソフトバンク騙った「投資詐欺」、逮捕された元部長の「巧妙な手口」も…SB本体の使用者責任は問えるのか?
2023年12月05日 11時09分
#ソフトバンク #投資詐欺

ソフトバンクの名前を使った架空の投資話をもちかけて、会社経営の男性から12億円を騙し取ったとして、ソフトバンクの元部長ら3人が詐欺容疑で警視庁に逮捕された。

報道によると、3人は2022年1月から3月にかけて、ソフトバンク本社の会議室で投資家らを集めて虚偽の資料を示し、会社経営の男性から12億円を騙し取った疑いが持たれている。この際、ソフトバンクのロゴが入った資料を使うなど、巧妙な手口だったという。

まだ捜査の途中ではあるが、被害総額は13億円にのぼるとも報じられている。被害にあったとされる人がソフトバンクに損害賠償を請求することは可能だろうか。同様の事件を手がけたことのある澤井康生弁護士が解説する。

ソフトバンクの名前を使った架空の投資話をもちかけて、会社経営の男性から12億円を騙し取ったとして、ソフトバンクの元部長ら3人が詐欺容疑で警視庁に逮捕された。

報道によると、3人は2022年1月から3月にかけて、ソフトバンク本社の会議室で投資家らを集めて虚偽の資料を示し、会社経営の男性から12億円を騙し取った疑いが持たれている。この際、ソフトバンクのロゴが入った資料を使うなど、巧妙な手口だったという。

まだ捜査の途中ではあるが、被害総額は13億円にのぼるとも報じられている。被害にあったとされる人がソフトバンクに損害賠償を請求することは可能だろうか。同様の事件を手がけたことのある澤井康生弁護士が解説する。

⚫️使用者責任を問える「要件」は?

詐欺が事実だった場合、被害者がおこなった元部長ら3人に対して損害賠償請求できるのは言うまでもありません。しかし、このような詐欺をおこなう人たちに損害賠償を請求しても、一般的にお金を取り戻すことは困難です。

そこでソフトバンク本体に損害賠償請求することができないのかが問題になります。このようなケースを『取引的不法行為』というのですが、民法の使用者責任の規定に基づいて元部長の使用者であるソフトバンクに損害賠償請求できないかを検討します。

使用者責任というのは使用者(会社)が被用者(従業員)を使って事業をおこなっている場合に、被用者が事業を執行する過程で第三者に損害を与えた場合、使用者も責任を負うという制度です(民法715条)。

今回のケースの場合、ソフトバンク本体の事業とは無関係に詐欺をおこなっているようですから、「事業の執行」といえるかどうかが、問題となります。判例(最高裁平成22年3月30日判決等)をみてみましょう。

最高裁は、次の2つの要件を満たす必要があるとしています。

(1)使用者の事業(事業と密接な関連を有するものも含む)の範囲に属すること。被用者が個人としての立場でおこなった詐欺行為はこれに該当しない。

(2)被用者の職務の範囲に属すること。使用者が会社であるなど多数の被用者間に職務を分掌させている場合には当該被用者の分担する職務の範囲に属すること(行為の外形から観察してあたかも被用者の職務の範囲に属するものと認められる場合も含む)。

ソフトバンクの場合はどうでしょうか。

(1)について、今回のケース本件の場合、ソフトバンクの店頭システムの更新事業を装った投資詐欺ですが、投資相手が誰の名義になっていたのかは報道からはわかりません。仮にソフトバンク本体が契約の相手方になっていたのであれば、この要件を満たす可能性があります。

これに対して、元部長や別の会社が契約相手になっていた場合は、被用者が個人としての立場でおこなった詐欺行為ということになり、要件を満たさないことになります。

つぎに仮に(1)を満たしたとして(2)の要件を検討してみましょう。元部長はDX統括部長だったので、ソフトバンクの店頭システム更新事業はその担当する職務の範囲に含まれそうですが、そのためにわざわざ外部からの資金調達や投資を勧誘するまでの職務権限はなかったのではないでしょうか。

そうすると最高裁が要求する2つの要件を満たすのは難しいということになります。

⚫️銀行員が銀行を舞台に架空投資詐欺…判決は?

では、過去にもあった同様の事件も検討してみます。

たしかに今回のケースは、ソフトバンク本社の会議室で20回も説明会を開催し、資料にソフトバンクのロゴまで入れていたことから、被害者がソフトバンクの事業であると信用するのもやむを得ないともいえます。

しかし、今回のケースと同様に銀行員が銀行を舞台にして架空投資詐欺をおこなった事件についての裁判例(東京地裁平成30年11月27日判決)では、次のように判示しています。

(1)については、投資案件に銀行が関与していると誤信させるような説明がおこなわれたり、銀行本店の応接室において勧誘がおこなわれた事情があったとしても、スキーム上は投資家が銀行員個人に投資する形態になっていたことから、その銀行員が個人としての立場でおこなった詐欺行為に過ぎない。

(2)については、その行員(審査役)の職務は融資の審査であり、資金調達や投資勧誘は職務内容に含まれないとしてこれも否定しました。

また、銀行の勤務時間内に銀行の応接室を利用して勧誘をおこなったことや銀行の名刺、封筒、FAX送信状を用いて加害行為をおこなった事情があっても(1)(2)の要件を満たすことにはならないと判断されました。

以上より、従前の裁判例の事案と比較して検討すると、ソフトバンク本体の使用者責任を追及するのは難しいということになりそうです。ただし、あくまで現時点で報道されている事実だけを前提に検討したので、新たな事実が出てきた場合には結論が変わるかもしれません。

過去に私も、ある保険会社の社員が取引先に対して詐欺行為をおこなった裁判を手がけた経験がありますが、判例の求める要件を満たすのは、なかなか難しく苦労した覚えがあります。

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