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大阪市教委「未納給食費」回収を弁護士に委託…払わないとどんなリスクが待っている?
2016年10月26日 09時56分

公立小学校の給食費を納めない保護者が後を絶たない問題について、大阪市教育委員会は、再三の催促にも応じないような悪質なケースについて、11月から弁護士に回収業務の一部を委託することを発表した。

報道によると、弁護士は滞納している家庭の相談に応じて分割払いを促したり、催促したりする業務を担当する。将来的には、督促状の送付や簡裁への支払い督促申し立て業務も委託する予定だという。

大阪市の公立小中学校の給食費は約4500円〜6000円で、2015年末の時点で約1億3000万円が未納になっているという。弁護士が回収業務にあたることで、未納問題の解決につながるのか。秋山直人弁護士に聞いた。 

公立小学校の給食費を納めない保護者が後を絶たない問題について、大阪市教育委員会は、再三の催促にも応じないような悪質なケースについて、11月から弁護士に回収業務の一部を委託することを発表した。

報道によると、弁護士は滞納している家庭の相談に応じて分割払いを促したり、催促したりする業務を担当する。将来的には、督促状の送付や簡裁への支払い督促申し立て業務も委託する予定だという。

大阪市の公立小中学校の給食費は約4500円〜6000円で、2015年末の時点で約1億3000万円が未納になっているという。弁護士が回収業務にあたることで、未納問題の解決につながるのか。秋山直人弁護士に聞いた。 

●強制執行を受ける可能性

弁護士が給食費について債権回収業務を受任することを想定すると、まず書面での督促を複数回行い、連絡が取れれば、給食費が滞納している理由や、経済的理由によって滞納している場合には、収入・資産の状況等の聞き取りを行い、必要に応じて分割払いの交渉を行うでしょう。

無視されるような場合には裁判所に支払督促の申立てや民事訴訟の提起を行い、支払督促や判決を取得した上で、最終的には給料や預金の差し押さえによって回収することが想定されます。

給料の場合、月給44万円(手取りベース)までは、4分の3は差し押さえが禁止されているので、4分の1が差し押さえられます。月給44万円を超える場合は、33万円を超える金額が差し押さえられます。

給食費を滞納している保護者としても、無視していると最終的には強制執行を受けるおそれがありますので、そうそう無視はできないかと思います。

●安易に法的手続きをとる傾向が生じるのは問題

このように、給食費でも未納にしていると、最終的には法的措置によって強制的に回収される可能性があるということは、正当な理由なく滞納している保護者に対してはプレッシャーになるでしょうし、不公平感の是正にもつながるでしょうから、必要なことではないかと思います。

ただし、学校現場が安易に弁護士に委任し、弁護士が安易に法的手続を取る傾向が生じるのとすれば問題だと考えます。

給食費を滞納しているといっても、その理由は家庭によって様々でしょう。貧困、育児放棄、家庭内不和等、複雑な家庭の事情が背景にあるケースも少なからずあるのではないでしょうか。

給食費の滞納が、当該家庭が福祉的な対応を必要としている一つのサインであることもあるでしょう。当該家庭の児童の教育上の課題とも密接に結びついている可能性もあります。

●慎重な段取りを踏むべき

学校現場としては、安易に法的回収に流れるのではなく、まずは各家庭の滞納の理由を丁寧に聴取し、経済的理由や家庭の事情によって払えていないのか、それとも十分払える経済力があるにもかかわらず、身勝手な理由で払っていないのか、そのあたりをきちんと分析するべきでしょう。

その上で、後者のようなケースについては、弁護士に委任して法的手続による回収という手段もあって良いと思いますが、前者のようなケースまで、安易に弁護士に委任することは差し控えるべきではないでしょうか。

前者のようなケースでは、生活保護・就学援助制度の利用を促すなど、よりきめ細かな対応が望まれるように思います。

報道によると、大阪市では、弁護士への委任は回収額に応じた出来高制報酬の契約とのことですが、そのような契約をすることが、安易な法的回収につながらないかも懸念があります。

事情を丁寧に聞き取って分割払の合意をするよりも、支払督促、給与差押えと法的回収を行った方が経済合理的には回収につながるようなケースでは、報酬のことを考え、受任弁護士が安易に法的回収に走るおそれも全く無いとは言えないでしょう。

弁護士に委任した場合の回収の方法についても、慎重な段取りを踏むように委任契約なりで取り決めるべきではないでしょうか。

(弁護士ドットコムニュース)

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