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鉄道事故判決に疑問あり!認知症患者の「監視責任」を家族に押しつけるのは過酷すぎる
2013年08月29日 20時30分

「認知症患者を24時間監視しろということか」「拘束しなければ無理では?」――。認知症の男性がはねられて死亡した鉄道事故について、遺族に賠償を命じる判決が下されたが、ネットでは裁判所の判断に疑問の声が上がっている。

問題となっているのは、8月9日に名古屋地裁が出した判決だ。報道によると、2007年12月、当時91歳だった認知症の男性が、愛知県大府市のJR共和駅の線路に入り、電車にはねられて死亡した。この事故で列車が遅れたことについて、JR東海が遺族に損害賠償を求める裁判を起こしたのだ。

名古屋地裁は判決で、同居していた妻(当時85歳)には見守りを怠った過失があると認定。別居していた長男も「事実上の監督者」にあたるとして、請求全額の約720万円を支払うよう命じた。男性は「常に介護が必要」とされる「認知症高齢者自立度4」と診断されていたという。

この判決に対して、ネット上では「あまりにもひどい判決」「裁判所の言う通りにしようとするとベッドに縛りつけるしかないのでは?」と疑問視する声が出ている。だが事故によって、鉄道会社の運行に支障が生じているのも事実だ。名古屋地裁の判決をどう見たらいいのか。星正秀弁護士に聞いた。

●85歳の妻に「見守り義務」を認めるのは、過酷すぎる

「報道されている内容だけでは分かりませんが、おそらくこの認知症の男性は、民法713条によって不法行為責任を負わないとされている『責任無能力者』だったと思われます」

星弁護士はこのように指摘する。もしそうだとすると、どうなるのか。

「そのような場合、成年後見人などがいれば、成年後見人などが認知症の男性に代わって不法行為責任を負います(民法714条)。しかし本件では、成年後見人などがいなかったものと思われます。そのため、判決では、高齢の妻と、別居して遠方で生活している息子に、認知症の男性を見守る義務があったと認定し、二人に不法行為責任を認めたのでしょう」

では、高齢の妻に賠償責任があるとした名古屋地裁の判決は、妥当といえるのだろうか。

「85歳の妻に、91歳の認知症の夫の見守り義務を認定することは、過酷すぎると思います。このような高齢の夫婦が二人きりで生活している場合には、公的な支援が必要だったといえるでしょう」

●家族に「見守り責任」を押しつけるだけでは解決しない

別居している息子の責任については、どうか。

「別居している息子にまで見守る義務を認めるのは、行きすぎだと思います。判決の意図は、『高齢の両親をほっておいてけしからん』というような考えにあるのかもしれません。しかし、核家族化が進んだ現代において、子どもにそこまでの責任を問うのは行きすぎでしょう」

このように見解を述べたうえで、星弁護士は「今後も似たような事件が起こると考えられますが、家族に『見守り責任』を押しつけるだけでは、問題が解決しないでしょう」と指摘している。

今後、ますます高齢化が進む日本の社会。そこでは、誰もがこの家族のように、鉄道事故の当事者になる可能性がある。認知症の人を抱えた家族にだけ責任を押しつけるのではなく、社会全体でこのような事故のリスクを負担していくべきではないだろうか。

(弁護士ドットコムニュース)

「認知症患者を24時間監視しろということか」「拘束しなければ無理では?」――。認知症の男性がはねられて死亡した鉄道事故について、遺族に賠償を命じる判決が下されたが、ネットでは裁判所の判断に疑問の声が上がっている。

問題となっているのは、8月9日に名古屋地裁が出した判決だ。報道によると、2007年12月、当時91歳だった認知症の男性が、愛知県大府市のJR共和駅の線路に入り、電車にはねられて死亡した。この事故で列車が遅れたことについて、JR東海が遺族に損害賠償を求める裁判を起こしたのだ。

名古屋地裁は判決で、同居していた妻(当時85歳)には見守りを怠った過失があると認定。別居していた長男も「事実上の監督者」にあたるとして、請求全額の約720万円を支払うよう命じた。男性は「常に介護が必要」とされる「認知症高齢者自立度4」と診断されていたという。

この判決に対して、ネット上では「あまりにもひどい判決」「裁判所の言う通りにしようとするとベッドに縛りつけるしかないのでは?」と疑問視する声が出ている。だが事故によって、鉄道会社の運行に支障が生じているのも事実だ。名古屋地裁の判決をどう見たらいいのか。星正秀弁護士に聞いた。

●85歳の妻に「見守り義務」を認めるのは、過酷すぎる

「報道されている内容だけでは分かりませんが、おそらくこの認知症の男性は、民法713条によって不法行為責任を負わないとされている『責任無能力者』だったと思われます」

星弁護士はこのように指摘する。もしそうだとすると、どうなるのか。

「そのような場合、成年後見人などがいれば、成年後見人などが認知症の男性に代わって不法行為責任を負います(民法714条)。しかし本件では、成年後見人などがいなかったものと思われます。そのため、判決では、高齢の妻と、別居して遠方で生活している息子に、認知症の男性を見守る義務があったと認定し、二人に不法行為責任を認めたのでしょう」

では、高齢の妻に賠償責任があるとした名古屋地裁の判決は、妥当といえるのだろうか。

「85歳の妻に、91歳の認知症の夫の見守り義務を認定することは、過酷すぎると思います。このような高齢の夫婦が二人きりで生活している場合には、公的な支援が必要だったといえるでしょう」

●家族に「見守り責任」を押しつけるだけでは解決しない

別居している息子の責任については、どうか。

「別居している息子にまで見守る義務を認めるのは、行きすぎだと思います。判決の意図は、『高齢の両親をほっておいてけしからん』というような考えにあるのかもしれません。しかし、核家族化が進んだ現代において、子どもにそこまでの責任を問うのは行きすぎでしょう」

このように見解を述べたうえで、星弁護士は「今後も似たような事件が起こると考えられますが、家族に『見守り責任』を押しつけるだけでは、問題が解決しないでしょう」と指摘している。

今後、ますます高齢化が進む日本の社会。そこでは、誰もがこの家族のように、鉄道事故の当事者になる可能性がある。認知症の人を抱えた家族にだけ責任を押しつけるのではなく、社会全体でこのような事故のリスクを負担していくべきではないだろうか。

(弁護士ドットコムニュース)

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