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参考人聴取「DVD」刑事裁判で異例の「証拠採用」 元検事の弁護士はどう見るか?
2015年11月17日 10時56分

福岡地裁小倉支部で審理された薬物密輸事件の公判で、検察官による参考人聴取の様子を録音・録画した「DVD」が証拠採用されていたと、共同通信が11月12日、報じた。被告人の暴力団幹部は、中国から覚醒剤などを密輸したとして、昨年7月に起訴され、今年3月に実刑判決を受けたが、このような参考人聴取のDVDが刑事裁判の証拠として採用されるのは、異例だという。

記事によると、荷物を自宅で受け取った被告人の娘は、電話で被告人に到着を知らせたという。公判ではこの電話のやりとりが焦点となっていた。被告人は「荷物が届くことは知らなかった」と否認。しかし、検察側が証拠請求した参考人聴取の様子をおさめたDVDには、「父に驚いた感じはなかった」という娘の証言が記録されていた。

被疑者の取調べについては、その様子を録音・録画すべきだという声が強いが、参考人の事情聴取についても、同様に対応すべきなのだろうか。また、参考人聴取のDVDが証拠採用されたことについて、何か問題はないのか。検察官出身の荒木樹弁護士に聞いた。

福岡地裁小倉支部で審理された薬物密輸事件の公判で、検察官による参考人聴取の様子を録音・録画した「DVD」が証拠採用されていたと、共同通信が11月12日、報じた。被告人の暴力団幹部は、中国から覚醒剤などを密輸したとして、昨年7月に起訴され、今年3月に実刑判決を受けたが、このような参考人聴取のDVDが刑事裁判の証拠として採用されるのは、異例だという。

記事によると、荷物を自宅で受け取った被告人の娘は、電話で被告人に到着を知らせたという。公判ではこの電話のやりとりが焦点となっていた。被告人は「荷物が届くことは知らなかった」と否認。しかし、検察側が証拠請求した参考人聴取の様子をおさめたDVDには、「父に驚いた感じはなかった」という娘の証言が記録されていた。

被疑者の取調べについては、その様子を録音・録画すべきだという声が強いが、参考人の事情聴取についても、同様に対応すべきなのだろうか。また、参考人聴取のDVDが証拠採用されたことについて、何か問題はないのか。検察官出身の荒木樹弁護士に聞いた。

●取調べを記録した「DVD」は証拠採用できないのが原則

「刑事訴訟では、証拠として裁判所に提出できる証拠が厳格に定められています。

一般には誤解されていますが、刑事訴訟上の原則的な証拠は『証人』と『証拠物』です。これに対して、書面は、刑事訴訟法上は、原則として採用されません。

証人の供述内容をまとめた供述調書は、反対当事者の同意がない限り、原則としては証拠として採用できません。反対当事者が同意することで、例外的に裁判所が採用するのです。

ところが、現実の実務は、この原則と例外が完全に逆転しており、供述調書を同意するのがほとんどの事件となっています。そのため、『書面が原則』との誤解が生じてしまうのです。

刑事訴訟法が、原則として、書面を証拠として認めていない理由は、書面として提出された証拠は、供述した人物の一方的な主張内容が記載されており、供述した人物に対する反対尋問ができず、正確性や信用性を確認できないので、公平な裁判の手続保障が確保されないから、と解されています。

この点は、聴取内容を録画したDVDであっても同じことで、供述者の一方的な主張内容が録画されており、反対尋問ができません。

そうである以上、聴取内容を録画したDVDは、証拠として採用できないのが原則である、ということになります」

●「証拠」として採用されたのはなぜか?

では、なぜ今回はDVDが採用されたのだろうか?

「刑事訴訟法では、反対当事者の同意が得られなくても、書面を証拠として採用することを認める規定がいくつかあります。

その一つが、非常に大雑把な言い方ですが、法廷での証言内容と、供述調書の内容が異なっており、かつ、供述調書の内容のほうが特に信用できるという場合です。この場合、裁判所は、供述調書を証拠として採用することができます。

ただ、この規定は、『供述者の署名のある書面』のことについて定めているだけで、DVDに関しては規定がありません。DVDを証拠採用する規定がない以上、証拠として採用できない、という考え方もありえます。

ただ、供述者の供述通りの内容が記録されているという意味であれば、むしろDVDのほうが正確であるといえますので、DVDと書面を区別する理由もないともいえます。

今回の事件は、証人が、事前のDVDの録画内容と異なった証言をした事案であったようです。裁判所は、刑事訴訟法の書面に関する証拠規定を、DVDについても拡大して適用し、証拠採用するに至ったのだと思われます」

●「可視化制度」の趣旨に反する? 

いっぽうで、今回の採用には批判もあるようだ。

「この裁判所の判断については、『可視化制度の趣旨にも反する』という批判があるようです。この批判は、一見すると矛盾しているように思え、かなりわかりにくい批判です。

日弁連は取調べの全過程の録音・録画を主張していますが、実は、部分的な可視化については、反対しています。『部分可視化』は、捜査機関に都合の良い部分だけを録画するもので、かえって、裁判官や裁判員の判断に誤解を招き、危険であると主張しているのです。

そうすると、今回の証人のDVDの証拠採用は、まさに、検察官に都合のよい部分の供述部分だけを証拠として採用するものですから、全面可視化を求めている立場からすると、容認できるものではない、ということになると思われます。

なお、ここで問題となっているのは、いずれも『証言内容を記録したDVD』です。

おなじDVDでも、『防犯カメラの映像を記録したDVD』は、全く扱いが異なり、証拠物として採用可能です。この場合のDVDは、対象現場を機械的に記録したものであり、人の記憶と異なり、反対尋問で、正確性・信用性を確認する必要がないからです」

荒木弁護士はこのように指摘した。

(弁護士ドットコムニュース)

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