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受刑者と不思議な交流、"本と手紙"を届ける人たちの10年「あっちは悪いと線引きしない」
2025年08月10日 09時03分
#受刑者 #拘禁刑 #ほんにかえるプロジェクト #プリズンライターズ

「泣ける本ならなんでもいいです」「無償本を希望します」

東京都江戸川区の一軒家に、全国の刑務所から本の差し入れを求める手紙が集まる。

リクエストされる本のジャンルは幅広く、事件を扱ったノンフィクションからサスペンス、ライトノベル、さらには官能小説までさまざまだ。

本に囲まれた4畳ほどの部屋では、2〜3人のスタッフが入れ替わりで作業にあたる。希望の本を棚から探し出し、見つかれば重ねて輪ゴムでとじていく。

人気のある本は複数の受刑者から希望が寄せられることもあり、在庫がない場合はスタッフが代替の本を選んで送る。

こんな不思議な活動が約10年続いている。

現在、利用している受刑者は全国で約200人。特に無期懲役刑の受刑者が多いという。

画像タイトル 受刑者から届いた手紙には、差し入れを希望する本のタイトルがたくさん書かれていた(弁護士ドットコムニュース撮影)

「泣ける本ならなんでもいいです」「無償本を希望します」

東京都江戸川区の一軒家に、全国の刑務所から本の差し入れを求める手紙が集まる。

リクエストされる本のジャンルは幅広く、事件を扱ったノンフィクションからサスペンス、ライトノベル、さらには官能小説までさまざまだ。

本に囲まれた4畳ほどの部屋では、2〜3人のスタッフが入れ替わりで作業にあたる。希望の本を棚から探し出し、見つかれば重ねて輪ゴムでとじていく。

人気のある本は複数の受刑者から希望が寄せられることもあり、在庫がない場合はスタッフが代替の本を選んで送る。

こんな不思議な活動が約10年続いている。

現在、利用している受刑者は全国で約200人。特に無期懲役刑の受刑者が多いという。

画像タイトル 受刑者から届いた手紙には、差し入れを希望する本のタイトルがたくさん書かれていた(弁護士ドットコムニュース撮影)

●元受刑者がスタートしたプロジェクト、支援者との絆が更生のカギに

この活動は、元受刑者の汪楠(ワン・ナン)さんが2015年に始めた「ほんにかえるプロジェクト」だ。

自身の服役中、多くの受刑者が家族や知人との連絡を絶たれ、孤立している現実を目の当たりにしたという。

反省は1人でもできるが、更生は1人でできない──。矯正の現場でよく耳にする言葉だ。

運良く塀の外の人とつながることができたワンさんは「社会とのつながりを実感できること」が更生には必要不可欠だと感じたという。

著書にはこう記している。

<受刑者が更生するために必要なものはこうした支援者との絆だと思います>

<私は支援者との手紙のやり取りを通じて、自分は大事にされていると思うことができるようになりました>

画像タイトル 足場の踏み場がわずかしかない狭い部屋で、受刑者たちに会報を送る作業を続けるスタッフたち(弁護士ドットコムニュース撮影)

●受刑者の原稿をネットに掲載「プリズン・ライターズ」

「ほんにかえるプロジェクト」の活動は、本の郵送だけではない。

頼れる家族や友人がいない受刑者のために、書籍購入やインターネット検索、写真の印刷など代行するサービス(年会費1000〜2000円)も提供して、刑務所に差し入れている。

さらに「プリズン・ライターズ」という取り組みでは、受刑者が書いたエッセイや論考をテキスト化し、公式サイトやnoteで公開。寄稿した受刑者には1本あたり500円の原稿料が支払われる。

テーマは自由で、刑務所での日常、被害者への思い、自らの罪への向き合い方など、率直な言葉が綴られる。

塀の中の不満を表明したり、罪を償うことについて自問自答したりする姿を垣間見ることができ、閉ざされた刑務所という場が、社会とつながる貴重な接点になっている。

画像タイトル 全国の受刑者から寄せられた文章を掲載している「プリズン・ライターズ」のページ(noteより)

●「あちら側」と線を引かない 文通ボランティアが感じたこと

「彼らと私たちはちょっとした違いしかない」

そう語るのは、活動にボランティアとして関わる女性だ。加害者を家族に持つわけではないが、たまたま団体のサイトを見つけて参加を決めた。

手紙ではペンネームを使用し、相手の「前科」はあえて調べない。先入観を持たずにやり取りを重ねるうちに、加害者という存在への関心が芽生えたという。

女性によると、多くの受刑者は社会の動きに敏感だ。ピザのチラシや運転免許合宿のパンフレットなど、外の空気を感じられるものを同封することもある。

「受刑者の中には、家庭環境に恵まれなかった人も多いです。私たちとの間にはちょっとした違いしかありません。『あっちは悪い人たち』と線引きするだけではダメだと思います。一瞬でも気持ちが晴れたり、シャバの風を感じたりしてくれたらうれしい」

画像タイトル 受刑者が希望する本を棚から探し出そうとするスタッフたち(弁護士ドットコムニュース撮影)

●言葉のやり取りで見える変化「ありがとう」が届くとき

2018年ごろから活動に参加しているスタッフの一人、庄子佳代子さん(75)は元小学校の司書。受刑者との手紙のやり取りも担当し、全国の刑務所から届く手紙に返信を出し続けている。

面識もない受刑者たちになぜ関わるのかと尋ねると、庄子さんは笑ってこう話した。

「犯罪を起こしたこととは別にピュアな部分を持っている人が多いんです。幼くて、まだ大人になりきれていない印象を受けます。被害者の命日に何も手につかなくなる人もいます」

支援の目的は、必ずしも「更生」そのものではないという。

「この活動が何の役に立っているかは分かりません。でも、誰かが自分のために塀の外で何かをしてくれているということを感じること、それだけでも意味があるのかなと思っています」

言葉のやり取りを続けるうちに、受刑者の中に変化を感じることがあるという。

「最初はクレームばかりだった人が、ある日突然、『ありがとう』と言ってきたんです。感謝の言葉が出るようになるというのは、その人の心が和らいできた証拠です。怒りに満ちていた人が落ち着いていく様子を見ると、やっていてよかったと思えます。文章にその変化が表れるんです」

画像タイトル 「怒りの感情しかない人がだんだん落ち着いていく様子をみるとうれしい」と話す庄子さん(弁護士ドットコムニュース撮影)

●「信じられる人はいる」と思ってもらえるように

面識のない他者との緩やかな交流が、受刑者の内省を深めさせることもある。

無期懲役の受刑者が送ってきたものの中に印象的な文章がある。

<〝ほんにかえるプロジェクト〟がやっている「文通」支援こそ私達の「心」を支援し、〝ぼっち〟にさせないことによって「更生」に導くためには欠くことの出来ない重要な取り組みの1つである。

この関係性を知り、そこから「心」を学び、心の変化を感じ少~しずつ自分を変えていくその先にこを「更生」(生きなおし)があると思う。

誰かのために何かが出来ること!これこそ私達人間に備わった能力の1つであり、自分よりも誰かを優先させられる〝優しさ〟こそが「更生」(生きなおし)の要ではないかと私は思い考える。>

庄子さんはこう話す。

「本を読むこと、手紙を書くことは、受刑者にとって大切な時間。外とつながり続けることが必要なんです。信じられる人はいると感じてもらえるように、私たちも誠実に向き合いたいと思っています」

(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)

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