女子プロレス選手の股間や臀部など身体の一部を性的に強調したとされる写真がSNS上に繰り返し投稿されていた問題をめぐり、特定した投稿者に法的措置をとった「ワールド女子プロレス・ディアナ」(代表:井上京子選手)は2月27日、裁判上の和解が成立したことを明らかにした。和解は2月17日付。
和解は、投稿者が原告に100万円の解決金を支払い、謝罪するとともに、ディアナの興行に今後来場しないことを約束させるなどの内容。他団体の興行でも、ディアナの選手がリング上にいる間は一時退出する。また、団体や選手に関するSNSなどの発信も禁じた。
開示請求を通じて特定した人物に対して、原告となった成人の選手1人と団体が、約840万円の賠償を求めて2024年1月に東京地裁に提訴していた。
競技中のアスリートを狙った性的な写真の撮影・投稿が問題となるなか、今回の結果が一定の抑止力になってほしいと団体は期待している。
●ほかの観客からもクレームが出ていた
ディアナは代表の井上選手が立ち上げ、ジャガー横田選手らのほか、まだ10代の中高生の選手も所属している。
ディアナ経営企画部長の不破大志さん(左)/原告側代理人の小沢一仁弁護士(2025年2月27日/弁護士ドットコム)
訴状などによれば、被告の投稿者は2023年ころから団体の興行に来るようになり、少なくとも同年4月ころまで、選手らの臀部などの性的な部位をズームした画像をX上に投稿することを繰り返したとしている。
団体側は2月27日に会見した。経営企画部長の不破大志さんによれば、嫌悪を感じた選手からの相談だけでなく、問題視した他の観客からも対策を求めるクレームが団体に届くようになった。
投稿者の目星はついていたが、開示請求手続きをとり、投稿者が誰か特定したうえで、団体の営業権と選手の人格権侵害を理由として、損害賠償請求訴訟を起こすに至った。
事前にXのDMで注意をよびかけていたが、やめようとしなかったという。
団体側代理人の小沢一仁弁護士によれば、裁判官からは営業権および人格権侵害も認容するとの考えを伝えられたという。そのうえで、判決ではなく、解決金の支払いと再発防止策をとれたことを「勝訴的和解」だと評価した。
●競技中のアスリートを狙った性的な画像や動画に課題残る
2023年に「撮影罪」(性的姿態等撮影罪)が施行されたが、競技中のアスリートの性的な部位を着衣の上から撮影する行為は対象とならない。
小沢弁護士は「法律が追いついていない。もう少し法律が踏み込んでくれるとよいと思います」と指摘する。
一方で、100万円の解決金支払いなどの和解の結果が、一定の抑止力としてはたらくのではないかと期待する。
プロではなく、アマチュアの競技団体でも、対策を講じた主催者が当事者となり「支障があって具体的な損害をうけたと主張できるなら、営業権侵害は同じように主張できる」(小沢弁護士)
不破さんは、今回のような競技中の撮影・投稿は「選手のパフォーマンスに関わる。余計なことを考えずにプレーに集中できなくなる。これで競技を断念するようなことがあっては絶対にあってはならない」と強調した。
●守られるべき未成年の選手が裁判手続きをとることにハードルも
なお、今回のような撮影や投稿に対して、選手の間でも「年代間で多少の認識の差があった」と不破さんは明かす。
プロレスというエンタメ性の強い競技ゆえに「ベテランになればなるほど『もっとひどいことがあったわよ』と言う話もあった。ただ、団体には中学生や高校生もいる。学校など一般の社会に身を置いている子もいる。その子たちにとって、SNSでそのような姿を晒される羞恥心ははかりしれない」(不破さん)
特に若い選手から「やめてほしい」とメッセージが届くなど嫌悪感は強かったという。一方で、若い未成年が訴訟の原告になることには団体側も頭を悩ませた。
「未成年の選手は法廷代理人をつけなければならず、必然的に親に話さなければいけない。 親からすれば危なっかしい競技に参加させ続けられないとなりうる。本人はプロレスをやりたがっているのに、この手続きをとることが支障になってはいけないというところで当事者(原告)から外した経緯があり、悩ましかった」(小沢弁護士)
ディアナでは観戦中の撮影・投稿のガイドラインをつくった。女子に限らず、ほかのプロレス団体や選手が賛同している。