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福岡・元祖長浜ラーメン戦争 そっくり店名が密集、商標裁判になったことも
2019年05月11日 09時38分

雨の中、しかも夕飯としては少し早い午後5時にもかかわらず、店外には10人弱の列ができていた。GW10連休中の4月30日、「替え玉発祥の店」としても知られる福岡市のラーメン店「元祖長浜屋」(中央区長浜)の光景だ。

店内では「ナマ」「ベタナマ」「ナマタマ」といった呪文のような注文が響く。ナマとは、ゆで時間が特に短い硬麺のこと。ベタナマはそこに油を多めに加えたもの。ナマタマは替え玉をナマで頼むときの注文法だ。

同店は1952年創業。1955年頃、魚市場の移転にともない長浜エリアに移ってきた。地元民からは「ガンソ」や「ガンナガ」の略称で親しまれている。

元祖長浜屋の行列(2019年4月30日撮影)

しかし、数年前の長浜エリアには半径100mほどの中に、店名に「元祖」と「長浜」を含むラーメン屋が5店舗(同店含む。現在は3店舗)もあって、観光客を混乱させた時期もあった。

中には店同士が商標をめぐって、裁判で争ったことも。福岡地裁で閲覧(2017年9月)した裁判記録などから「元祖長浜」をめぐる争いを紹介したい。

雨の中、しかも夕飯としては少し早い午後5時にもかかわらず、店外には10人弱の列ができていた。GW10連休中の4月30日、「替え玉発祥の店」としても知られる福岡市のラーメン店「元祖長浜屋」(中央区長浜)の光景だ。

店内では「ナマ」「ベタナマ」「ナマタマ」といった呪文のような注文が響く。ナマとは、ゆで時間が特に短い硬麺のこと。ベタナマはそこに油を多めに加えたもの。ナマタマは替え玉をナマで頼むときの注文法だ。

同店は1952年創業。1955年頃、魚市場の移転にともない長浜エリアに移ってきた。地元民からは「ガンソ」や「ガンナガ」の略称で親しまれている。

元祖長浜屋の行列(2019年4月30日撮影)

しかし、数年前の長浜エリアには半径100mほどの中に、店名に「元祖」と「長浜」を含むラーメン屋が5店舗(同店含む。現在は3店舗)もあって、観光客を混乱させた時期もあった。

中には店同士が商標をめぐって、裁判で争ったことも。福岡地裁で閲覧(2017年9月)した裁判記録などから「元祖長浜」をめぐる争いを紹介したい。

●長浜「屋」と長浜「家」

元祖長浜屋から数十メートル離れた、かつての本店跡近くにこんな案内がある。「※元祖長浜屋は家(け)とは関係ありません」ーー。

「※元祖長浜屋は家(け)とは関係ありません」(2019年4月30日撮影)

「家」とは、2009年12月、当時の長浜屋(旧支店)の向かいにオープンした「元祖ラーメン長浜家」(通称:家1)のことだ。

家1は、元々長浜屋のベテランスタッフが大量退職して始めた店だった。やめた理由は労働条件が合わなかったことだという。2009年12月5日の朝日新聞西部夕刊には、「味のベースも値段もスタイルも、元祖長浜屋と同じです」という代表者のコメントが掲載されている。

長浜エリアのイメージ図

しかし、開店直後にスタッフ間で意見の相違が発生。1人がやめることになる。そして、その人物が2010年4月、家1から100mほどのところにオープンしたのが、まったく同じ名前の「元祖ラーメン長浜家」(通称:家2)だった。

看板も店内の雰囲気も出てくるラーメンも、素人目には区別がつきづらい。子どもに向けた「店の中は走り回らないでね」という注意のイラストまで一緒だ。そこで家1は店にこんな掲示をした。

「この度、長浜地区に同類の元祖ラーメン長浜家がオープンしておりますが、当店とは経営上資本上も一切関係有りません。お客様、皆様方には混同されない様、よろしくお願い致します」

