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看護職員の人手不足が悪化 昨年度、約6割の施設で「退職者が採用者数を上回った」 現場から「医療が崩壊する」悲痛な声
2025年06月05日 20時19分
#看護師

今年4月の看護職員の新規採用で、約4割の医療機関で募集定員を満たせなかった他、昨年1年間で退職者が採用者数を上回った施設が約6割にのぼるなど、医療機関の深刻な人手不足の実態が日本医療労働組合連合会(医労連)の調査で明らかになった。

6月5日、厚生労働省で会見を開いた医労連の米沢哲書記長は「アンケートでは人手不足の対策として、賃金の引き上げを訴える声が多く寄せられた」と指摘。対策を施さなければ、退職に拍車がかかり、現場がより深刻な過重労働に陥ることで、「患者サービスの質がさらに低下し、医療が崩壊してしまうおそれがある」との危機感を示した。

今年4月の看護職員の新規採用で、約4割の医療機関で募集定員を満たせなかった他、昨年1年間で退職者が採用者数を上回った施設が約6割にのぼるなど、医療機関の深刻な人手不足の実態が日本医療労働組合連合会(医労連)の調査で明らかになった。

6月5日、厚生労働省で会見を開いた医労連の米沢哲書記長は「アンケートでは人手不足の対策として、賃金の引き上げを訴える声が多く寄せられた」と指摘。対策を施さなければ、退職に拍車がかかり、現場がより深刻な過重労働に陥ることで、「患者サービスの質がさらに低下し、医療が崩壊してしまうおそれがある」との危機感を示した。

●「ボーナス減=退職増」の構図

調査(「2025年看護職員の入退職に関する実態調査結果」)は、今年4月1日〜5月7日に実施され、36都道府県の145医療機関が回答した。

調査で特に注目すべきは「年末一時金削減(※冬のボーナス)」が離職に直結した可能性だ。

2024年度に一時金を10万円以上減らした29施設のうち、約64%が退職者数が採用者数を上回っており、「ボーナス減=退職増」の構図が見えるという。23年度は44.4%であったため、わずか1年で約2割増加したことになる。

米沢氏は「医療機関の経営状況の悪化から、年末一時金が大幅に削減され、これが引き金となって退職者の増加に拍車をかけた」とみる。

●人手不足により「ケアの質が低下」

人手不足が医療提供体制に与える影響は深刻だ。

調査では44.8%の施設が、人手不足の影響として「患者サービスの低下」を挙げた。20.7%の施設で「稼働病床の削減」、17.9%が「入院受け入れ制限」に追い込まれているという。

他にも自由回答では、「入浴回数が週2回から週1回に減少」「ベッドサイドに行く時間が限られる」「患者の話が必要最低限」といった声が寄せられた。

労働者(看護職員ら)への影響としては、72.4%の施設で「夜勤回数の増加」、58.6%で「時間外労働の増加」、50.3%で「休暇が取れない」、47.6%で「休憩が取れない」という状況が浮き彫りになった。

会見に臨んだ看護師経験者は、業務時間中はトイレに行く暇もないのが、看護師の「あるある」だという。「こういうことが異常だということも外部の方は指摘してくださるのですが、現場にいると当然のようになってしまっている」と語った。

別の看護師(都内病院勤務)は、「本来毎月8回までとされている夜勤回数が9回、10回と増え、休憩もままならない」と述べた。

●求められる施策は? 現場の声

自由回答では、現場から悲痛な声が上がった。

「賃金が上がらないと人は集まらない。労働に対しての賃金がもらえないと離職は進むばかり。一般企業ではベースアップが進む中看護の賃金は変わらず、看護師を志す人も減っていき、病院はなくなり、突然死などが増えていくと思う」

「一時金や基本給のアップ・手当のアップ、時間外は正当に支給、ゆとりある勤務。解消できない場合、看護崩壊で魅力を感じず、ますます看護師を目指す人はいないし、離職が増える。大企業に比べケア労働者の賃金や環境は改善されず、すでに崩壊状態」

●「過重な労働条件の中でギスギスした職場環境に」

度々SNS等でも話題になるように、看護職員の職場環境には、上司や同僚、医師等からのパワハラや、患者からのハラスメントも横行している。

「人員に余裕がないと、心に余裕がなくなります。近年はベテラン看護師も退職している状況で、指導する側の人も不足し、その分指導側の負担も大きくなっています」(米沢氏)

「過重な労働条件の中で、どうしてもギスギスした職場環境になってしまっているという側面があります」(医労連・松田加寿美書記次長)

魅力的な労働条件を整え、看護職員の職場環境の悪化を食い止め、退職者数を減らす。医療崩壊を食い止めるためにも、どこかで悪循環を断ち切る必要がある。 (弁護士ドットコムニュース編集部・小倉匡洋)

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