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エジプト「気球墜落事故」 旅行会社 「免責同意書」の効力は?
2013年02月28日 23時20分

エジプトの観光地ルクソールで起きた熱気球墜落事故は、日本人4人を含む19人が死亡する惨事となった。報道によると、ツアーを主催した日本の旅行会社は「万一の事故があっても、一切の責任を負わない」とする同意書を事前に用意して、ツアー客にサインを求めていたとされる。

このような「免責同意書」に署名していた場合、事故にあって死亡したツアー客の遺族は旅行会社や気球運行会社にして、文字通り「一切」損害賠償を請求できなくなってしまうのだろうか。大手保険会社の勤務経験があり、事故賠償や保険について詳しい好川久治弁護士に話を聞いた。

 ●「一切責任を負わない」という同意は「無効」とされる可能性が高い

――「免責同意書」の法的な効力はどうなのでしょうか? サインしたら一切、損害賠償請求できないのでしょうか?

まず、ツアー客は旅行会社との間で旅行に関する契約を結んでいますので、その内容を定めた「旅行約款」が適用されます。今回は企画旅行ですから、その条項が適用されるのですが、約款では、死亡事故等が発生した場合に旅行会社側が原則として賠償責任を負うことになっています。

それを免除するとしたのが、今回の「同意書」です。報道によると、この同意書は、事業者と消費者との間に結ばれた契約にもとづく責任を「すべて免除」する内容のようですが、そのような条項は、消費者契約法8条1項1号で無効とされています。つまり、一切責任を負わないという「同意」は、無効であるとされる可能性が高いということです。

ただし、旅行会社に損害賠償責任が発生するためには、旅行会社に「過失又はこれと同視すべき事情」があったといえなければなりません。すなわち、旅行会社には旅行者の安全を確保するべき注意義務があって、それに反していたと認められなければ、そもそも旅行会社の責任は発生しないわけです。

●旅行会社に賠償責任があるかどうかは、具体的事情による

――旅行会社に「過失」があったといえるのでしょうか?

現段階では詳しい情報が明らかになっていないので、その点については何ともいえません。旅行会社の従業員が事故を起こした気球の運航に直接関与していたのであれば、もちろん責任は発生します。

しかし、今回のケースでは、旅行会社と運航会社との間に、数社の独立の事業者が受託業者として関わっていたようですので、旅行会社には選任監督上の責任があるとはいえ、およそコントロールの及ばない末端の事業者の行為についてまで責任を負うことになるかどうかは具体的事情次第です。

――もし旅行会社に責任がないとなった場合、現地の会社に損害賠償を請求できますか?

ツアー客と現地の運航会社との間に契約があったとすれば、契約にもとづいて安全に運航する義務に違反したとして責任を追及できるでしょうし、契約がなくても、不法行為に基づく責任を追及することは考えられます。

ただ、海外の業者ですから、現地の法律もわからない遺族が、現地に赴いて裁判を起こすのは現実的ではないでしょう。したがって、旅行会社や旅行手配代理業の会社に責任追及していくのが自然な流れといえます。

●旅行約款の「特別補償」が適用される可能性がある

――旅行会社に過失責任はなく、現地の会社の責任を追及するのも難しいとしたら、遺族は泣き寝入りするしかないのでしょうか?

実は、旅行約款の中には「特別補償」という規定があって、旅行会社の責任の有無にかかわらず、旅行客が「募集型企画旅行」の参加中に損害を被った場合には、旅行会社が一定の金額を補償金・見舞金として支払うこととされています。

そのため、今回の事故が、「募集型企画旅行」に参加中の事故に当てはまるといえるかどうかが問題になってきます。

もちろん、補償金や見舞金は遺族が被った損害の全てを補てんするものではありませんので、遺族がその金額に納得できなければ、旅行会社に対し訴訟を起こし、補てんされなかった部分の損害を請求していくことになるでしょう。

(弁護士ドットコムニュース)

エジプトの観光地ルクソールで起きた熱気球墜落事故は、日本人4人を含む19人が死亡する惨事となった。報道によると、ツアーを主催した日本の旅行会社は「万一の事故があっても、一切の責任を負わない」とする同意書を事前に用意して、ツアー客にサインを求めていたとされる。

このような「免責同意書」に署名していた場合、事故にあって死亡したツアー客の遺族は旅行会社や気球運行会社にして、文字通り「一切」損害賠償を請求できなくなってしまうのだろうか。大手保険会社の勤務経験があり、事故賠償や保険について詳しい好川久治弁護士に話を聞いた。

 ●「一切責任を負わない」という同意は「無効」とされる可能性が高い

――「免責同意書」の法的な効力はどうなのでしょうか? サインしたら一切、損害賠償請求できないのでしょうか?

まず、ツアー客は旅行会社との間で旅行に関する契約を結んでいますので、その内容を定めた「旅行約款」が適用されます。今回は企画旅行ですから、その条項が適用されるのですが、約款では、死亡事故等が発生した場合に旅行会社側が原則として賠償責任を負うことになっています。

それを免除するとしたのが、今回の「同意書」です。報道によると、この同意書は、事業者と消費者との間に結ばれた契約にもとづく責任を「すべて免除」する内容のようですが、そのような条項は、消費者契約法8条1項1号で無効とされています。つまり、一切責任を負わないという「同意」は、無効であるとされる可能性が高いということです。

ただし、旅行会社に損害賠償責任が発生するためには、旅行会社に「過失又はこれと同視すべき事情」があったといえなければなりません。すなわち、旅行会社には旅行者の安全を確保するべき注意義務があって、それに反していたと認められなければ、そもそも旅行会社の責任は発生しないわけです。

●旅行会社に賠償責任があるかどうかは、具体的事情による

――旅行会社に「過失」があったといえるのでしょうか?

現段階では詳しい情報が明らかになっていないので、その点については何ともいえません。旅行会社の従業員が事故を起こした気球の運航に直接関与していたのであれば、もちろん責任は発生します。

しかし、今回のケースでは、旅行会社と運航会社との間に、数社の独立の事業者が受託業者として関わっていたようですので、旅行会社には選任監督上の責任があるとはいえ、およそコントロールの及ばない末端の事業者の行為についてまで責任を負うことになるかどうかは具体的事情次第です。

――もし旅行会社に責任がないとなった場合、現地の会社に損害賠償を請求できますか?

ツアー客と現地の運航会社との間に契約があったとすれば、契約にもとづいて安全に運航する義務に違反したとして責任を追及できるでしょうし、契約がなくても、不法行為に基づく責任を追及することは考えられます。

ただ、海外の業者ですから、現地の法律もわからない遺族が、現地に赴いて裁判を起こすのは現実的ではないでしょう。したがって、旅行会社や旅行手配代理業の会社に責任追及していくのが自然な流れといえます。

●旅行約款の「特別補償」が適用される可能性がある

――旅行会社に過失責任はなく、現地の会社の責任を追及するのも難しいとしたら、遺族は泣き寝入りするしかないのでしょうか?

実は、旅行約款の中には「特別補償」という規定があって、旅行会社の責任の有無にかかわらず、旅行客が「募集型企画旅行」の参加中に損害を被った場合には、旅行会社が一定の金額を補償金・見舞金として支払うこととされています。

そのため、今回の事故が、「募集型企画旅行」に参加中の事故に当てはまるといえるかどうかが問題になってきます。

もちろん、補償金や見舞金は遺族が被った損害の全てを補てんするものではありませんので、遺族がその金額に納得できなければ、旅行会社に対し訴訟を起こし、補てんされなかった部分の損害を請求していくことになるでしょう。

(弁護士ドットコムニュース)

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