さらに、家1は「2号店と誤認される」「間違って食材が届いた」「(客の誤解により)売上が落ちた」などとして、店名変更や損害賠償を求めて裁判を起こした。2010年7月のことだ。

ちなみにその直後、家2の隣に「名物元祖長浜ラーメン 長浜屋台」(元祖長浜屋台)がオープンしている。ここも長浜屋の元従業員が立ち上げにかかわった店だ。

元祖長浜屋台(2019年4月30日撮影)

元々、家2の向かいには「元祖長浜ラーメン ぶんりゅう 本店」(2011年2月に閉店)もあった。長浜エリアにはほかにも複数の有名店があるが、「元祖長浜」を冠した店に限っても、一時期5店舗もあったことになる。

●「うちの看板使っていいけん」許諾発言

どうして、店名を同じ「元祖ラーメン長浜家」にしたのか。訴訟の中で、家2の社長は「共存共栄のため」「友好関係を維持するため」という趣旨の回答をしている。

訴訟記録によると、たもとを分かったとき、人間関係のトラブルはあったものの、家1の社長から「うちの看板使っていいけん、近くで出し」と言われたという。実際、この約束は書面にもなっていた。

ただし、家1の社長によると、その場しのぎで出て来た言葉だという。そもそも「近くに出して良い」とは言っても、まさか100m先にできるとは思ってもみなかった。家1側は、そんなことは想定されていないと主張した。

ところが、裁判では、店の成立過程があだになった。家1が出店したのは、長く働いた長浜屋の真ん前(当時)。距離にして約34mしか離れていなかった。だったら、約100m先に家2ができることも十分想定されていたというべきだ、と裁判所は判示する。

家1と長浜屋、家2との距離

家1側は、家2の社長と書面を交わして1カ月がたった2010年1月、「元祖ラーメン長浜家」を商標出願。同年6月に商標登録されている。

ただし、出願者は家1の社長ではなく、共同経営者を名乗る人物だった。許諾の書面を社長が出していたことから、家2の商標権侵害を指摘するために「迂回」が必要だと考えたようだ。

しかし、裁判を通して、店名使用についての許諾は有効と認められた。商標権の侵害にはならず、家2が「元祖ラーメン長浜家」をそのまま使って良いことになったのだ。

●商標取り消しは認められず

この裁判と並行して、家2による「元祖ラーメン長浜家」(家1)の商標登録取り消しを求める訴えも起こされている。

「長浜家」は、地名を指す「長浜」に、屋号を表す「家」をつけただけで、識別力がない。「ありふれた名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」(商標法3条1項4号)に該当するなどといった主張だ。

しかし、こうした主張は、特許庁の審判でも知財高裁でも否定された。家1の看板には今も「登録商標」の文字が入っている。

家1の看板(2019年4月30日撮影)

●そして家2は中洲川端へ…

法廷での戦いが終わり、2016年6月に家2は長浜エリアから直線距離で2kmほど離れた中洲川端の商店街に移転した。家1の掲示は「長浜地区」が修正され「川端地区」に改められた。

中洲川端の家2(2019年4月30日撮影)

ちなみに源流は一緒だが、長浜屋と家1、家2では料金が異なっている。長浜屋はラーメンが550円、替え玉が150円(4月1日に100→200円にした後、値下げした)。一方、家1はラーメン450円、替え玉100円、家2はラーメン550円、替え玉100円だ(2019年4月30日現在)。

各店舗のラーメン(2017年撮影)

福岡では近年、ほかにも「元祖長浜」を冠するラーメン屋が複数出店しているという。字義通りに考えると「元祖」は1つだけのようにも思えるが、長浜ラーメンにおける「元祖」はもっと広い意味を持っていると言えそうだ。

中央区今泉の元祖長浜ラーメン元長(2019年4月26日撮影)

(弁護士ドットコムニュース)

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