6882.jpg
芸能人は“不死鳥”になるか…AIによる「故人の再現」、法的なハードルは?
2020年06月04日 10時14分

まだプロ棋士には及ばないと考えられていた囲碁のコンピュータソフトの分野で、2016年、「アルファ碁(AlphaGo)」がいきなり世界トップレベルの棋士に勝利するなど、IT・AI分野の進歩は目覚ましいです。

急速に進化するIT・AIは、過去に存在した「モノ」の精密な再現も可能にし、実際に文化財のデジタル復元なども行われているようですが、その対象は「物」だけでなく、「者」にまで及んでいるようです。

たとえば、2019年のNHK紅白歌合戦において、1989年に亡くなった歌手の美空ひばりさんの歌声をAIのディープラーニングにより再現したことが話題となりました。

故人の姿や声などは今後ますます洗練された形で再現されていくことが予想されますが、法的にはどんな問題が起こりうるのでしょうか。西川喜裕弁護士に聞いた。

まだプロ棋士には及ばないと考えられていた囲碁のコンピュータソフトの分野で、2016年、「アルファ碁(AlphaGo)」がいきなり世界トップレベルの棋士に勝利するなど、IT・AI分野の進歩は目覚ましいです。

急速に進化するIT・AIは、過去に存在した「モノ」の精密な再現も可能にし、実際に文化財のデジタル復元なども行われているようですが、その対象は「物」だけでなく、「者」にまで及んでいるようです。

たとえば、2019年のNHK紅白歌合戦において、1989年に亡くなった歌手の美空ひばりさんの歌声をAIのディープラーニングにより再現したことが話題となりました。

故人の姿や声などは今後ますます洗練された形で再現されていくことが予想されますが、法的にはどんな問題が起こりうるのでしょうか。西川喜裕弁護士に聞いた。

●ディープラーニングでは、写真・映像などを許可なく使用できる

ーー「AI美空ひばり」には様々な意見があったようです

「報道によれば、『AI美空ひばり』については、遺族など関係者の協力を得て製作されたようです。必要な権利処理はされているでしょうから、法的な問題があるとは考えていません。

したがって、AI等の新しい技術を用いて、故人の姿や声を再現する際に問題となりうる法的な問題について、一般論としてお話しします」

ーー故人の再現にはどのような法的問題が考えられますか

「様々な問題がありそうですが、著作権、肖像権、パブリシティ権との関係については検討しておく必要があります」

ーー「著作権」とはどのように関係しますか

「故人を再現するのに、生前の写真、映像、音源などを複製するのであれば、著作権や著作隣接権について検討する必要があります。

この点、故人の写真、映像、音源などをAIがディープラーニングする場合には、権利者の許諾なく、使用することができると考えます(著作権法30条の4)。

ただし、再現した故人に歌唱させる場合には、別途、楽曲や詩の著作権について権利処理は必要です」

ーー「肖像権」や「パブリシティ権」についてはどうでしょうか

「『肖像権』は、本人の許可なく、自分の容姿を撮影等されない権利で、『パブリシティ権』は、有名人の氏名や肖像に顧客誘引力があり、これを第三者に使用させない権利です。

これらは判例によって確立された権利であり、著作権のように法律上定められていないため、権利の及ぶ範囲が必ずしも明らかなわけではありません。もっとも、個人の人格的権利に基づく生前の権利であって、死後は認められないという考え方が一般的です。

死後のパブリシティ権を認めた判例は見受けられませんが、IT・AIで故人の姿や声などが再現されることによる問題が生じてくれば、今後判例によって認められる可能性もゼロではないと思います」

●生前の本人が残した希望を実現できる仕組みが必要

ーー今後の課題や注意点はどうでしょうか

「故人を再現することを良しとしない場合、生前の本人が残した希望を実現できる仕組みが必要なのではないでしょうか。

なお、再現において故人の名誉を害する行為をした場合には、遺族の人格的権利を侵害する可能性があり、注意が必要です。

故人の再現に当たっては、肯定的な意見だけでなく否定的な意見もあることを踏まえ、法的な整理とは別に、遺族・ファンなどへ配慮するとともに、関係者の了解を得ることが最も重要だと思います」

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る