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GPSを車に取り付けて「追跡・尾行」 新手の捜査手法に「令状」は必要か?
2013年08月28日 19時50分

警察の捜査対象となっている者の車に「GPS(全地球測位システム)端末」を勝手に取り付け、追跡・尾行する――外国映画さながらの捜査手法が日本でも行われていることが明らかになり、議論を呼んでいる。警察は「必要性が認められる場合には許容される」と主張しているが、裁判官の令状をとらずにGPS端末を取り付けるのは違法だという指摘もある。

今回、GPS端末を使った捜査が判明したのは、福岡県警だ。覚せい剤取締法違反の捜査で、被疑者となっていた男性の車にGPS端末を無断で取り付け、追跡していたとされる。その後、この男性は逮捕され、現在公判が行なわれているが、弁護人が「違法捜査」だと主張しているのだ。一方、福岡県警は令状が必要ない「任意捜査」なので問題ないとしている。

焦点は、自動車へのGPS端末の取り付けが、「強制捜査」と「任意捜査」のどちらにあたるのか、ということだ。もし強制捜査にあたるのならば、裁判官の令状をとらないといけない。一方、任意捜査ならば、令状は不要というわけだ。刑事訴訟法に明確な規定がなく、IT化の進展を受けた新しい問題といえる。はたして、どう考えるべきか。刑事事件にくわしい萩原猛弁護士に聞いた。

●「強制捜査」を実施するためには、裁判官による「令状審査」が必要

――GPS端末を使った捜査手法について、弁護人は「強制捜査」だと主張しているようだが、強制捜査にあたるとすると、どのような手続が必要になるのか?

「わが国の憲法は、必要以上に国民の人権を侵害する『違法捜査』を抑止するために、捜査機関が『強制捜査』を実施する際には、事前にその必要性について裁判官の審査に付さなければならないとしています。そして裁判官は、その捜査が相当であると判断すると、人権侵害を最小限に抑えるように、いろいろな条件をつけたうえで許可し、『令状』を発布します」

――では、GPS端末を車に取り付けて追跡することは、裁判官の「令状」が必要な捜査といえる?

「一般に、尾行や張り込みなどは『任意捜査』だとされています。しかし単なる尾行ではなく、GPS端末が車に取り付けられれば、本人の知らないところで、個人の位置情報のすべてが捜査機関に把握され、監視されるということになります。これは重大な『プライバシー』侵害です」

――プライバシーを侵害する場合は、令状が必要?

「憲法第35条1項は『何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、……正当な理由に基づいて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない』と定めています。

この憲法の規定の目的は、住居や書類、所持品といった個人の『モノ』に対する捜索や押収に令状を要求することで、国家がみだりに『個人の自由の領域』に介入するのを阻止しようという点にあります。そして、『個人の自由の領域』とは、『プライバシー』と言い換えることができます」

――「プライバシーの侵害」は、どのような場合に引き起こされるのか?

「テクノロジーが発達した現代では、今回のようなGPS端末の設置によるプライバシー侵害という事態も起こりえます。憲法制定当時のように『モノ』だけに着目していればよいという状況ではなくなっているのです。そうだとすると、憲法の規定は、なぜそのような規定が設けられたのかという『立法趣旨』にしたがって解釈されなければならないでしょう」

――そうすると、GPS端末を使った捜査手法はどう考えるべき?

「さきほど述べたように、GPS端末を使った捜査は、個人の位置情報のすべてが捜査機関に把握されてしまうという点で、重大なプライバシー侵害を伴っています。したがって、このような捜査は強制捜査であり、裁判官による令状審査が必要というべきでしょう。アメリカにおいても、連邦最高裁は、無令状のGPS設置について憲法違反と判断しています」

(弁護士ドットコムニュース)

警察の捜査対象となっている者の車に「GPS(全地球測位システム)端末」を勝手に取り付け、追跡・尾行する――外国映画さながらの捜査手法が日本でも行われていることが明らかになり、議論を呼んでいる。警察は「必要性が認められる場合には許容される」と主張しているが、裁判官の令状をとらずにGPS端末を取り付けるのは違法だという指摘もある。

今回、GPS端末を使った捜査が判明したのは、福岡県警だ。覚せい剤取締法違反の捜査で、被疑者となっていた男性の車にGPS端末を無断で取り付け、追跡していたとされる。その後、この男性は逮捕され、現在公判が行なわれているが、弁護人が「違法捜査」だと主張しているのだ。一方、福岡県警は令状が必要ない「任意捜査」なので問題ないとしている。

焦点は、自動車へのGPS端末の取り付けが、「強制捜査」と「任意捜査」のどちらにあたるのか、ということだ。もし強制捜査にあたるのならば、裁判官の令状をとらないといけない。一方、任意捜査ならば、令状は不要というわけだ。刑事訴訟法に明確な規定がなく、IT化の進展を受けた新しい問題といえる。はたして、どう考えるべきか。刑事事件にくわしい萩原猛弁護士に聞いた。

●「強制捜査」を実施するためには、裁判官による「令状審査」が必要

――GPS端末を使った捜査手法について、弁護人は「強制捜査」だと主張しているようだが、強制捜査にあたるとすると、どのような手続が必要になるのか?

「わが国の憲法は、必要以上に国民の人権を侵害する『違法捜査』を抑止するために、捜査機関が『強制捜査』を実施する際には、事前にその必要性について裁判官の審査に付さなければならないとしています。そして裁判官は、その捜査が相当であると判断すると、人権侵害を最小限に抑えるように、いろいろな条件をつけたうえで許可し、『令状』を発布します」

――では、GPS端末を車に取り付けて追跡することは、裁判官の「令状」が必要な捜査といえる?

「一般に、尾行や張り込みなどは『任意捜査』だとされています。しかし単なる尾行ではなく、GPS端末が車に取り付けられれば、本人の知らないところで、個人の位置情報のすべてが捜査機関に把握され、監視されるということになります。これは重大な『プライバシー』侵害です」

――プライバシーを侵害する場合は、令状が必要?

「憲法第35条1項は『何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、……正当な理由に基づいて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない』と定めています。

この憲法の規定の目的は、住居や書類、所持品といった個人の『モノ』に対する捜索や押収に令状を要求することで、国家がみだりに『個人の自由の領域』に介入するのを阻止しようという点にあります。そして、『個人の自由の領域』とは、『プライバシー』と言い換えることができます」

――「プライバシーの侵害」は、どのような場合に引き起こされるのか?

「テクノロジーが発達した現代では、今回のようなGPS端末の設置によるプライバシー侵害という事態も起こりえます。憲法制定当時のように『モノ』だけに着目していればよいという状況ではなくなっているのです。そうだとすると、憲法の規定は、なぜそのような規定が設けられたのかという『立法趣旨』にしたがって解釈されなければならないでしょう」

――そうすると、GPS端末を使った捜査手法はどう考えるべき?

「さきほど述べたように、GPS端末を使った捜査は、個人の位置情報のすべてが捜査機関に把握されてしまうという点で、重大なプライバシー侵害を伴っています。したがって、このような捜査は強制捜査であり、裁判官による令状審査が必要というべきでしょう。アメリカにおいても、連邦最高裁は、無令状のGPS設置について憲法違反と判断しています」

(弁護士ドットコムニュース)

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