夫が怒ると、モノにあたってくる——。そんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
相談者によると、相談者の夫は日常生活の中で不満があると、「モノにあたる」そうです。
たとえば、夕食の食べ残しやお酒などを食卓へひっくり返す、タンスに洗濯用洗剤などを撒き散らすといった行動をしているようで、先日はタンスの中にバナナを投げ込み、タンスが異様な臭いになってしまったといいます。
相談者はこうした夫への対処法が知りたいそうです。このような「モノにあたる」行動には、法的にどのような対応が可能なのでしょうか。濵門俊也弁護士に聞きました。
●物に当たる行為はDVになるのか?弁護士が答える
――物に当たる行為はDVに該当するのでしょうか?
物に当たる行為は、精神的DVに該当する可能性があり、被害者に深刻な影響を与えることがあります。
物に当たる行為は、単なるストレス発散ではなく、相手を威圧し、支配しようとする意図が隠れていることが多いです。とくに威嚇するような乱暴な態度で物を壊すこと、例えば壁を殴ったり皿を投げたりする行為は問題です。
また、大切なものを狙って破壊する、つまり相手の思い入れのある物を壊すことや、怒鳴ることで相手を精神的に追い詰める行為も該当します。さらに、物を壊した後に片付けを相手に押し付けたり、「やめてほしい」と伝えても繰り返したりする場合も、DVにあたる可能性が高いです。
――なぜこのような行為をしてしまうのでしょうか?
物に当たる行為をする人には、いくつかの心理的特徴があることが多いです。まず自尊心の低さが挙げられます。自分の価値を認められず、力を誇示するために物を壊すのです。また、コミュニケーション能力の不足も要因の一つで、言葉で感情を表現できず、物に当たることで気持ちを伝えようとします。
ストレス耐性の低さから怒りを適切に処理できず衝動的に物に当たったり、支配欲の強さから相手をコントロールしようとしたりすることもあります。幼少期のトラウマが影響し、過去の経験から暴力的な行動を取る場合もあります。
●被害者への影響と対処法
――被害者にはどのような影響があるのでしょうか?
精神的DVは、身体的暴力と同様に深刻な影響を及ぼします。恐怖や不安が蓄積し、加害者の行動に怯えて安心できない生活を送ることになります。自己肯定感も低下し、「自分が悪いのではないか」と思い込むようになります。
健康への悪影響も深刻で、ストレスによる体調不良や精神的な疾患、うつ病や不安障害などを発症することもあります。子どもがいる家庭では、家庭内の暴力を見て育つことで、子ども自身が同じ行動を取る可能性もあります。
――このような状況に悩んでいる場合、どう対処すればよいでしょうか?
専門家への相談や証拠の確保が重要です。まず安全な場所の確保が必要で、危険を感じたら避難できる場所を確保してください。
証拠の収集も大切で、録音・録画・写真などを記録し、後の法的手続きに備えることをお勧めします。専門家への相談先としては、配偶者暴力相談支援センター、警察の相談窓口、弁護士事務所、カウンセリングセンター、NPO法人の支援団体などがあります。
物に当たる行為がエスカレートすると、直接的な暴力へと発展するケースもあるため、早めの対応が推奨されます。安全を確保しつつ、適切な支援を受けることが大切ですね。