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進次郎氏提言「健康ゴールド免許」、弁護士「憲法の理念に逆行」「構造改革そのもの」
2016年11月09日 10時00分

健康管理につとめた人は「健康ゴールド免許」をーー。 小泉進次郎氏を中心とした自民党の若手議員らが、2020年以降の社会保障改革に向けてまとめた提言が議論となっている。

「人生100年時代の社会保障へ 」と題した提言では、正規・非正規の雇用形態に拘らず企業で働く人が社会保険に加入できる「勤労者皆社会保険制度」や、定期検診を受けるなど健康管理につとめた人を対象に医療保険の自己負担を3割から2割に引き下げる「健康ゴールド免許」の導入などの施策を打ち出した。

ネットでは「健康にインセンティブを与えるのはまっとうな政策」と評価する声もあがる一方、「かえって弱者を切り捨てることになるのではないか」といった批判的な声もあがった。

健康へのインセンティブとして医療負担を下げるという施策はどう考えればいいのか。憲法問題に詳しい猪野亨弁護士に聞いた。

健康管理につとめた人は「健康ゴールド免許」をーー。 小泉進次郎氏を中心とした自民党の若手議員らが、2020年以降の社会保障改革に向けてまとめた提言が議論となっている。

「人生100年時代の社会保障へ 」と題した提言では、正規・非正規の雇用形態に拘らず企業で働く人が社会保険に加入できる「勤労者皆社会保険制度」や、定期検診を受けるなど健康管理につとめた人を対象に医療保険の自己負担を3割から2割に引き下げる「健康ゴールド免許」の導入などの施策を打ち出した。

ネットでは「健康にインセンティブを与えるのはまっとうな政策」と評価する声もあがる一方、「かえって弱者を切り捨てることになるのではないか」といった批判的な声もあがった。

健康へのインセンティブとして医療負担を下げるという施策はどう考えればいいのか。憲法問題に詳しい猪野亨弁護士に聞いた。

●「自己負担できる層のための割引きにしかならない」

今回、小泉進次郎氏らが提言した「健康ゴールド免許」は、健康のためにお金と時間を掛けられる人たちにとっては自己負担分を3割から2割へ軽減するもので、富める者はさらに富むという構造改革そのものの政策です。

低所得者層では、現実に費用を自己負担して健康診断を受けられるのかどうかという問題もあります。今回の提言では「勤労者皆保険制度」の創設によって雇用される勤労者は皆、加入できることを前提に低所得者の保険料の減免も挙げられています。

低所得者への配慮があるようにも見えますが、提言自体がどのように配慮するのかなどが抽象的で全くわからないため、結局のところ、自己負担できる層のための割引きにしかならないのではないでしょうか。

●「憲法の理念に逆行する」

この提言の根本問題は、健康阻害を自己責任ととらえていることです。

憲法25条は、国民は誰でも健康で文化的な生活を営む権利が保障しています。好き好んで病気になりたい人はいませんし、強いて言えば飲酒、喫煙でしょうか。

しかし、タバコによって病気になる場合も含め、医療費の負担を自己責任という範ちゅうで考えてしまうと、社会保険制度が成り立たず、病気になったら即、貧乏というような状況に陥りかねません。これでは生存権が脅かされます。

本提言には「セーフティー・ネット」という言葉も出てくるのですが、解雇規制の緩和なども含め、至るところに自己責任の考え方が出てきています。そのため、「防貧」とは異なる単なる「救貧」的な意味合いでの「セーフティー・ネット」にしかなりません。これは、構造改革の発想そのもので、それでは健康で文化的な生活を保障することは不可能です。

また、自己負担割合に差を設けることについて、健康診断を受けているか否かなど、それまでの行動で差をつけてしまう点も問題だと思います。発症した病気をすべて自己責任として、その負担を押し付けることとの間に関連性は極めて低く、合理的な区別とはいえず平等原則(憲法14条1項)にも反します。

低所得者層は、とかく食生活自体が加工食品などの廉価・高カロリーに片寄りがちと言われていますが、背景には低賃金であったり、教育の問題もあるわけで、健康管理ができる人を優遇するイコール格差をつけることであって、社会全体の社会保障の在り方からみて片寄っていると言わざるを得ません。

だからこそ社会政策があり、収入等に応じた累進制を前提として負担させることにも合理性が出てくるわけですし、むしろ社会福祉国家は憲法が想定しているものです。個々の政策そのものが憲法の条項に違反するものということではありませんが、憲法の理念には逆行するものといえます。

(弁護士ドットコムニュース)

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