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高校野球部員の自殺から13年、遺族が再発防止動画に批判「教師の責任を生徒に転嫁している」
2025年09月12日 11時03分
#自殺 #不適切指導 #岡山操山高校

2012年7月、岡山県の名門公立校の野球部マネージャーだった男子生徒(当時16歳・高校2年)が自ら命を絶った。亡くなる直前、野球部監督の教諭から激しく叱責を受けていた。

第三者調査委員会は2021年3月の報告書で「不適切な指導が自殺の原因」と認定。県教育委員会は今年8月、再発防止策の一環として「教育動画」を制作し公開した。

しかし、遺族は「核心部分を反映しておらず、教師側の責任を生徒に転嫁している」と強い違和感を示し、再発防止策として不十分だと批判している。(ライター・渋井哲也)

2012年7月、岡山県の名門公立校の野球部マネージャーだった男子生徒(当時16歳・高校2年)が自ら命を絶った。亡くなる直前、野球部監督の教諭から激しく叱責を受けていた。

第三者調査委員会は2021年3月の報告書で「不適切な指導が自殺の原因」と認定。県教育委員会は今年8月、再発防止策の一環として「教育動画」を制作し公開した。

しかし、遺族は「核心部分を反映しておらず、教師側の責任を生徒に転嫁している」と強い違和感を示し、再発防止策として不十分だと批判している。(ライター・渋井哲也)

●男子生徒が追い詰められた経緯

男子生徒は2011年4月、岡山県立岡山操山高校に入学。野球部に選手として所属していたが、翌年6月にマネージャーになった。そして2012年7月26日、警察により自宅近くで亡くなっているのが発見された。

調査報告書などによると、監督は日常的にペナルティとして、部員にランニングを課し、道具の片付けができていないと、罰として走らせることもあった。男子生徒が叱責を受けた場面は複数にわたる。

2012年5月:鳥取遠征の練習試合前、捕球困難な打球を連続で打つノック「エンジョイタイム」で守備についた男子生徒は声が出せなくなった。監督は「声を出せ」「気合いがないのなら帰れ」「いらんわ、お前なんか制服に着替えて帰れ」と怒鳴り、結局、一日ベンチ外で過ごした。

6月:練習試合後、男子生徒は母親に「もう耐えられない。もう嫌じゃ。もう辞める」と訴えて退部したが、3年生引退後、マネージャーとして復帰を考えた。

7月23日:男子生徒は朝練で復帰を直訴し、監督は「もうやめられんぞ」などと復帰を認めた。しかし、ミーティングで意見を言わなかったことを咎められ、「マネージャーなら自分から気づいて板書くらいしろ」などと叱責された。

7月24日:炎天下で練習で、熱中症の症状が出た部員を保健室へ連れて行ったところ、「無断で連れていった」と激怒された。

7月25日:猛暑の中で3時間のノックがおこなわれ、「声を出さなかったらマネージャーの存在価値はねーんじゃ」と叱責。さらに練習後のミーティングが終わっても一人残されて「マネージャーなんだからマネージャーの仕事をしろ」と叱責された。

帰宅途中、男子生徒は他の部員に「もう俺はマネーじゃない。存在しているだけだ」と漏らし、その日の夜、自宅を出て自殺した。死亡推定時刻は午後8時ごろとされる。

●動画の目的は「再発防止」にあるが・・・遺族は疑問を抱く

県教育委員会によると、教育動画の目的は「不適切な指導の再発防止」にある。

生徒や保護者が問題に気づき、専門家に助けを求められるようにし、教職員が自身の行動を振り返って体罰やハラスメントをなくすことを狙ったという。

動画制作は2024年4月に公表され、再発防止の実効性を高めるために、県教委は、大学教授、精神科医、弁護士の計4人の外部有識者から意見を聴取した。

公開された動画は「導入」「事例」「まとめ」の3部構成で、生徒用・教職員用・特別支援児童生徒用がある。

「事例」では、柔道部・サッカー部・野球部の部活動や授業中の場面を取り上げ、野球部のケースは、男子生徒の事案を踏まえている。

「まとめ」では、生徒用は「SOSの出し方」や相談窓口の紹介、教職員用は注意点の確認と相談窓口の提示となっている。

しかし、遺族は、動画の内容に強い疑問を抱いている。

教職員用の「導入」については「体罰に該当すると考えられる事例が10年前のままだ。13年前に息子が亡くなった直後から悲願してきたが、私たちの意見が十分反映されていない」と不満を述べる。

さらに生徒用の「まとめ」では、「学校から体罰や不適切な指導、ハラスメントをなくしていくために、みなさんも家族や友だちと話してみませんか」と呼びかけているが、遺族は「教師の責任を生徒に転嫁するものだ」として繰り返し修正を求めたのに反映されなかったという。

●男子生徒の自殺から13年

男子生徒の自殺から13年。遺族は一貫して再発防止策の実現を求めてきたが、第三者調査委員会設置までに6年、調査報告書公表まで3年、再発防止策実施までにさらに4年を要した。

今回の動画公開について、遺族は「息子の死を無駄にしないため、県教委へできる限りの働きかけを継続していく」としつつも、「遺族の心情に寄り添わない県教委と遺族単独の対峙は難しい」と語る。

今後は、動画の問題点を全国の有識者と共有し、県教委のホームページや報道を通じて、再発防止策の評価・検証が注目されるよう働きかけたい考えだ。遺族は、動画を含む再発防止策や県教委の体質改善につながることを期待している。

■教職員による体罰・不適切な指導・ハラスメント防止に係る教育動画
https://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/988818_9526699_misc.pdf

■遺族コメント「教育動画の問題点と今後の的確な再発防止策等の改善に向けた遺族の思い」
https://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/988818_9575975_misc.pdf

■岡山県立岡山操山高校生自殺事案に関するお知らせ
https://www.pref.okayama.jp/site/16/769713.html

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