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「女としてみてしまう」取引先からセクハラも、上司は守ってくれず…会社の責任は?
2025年11月08日 09時37分
#環境型セクハラ

「取引先から身体を触られたり、『メスの匂いがする』などと言われたりして不愉快だ。これはセクハラにあたるのか?」という相談が弁護士ドットコムに寄せられました。

相談者は職場で唯一の女性職員だそうです。取引先の業者から、「メスの匂いがする」「女としてみてしまう」「声かわいいね」と言われたり、肩・二の腕・髪の毛に触れられたりしているそうですが、上司も見て見ぬふりをしている状況です。

精神的に辛い状況でも、取引先との力関係から「笑うしかない」状況で、「私が許容していると思われてしまっているのでは」と悩んでいます。

「不愉快な発言や身体接触はセクハラにあたるのか」「取引先が加害者でも、会社側に責任はあるのか」「精神的に辛い状況から即時退職は可能なのか」といった点について、簡単に解説します。

「取引先から身体を触られたり、『メスの匂いがする』などと言われたりして不愉快だ。これはセクハラにあたるのか?」という相談が弁護士ドットコムに寄せられました。

相談者は職場で唯一の女性職員だそうです。取引先の業者から、「メスの匂いがする」「女としてみてしまう」「声かわいいね」と言われたり、肩・二の腕・髪の毛に触れられたりしているそうですが、上司も見て見ぬふりをしている状況です。

精神的に辛い状況でも、取引先との力関係から「笑うしかない」状況で、「私が許容していると思われてしまっているのでは」と悩んでいます。

「不愉快な発言や身体接触はセクハラにあたるのか」「取引先が加害者でも、会社側に責任はあるのか」「精神的に辛い状況から即時退職は可能なのか」といった点について、簡単に解説します。

●「セクハラ」にあたる場合とは?

今回の事例で問題となるのは、取引先の業者からの「メスの匂いがする」といった発言や、肩・二の腕・髪の毛に触れるといった行為です。これらは職場におけるセクシュアルハラスメント(セクハラ)にあたるのでしょうか。 セクハラにはいくつか類型がありますが、今回のケースは、就業環境が害される「環境型セクハラ」にあたるかが問題となると考えられます。

「就業環境が害された」かどうかは、被害者本人の主観だけでなく、「平均的な労働者の感じ方」を基準に判断されます。具体的には、性的な言動の内容や程度、継続性・頻度などを考慮して、一般的な労働者にとっても就業環境が不快なものとなり、看過できない程度の支障が生じているかを判断します。

本事例では、取引先から「メスの匂いがする」「女としてみてしまう」といった性的な発言がおこなわれています。これらは明らかに相手を性的な対象としてみる内容であり、業務上必要のない性的な言動です。

また、肩や二の腕、髪の毛に触れるという身体接触もあります。これも業務遂行に必要のない、身体的な接触を伴う性的な言動といえます。

このような性的な発言や身体接触が繰り返される状況は、平均的な労働者の感じ方からみても、就業環境を不快にし、仕事をする上で看過できない程度の支障が生じるほどの苦痛を与えるものといえます。

したがって、本事例は環境型セクハラに該当すると判断できます。

なお、加害者が「取引先」であっても、この結論は変わりません。職場という働く場所で、性的な言動により就業環境が害されている以上、加害者が社内の人間か社外の人間かは関係なく、セクハラは成立します。

●笑顔で対応していても、セクハラは成立する

相談者は、取引先とのパワーバランスから笑顔で対応せざるを得ず、「許容していると思われてしまっているのでは」と心配されています。 しかし、その場を笑って取り繕ったとしても、セクハラの成立には影響しません。セクハラかどうかの判断は、「平均的な労働者の感じ方」という客観的な基準でおこなわれるため、被害者が明確に拒否の意思を示したかどうかは必須の要件ではないのです。

もちろん、はっきりと「やめてください」と意思表示できれば理想的ですが、取引先との力関係や職場の状況から、それが難しい場合も多くあります。本事例のように、相談者が精神的に辛い状況にありながら笑顔で対応せざるを得ないという状況そのものが、就業環境が害されていることを示しているともいえます。

したがって、笑顔で対応していたからといって、「許容していた」とはみなされず、セクハラの成立を妨げるものではありません。

●取引先が加害者でも、会社には対応義務がある

今回のケースで特に問題なのは、加害者が取引先の業者であるにもかかわらず、上司が「取引先とのパワーバランスがあるため」と何も対応していない点です。

「取引先だから会社は関係ない」と思われるかもしれませんが、そうではありません。

事業主は、職場におけるセクシュアルハラスメントへの対策を講じる義務があり、その義務の対象には、取引先の従業員など、他の事業主が雇用する労働者や、事業主が雇用する労働者以外の者からの行為も含まれます。(「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成18年厚生労働省告示第615号)」参照)

つまり、取引先からのセクハラであっても、会社には対応する法的義務があるのです。

また、労働契約法第5条では、使用者は労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする「安全配慮義務」を負うことが定められています。これには、セクハラにより就業環境が害されないように配慮する「職場環境配慮義務」も含まれます。

具体的には、会社は取引先に対してハラスメント行為の中止を求めたり、相談者が取引先と接触しなくて済むよう配置転換を検討したり、といった対応が求められます。それにもかかわらず、本事例では会社側がこうした対応を怠っているため、職場環境配慮義務に違反していると考えられます。

なお、取引先の従業員が加害者である場合、加害者自身は不法行為責任(民法709条)を負い、取引先の会社は使用者責任(民法第715条)を負う可能性があります。

●セクハラを理由に即時に退職できる?

セクハラによる精神的な苦痛から即時退職を検討する場合、法的には、雇用契約の期間の定めがある場合と、ない場合による違いがあります。

1)期間の定めのない雇用契約の場合

民法第627条第1項により、労働者はいつでも退職(解約の申し入れ)ができ、退職の申し入れから2週間が経過することで労働契約が終了します。

法的には即時の退職とはいえないように思えますが、セクハラによる精神的苦痛を受けている状況で会社側が労働者に就労を強制することはできないと考えられるため、申し入れ後に会社に働きに行く必要はないと考えられます。

また、会社側が即時退職に合意した場合には合意解約として即時に雇用関係が終了します。

2)期間の定めのある雇用契約の場合

契約期間の途中で退職するためには、原則として民法第628条の「やむを得ない事由」が必要とされています。

会社がセクハラ対策を怠り、労働者の心身の健康が害される状況は、この「やむを得ない事由」に該当すると考えられます。この「やむを得ない事由」が認められれば、労働者は契約期間の途中であっても、直ちに雇用契約を解除し、即時退職ができると考えられます。

監修:小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)

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