8412.jpg
「コーヒー手渡しやってる暇ない」コンビニ人手不足で店員の仕事量増加、やりがいも乏しく
2018年02月02日 10時18分

さまざまな業界で起きている人手不足は、コンビニ業界にも深刻な影を落としている。フランチャイズ店の中には、アルバイトの募集をかけても応募がなく、「一人あたりの業務量も増えている」という。たとえば、ローソンでは、従業員がコンビニコーヒーを客に手渡しする方式が採用されているが、このやり方が昨年、「コンビニ店員の業務負荷尋常じゃねぇぞ」とネット上で話題になった。一体、コンビニの労働環境はいまどうなっているのか、従業員たちに聞いた。(弁護士ドットコムニュース編集部・山下真史)

さまざまな業界で起きている人手不足は、コンビニ業界にも深刻な影を落としている。フランチャイズ店の中には、アルバイトの募集をかけても応募がなく、「一人あたりの業務量も増えている」という。たとえば、ローソンでは、従業員がコンビニコーヒーを客に手渡しする方式が採用されているが、このやり方が昨年、「コンビニ店員の業務負荷尋常じゃねぇぞ」とネット上で話題になった。一体、コンビニの労働環境はいまどうなっているのか、従業員たちに聞いた。(弁護士ドットコムニュース編集部・山下真史)

●「手渡しコーヒー」に象徴される「小さな負担」の積み重ね

セブンカフェが大ヒットして以降、どのコンビニチェーンもこぞって「淹れたて」のコーヒーを販売している。ローソンでは、独自にコーヒー専門家を認定する「ファンタジスタ」制度を導入して、従業員たちの「やりがい」にもつなげようとしている。ローソンの竹増貞信社長も、手渡しコーヒーは「心のふれあい」と強調する(日経BP・2017年11月ウェブ掲載より)。

しかし、「ふつう」の従業員たちにとって、手渡しコーヒーは負担につながっているようだ。都内にあるローソンで働く藤田真人さん(仮名・40歳)。その店では、1日300杯のコーヒーが売れている。朝の通勤時間帯など、つぎつぎと注文されると、その作業に人をさかれてしまい、すぐに長蛇の列ができるという。一杯を渡すことは大したことがなくても、同時に客から求められると、まさに一杯一杯の状況に陥るというわけだ。

藤田さんは「たしかに客とのコミュニケーションは大事だと思いますけど、ふれあい?やりがい?ファンタジスタ? 暇な店の話でしょ。僕だって、そんな暇な店で働きたいですよ。うちも、セルフ式にするだけで、相当ラクになるんですけどね」と、少しうんざりした表情を浮かべた。

1月中旬の約10日間、都内のあるローソンで、毎朝コーヒーを買いつづけてみたところ、たしかに店員が、コーヒーを淹れてくれてうれしい。だが、時間がないためなのか、手渡すときの言葉は「はい」「どうぞ」とそっけない。ファンタジスタのいないその店は、少なくとも「心のふれあい」や「おもてなし」はあまり感じられなかった。

●簡単だけど、「永遠に終わらない」作業

手渡しコーヒーは、あくまでローソンだけの話で、「個人的には大した作業じゃない」という人もいた。ただ、コンビニのさまざまな業務は、一つ一つが単純なものだったとしても、たくさん積み重なることで、従業員の大きな負担になっているのはたしかだ。

福岡市にあるコンビニの元従業員、堀江太一さん(仮名・30歳)は「棚の整理、商品の補充なんかは、永遠に終りません。オフィス街ということもあり、客も並ばされると、イライラしていて、こちらもかなり気を遣いますよ」と打ち明けた。

さらに、やりがいのなさも問題になっているという。

先ほど登場したローソンの藤田さんは「コンビニ店員は、専門職でも技術職でもない。マニュアルもありますよ。結局は、本人のやる気の問題なんですが、来る日も来る日も同じ作業で、やりがいはなく、先も見えません」と苦悩している。

都内のあるセブン−イレブンで働く島津美子さん(仮名・33歳)も「仕事自体は簡単ですよ。言葉の壁がある外国人でも問題なくできるんだから」と豪語する。島津さんによると、コンビニ店員は、客とほとんど会話をする必要がないため、「コミュ力」がなくても働ける。だが、店員同士のコミュニケーションもなく、「殺伐とした職場」だと感じている。

●アルバイトはほとんど採用できていない

実際にどれくらい人手不足なのだろうか。藤田さんによると、週1回土曜日、(夜間を一人で回す)ワンオペの日があるという。「アルバイトはほとんど採用できていません。採用できても、すぐにやめてしまいます」。藤田さんは、コンビニ店員歴15年を超える「大ベテラン」で、今も週5日の夜勤シフトに入っている。

藤田さんの主な仕事は、商品を棚に並べたり、店内外を掃除すること。住宅街に店があるため、夜間の客は、朝昼と比べてそれほど多くないという。だが、そうはいってもワンオペの日は、休憩時間がまともにとれない。従業員トイレで用を足していると、入店チャイムが鳴って、あわててレジに向かうこともあるそうだ。

●コンビニ店員のイメージが低下している

さらに、取材に応じた従業員たちは「世間的に、コンビニ店員のステイタスやイメージが低くなっていることで、ますます人が集まらなくなっている」と口をそろえた。

堀江さんは「SNS」の普及が背景にあると説明する。「とくに学生や外国人たちは敏感です。労働環境が悪かったりすると、すぐにLINEで仲間に共有します」。堀江さんによると、かつて学生のバイトとトラブルになった店は、そのあと数年間、その大学の学生から、応募がないという現象があったという。

ベテランの藤田さんの店では、イヤホンつけたまま、電話しながら、レジに並ぶ客も少なくないという。「単に、モラルが下がっているだけかもしれませんが、利便性・効率性を追求した結果、コンビニ店員は『誰でもできる仕事』となり、そして『雑にあつかっていい存在』と、軽くあつかわれていると思います」(藤田さん)

膨大な業務の積み重ねによる負担、単純作業の連続によるやりがいのなさ、客からのイメージの低下。この負のサイクルから抜け出せる日は来るのだろうか。

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る