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北新地ビル放火殺人事件、夫亡くした遺族が苦しい心境…犯罪被害給付制度は「不十分」
2022年02月22日 10時33分

大阪市北新地の心療内科医院の放火殺人事件では、25人もの死者を出す惨事となった。

衝撃を受ける遺族にとってさらにショックなのは、十分な補償がなされない可能性があるということだ。被害者の多くが無職だったとされることから、犯罪被害給付制度における補償額は、最低で自動車事故で受け取れる補償の3分の1程度になってしまうという。

被害者遺族の代理人をつとめる奥村昌裕弁護士らは国に対して、自動車事故で死亡した場合と同等の補償を要請した。

夫を亡くした遺族は「交通事故には加害者が無保険でも政府補償で自賠責並みの補償が適用されるのに、犯罪被害には被害補償の保障がないのです。なにも悪くないのに。こんなことで命を落とす予定なんてなかったのに」と訴えかけた。

大阪市北新地の心療内科医院の放火殺人事件では、25人もの死者を出す惨事となった。

衝撃を受ける遺族にとってさらにショックなのは、十分な補償がなされない可能性があるということだ。被害者の多くが無職だったとされることから、犯罪被害給付制度における補償額は、最低で自動車事故で受け取れる補償の3分の1程度になってしまうという。

被害者遺族の代理人をつとめる奥村昌裕弁護士らは国に対して、自動車事故で死亡した場合と同等の補償を要請した。

夫を亡くした遺族は「交通事故には加害者が無保険でも政府補償で自賠責並みの補償が適用されるのに、犯罪被害には被害補償の保障がないのです。なにも悪くないのに。こんなことで命を落とす予定なんてなかったのに」と訴えかけた。

●犯罪被害給付制度とは

要請は2月14日、一般社団法人「犯罪被害補償を求める会」がおこなった。

殺人などの故意の犯罪行為によって、死傷した被害者の遺族や障害を負った被害者に、被害の早期軽減とともに再び平穏な生活を再び営むことができるように支援するため、給付金(補償)を国が支払う精度が、犯罪被害給付制度だ。

しかし、自動車損害賠償補償法においては、死亡した場合の補償額が最高3000万円となっているところ、今回の遺族が受け取れる補償額はそれを大きく下回る1000万円程度になりうると懸念する。

要請書では、亡くなった被害者の多くが復職を目指して、通院中であり、実質的に無職であったということが影響するという。

犯罪被害給付制度において、支払われる補償の算出方法は、犯給法(犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律)の施行令などによって定められている。

主に被害者の年齢、収入、扶養していた人数に応じて決まり、最低で320万円、最高で2964万5000円が支払われる(生計維持関係遺族の人数等によっては最高5336万1000円)。

今回、問題にされているのが、算定方法における「収入」である。

被害者が労基法上の労働者である場合、平均賃金(勤労に基づいて通常得ていた収入の日額・被害前3カ月の平均)をベースに遺族給付基礎額が決定される。

また、被害者が労基法上の労働者などにあたらない場合、被害前1年間における収入で勤労に基づくものの総額がベースとなる。

しかし、無職であったり、上記の収入が証明できないときは、通達に基づき収入日額を「0」と算定し、遺族給付基礎額は定められた範囲の最低額で決定される。

たとえば、25歳以上30歳未満の場合の遺族給付基礎額は最低6600円〜最高6900円であり、扶養家族の人数が1人(8歳以上)だった場合で事件当時無職なら、最低額の1009万円(推計)が補償として支払われることになる。

「この補償額は、不慮の事件により頼りとする肉親を失い収入を途絶された遺族にとって、過小である」(要請書)

そこで、「求める会」では、収入の日額計算の柔軟な解釈などによって、交通事故の自賠責の補償と同等にすることを求めた。

なお、支給・不支給の裁定は都道府県公安委員会によってされるが、裁定内容を不服とする場合、国家公安委員会に審査請求をすることができる。

●夫を亡くした遺族「子どもが寂しさ以外の不自由さを感じることがないよう、一生懸命育てていきます」

遺族の1人が会を通じてコメントを発表した。亡くなった夫は、資格を持ち正社員として働きながらも、生きづらさを感じ、退職したうえでクリニックのリワークプログラムを受けることを決めたという。

コメントの一部を引用する。

「わたし以外の身内や友人には、退職し、復職のための療養期間中であることは伏せていました。心配をかけたくないということが第一ですが、現代の日本社会において『無職』という言葉が持つ影響の大きさを無視できなかったからです」

「夫が殺されてしまっても、毎月支払わなければならないものはあります。葬儀の費用も小さくはありません。夫のサポートがあったからこそわたしも働くことができていましたが、いなくなってしまった今、仕事をセーブする必要も出てきました。よって収入も減ってしまいます。

月々の支払いは1度でも滞ると社会的な信用をおおいに失います。こんなときにお金の話か、と思われるでしょうか。しかし、わたしはそういう価値観がある社会で、子どもを育ててゆくのです。夫と一緒に育てていくはずだった子どもを、まだあちこちに夫を感じることができるこの場所で、育てていきたいのです。

そのために法の支えが必要だと思いました。しかしそれは覆されました。

犯罪被害者等給付金の制度についてどのような手続きをとるべきか伺いたく警察に電話しました。しかし窓口の警務部の方から受けた印象は『まだ申請は早いですよ』でした。捜査段階であることを挙げられていたように覚えていますが、さらに追い打ちをかけられたのが、給付額の算定基準が『被害者の被害当時の収入額による』ということでした」

犯罪被害給付制度のパンフレット

「聞けば聞くほどこの制度は『早期に』でも、『再び平穏な生活を営むことができるよう』にでもありませんでした」

「事件の直前に夫から『これからどんな風に働いていくか具体的な道筋が見えてきたから、聞いてほしい。話す時間をつくってほしい』と言われていました。残念ながら夫からプランを聞くことはできませんでしたが、復職して、めいっぱい育児もして、子供の成長をともに見守る日々がそこにはあったのだろうと思います。

でも、夫はもういません。犯罪被害給付がいつ、どのような算定基準で給付いただけるかの、目途も立ちません。それでも、子どもが寂しさ以外の不自由さを感じることがないよう、一生懸命育てていきます」

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