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ドイツでドイツ人がドイツ人を裁くことの意味…映画「アイヒマンを追え!」監督に聞く
2016年12月29日 11時08分

1960年、逃亡中だったナチスの戦犯アドルフ・アイヒマンが南米で拘束され、世界を震撼させた。華々しい大作戦の裏には、あるドイツ人検察官の執念があった。そんな史実をもとにした映画『アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男』(ラース・クラウメ監督)が、1月7日より全国で公開される。

アイヒマンは、600万人ものユダヤ人を強制収容所に移送し、ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)の中心的役割を担った人物だ。ドイツが第二次世界大戦に敗れると国外脱出。それから15年後、アルゼンチンでイスラエルの情報機関モサドによって拘束された後、イスラエル国内で裁かれ、絞首刑となった。その法廷の模様は、テレビで中継され、世界中に衝撃を与えた。

ここまではよく知られた話だが、この映画の主人公でもあるドイツ人検察官のフリッツ・バウアーが、密かにモサドへの情報提供などを通じて協力していたことは「実は、ドイツでもあまり知られていない」とラース・クラウメ監督はいう。来日したクラウメ監督に映画で訴えたかったことについて聞いた。

1960年、逃亡中だったナチスの戦犯アドルフ・アイヒマンが南米で拘束され、世界を震撼させた。華々しい大作戦の裏には、あるドイツ人検察官の執念があった。そんな史実をもとにした映画『アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男』(ラース・クラウメ監督)が、1月7日より全国で公開される。

アイヒマンは、600万人ものユダヤ人を強制収容所に移送し、ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)の中心的役割を担った人物だ。ドイツが第二次世界大戦に敗れると国外脱出。それから15年後、アルゼンチンでイスラエルの情報機関モサドによって拘束された後、イスラエル国内で裁かれ、絞首刑となった。その法廷の模様は、テレビで中継され、世界中に衝撃を与えた。

ここまではよく知られた話だが、この映画の主人公でもあるドイツ人検察官のフリッツ・バウアーが、密かにモサドへの情報提供などを通じて協力していたことは「実は、ドイツでもあまり知られていない」とラース・クラウメ監督はいう。来日したクラウメ監督に映画で訴えたかったことについて聞いた。

●「執務室を出ればそこは敵のいる外国だ」

映画は、国の再建が進み、戦争が風化しつつある1950年代後半のドイツが舞台だ。当時、復興を支えた人たちには、ナチスの元党員たちが多く含まれていた。しかし、バウアーは、戦争中はデンマークやスウェーデンに逃げ、戦後に帰国したユダヤ人だ。

クラウメ監督は、バウアーを「アウトサイダーだった」だと評する。「彼は、社会主義者であり、ユダヤ人、同性愛、そして年をとっていた。ありとあらゆる意味で、アウトサイダーだった。社会が過去に向き合うのに時間がかかり、そのため、彼の物語が埋もれてしまったのかもしれない」(クラウメ監督)

最近、ドイツの司法省がおこなった調査によれば、1957年、ドイツ司法省ではナチスの元党員が77%を占めていたという。

「戦後のドイツは、国の再建こそが最大の目標であり、再建のためには、ナチス政権時代の幹部にあった人物でも、登用せざるを得なかった。そして、バウアーのようなユダヤ系の検事や判事は、ドイツに復讐するだろうと恐れられていた」(クラウメ監督)

バウアーは検事総長という立場でありながら、作品の中で、バウアーの味方となるのは、たった一人の部下だけだ。そして、元ナチス親衛隊だった警察や検察の高官らは執拗に、バウアーの捜査に妨害を仕掛ける。バウアーが「執務室を出ればそこは敵のいる外国だ」と本音を漏らす姿も描かれている。

●「ドイツで、ドイツ人によって、ドイツ人を裁く」

バウアーが国家反逆罪に問われる危険を犯してまでモサドに情報提供したのは、たとえ身柄を拘束したのがイスラエルだった場合でも、引き渡しによって、ドイツ国内での裁判を望んでいたためだった。しかし、ドイツは最終的にそれを受け入れず、イスラエル国内での裁判となってしまう。バウアーはそれでもあきらめなかった。

本作では描かれていないが、その後、「アウシュビッツ裁判」(1963〜1965年)により、彼の願いは叶ったと言えるのかもしれない。ホロコーストに関わったナチスの元党員21人を相手取ったこの裁判に、バウアーは主任検察官としてかかわった。

「バウアーは、『ドイツで、ドイツ人によって、ドイツ人を裁くことによって、我々のおかした罪と向き合える』と考えていた。アウシュビッツ裁判は、重い罪を与えることもできず、素晴らしい成果を残したわけではない。しかし意味はあったはずだ」(クラウメ監督)

後に、バウアーは「『我々の過去』を克服していくためには、我々が公判において、自己を裁くことを求めている」と語っている。この裁判は、わかりやすいかたちではないが、それでも、「我々」が向き合うことはできたのではないだろうか。バウアーから、我々が学べることは何か。

「世界中には様々な問題があります。あまりに大きすぎて、一個人では何もできないと思いがちです。でも、バウアーをみて欲しい。時間がかかっても、あきらめずに、継続していくことの価値が届くのではないか」(クラウメ監督)

「アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男」は、1/7(土)より、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで、全国ロードショー。

配給:クロックワークス/アルバトロス・フィルム © 2015 zero one film / TERZ Film、出演:ブルクハルト・クラウスナー、ロナルト・ツェアフェルト、リリト・シュタンゲンベルク、イェルク・シュットアウフ、セバスチャン・ブロムベルク 監督:ラース・クラウメ 配給:クロックワークス/アルバトロス・フィルム2015年/ドイツ/シネマスコープ/105分/英題:The People vs Fritz Bauer

(弁護士ドットコムニュース)

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