アイドルとして活動する娘が所属事務所を辞められないので困っている——。
そんな相談が弁護士ドットコムに寄せられています。
相談者によると、娘はアイドルグループのメンバーとして活動していたところ、契約違反があり、事務所から「解雇する」と言われたそうです。
ところが後日、社長から「グループは解雇だけど、事務所は解雇ではない」と説明され、相談者は「契約期間中は芸能活動させてもらえないのでは」と心配しているそうです。
さらに、契約書には「途中で解約した場合は、辞めるのは1年後、辞めたあとも1年間は芸能活動禁止」とあったとのことです。
相談者は娘を辞めさせたいと考えているそうですが、契約書にある通り、辞めた後にも制限がかかるのでしょうか。芸能界のトラブルに詳しい竹村公利弁護士に聞きました。
●芸能活動の制限「ただちに違法とはいえない」
——グループは辞めさせたものの、解雇にせず、芸能活動を制限することに違法性はないのでしょうか。
アイドル側に契約違反があり、所属事務所側がグループを辞めさせる場合、所属契約も合わせて解除するというケースが多いですが、必ずしも所属契約まで解除しないことがあります。
たとえば、多くの事務所では、複数のグループが活動していますが、そのグループを辞めたとしても、他の所属グループをかけもちしていることもあります。
また、所属契約を解除するにあたっては、残っているライブ活動や報酬・経費の精算、SNSでの発表などをする必要があり、グループを辞めたから所属契約も同時に解除されたと考えることが現実的ではない事情もあります。
このように、グループを辞めさせても所属契約自体は有効に継続していることがあり、その場合、所属契約上、芸能活動の制限が残っているということになります。
一般的な所属契約において、よほど不当な内容でなければ、芸能活動の制限がただちに違法と判断されることはありません。
事務所側はアイドルとして売り出すためにさまざまな負担を負って投資しているわけですから、一定の芸能活動の制限を負わせるのも合理的だと思われます。
●「辞めた後も芸能活動禁止」は有効?
——契約書には「途中で解約した場合は、辞めるのは1年後、辞めたあとも1年間は芸能活動禁止」とあったそうですが、こうした条項は法的に有効なのでしょうか。
よほど不当な期間であれば無効になる可能性があります。解約申入れから契約終了を1年後として、契約終了後さらに1年間芸能活動を禁止するという条件ですが、期間が長すぎるとして無効とされた判例もあります。
しかし、仮に無効だとしても、相手側に契約違反がなければ、一方的に中途解約はできません。双方合意して解約する必要がありますから、あまり変わりはありません。
実際のところ、解約のための交渉や訴訟をしても、解決するまでに1、2年はかかります。
また、事務所がタレントに重い制約を課しているように思われがちですが、多くの事務所はタレントに配慮してスケジュール調整をし、衣装や写真、振付を用意しているにもかかわらず、タレントが契約違反をしたり、一方的に活動を放棄したりして事務所が困っているケースも多いのです。
●どうしても辞めたい場合は?
——どうしても事務所を辞めさせてくれない場合、どのような相談窓口がありますか。もし可能でしたら、アドバイスをお願いいたします。
今回のケースでは、契約違反とされた事実と辞めたい理由について娘さんによく確認したうえで、弁護士に相談をして交渉をしてもらい、合意解除を目指すのがよいと思います。
所属事務所としては、タレント本人から「辞めます」と言われて、「そうですか。わかりました」と言えない事情があります。タレントを売り出すために多大な投資をしていますし、他の所属タレントの契約違反も引き起こしかねないからです。
一方的に解約を通知しても、契約違反を理由に事務所から損害賠償を請求されるリスクが高まりますので、芸能活動の禁止期間をおいたり、解決金の支払いをすることを検討することになります。