883.jpg
面接を録音したい就活生「友人と共有していい?」「ハラスメントなら証拠になる?」弁護士が解説
2024年03月20日 08時23分

2025年の卒業に向けて、現大学3年生の就職活動が始まっている。今春卒業の大卒内定率(2月1日時点)が91.6%と「売り手市場」とはいえ、人気の職種を勝ち取りたい学生たちは面接の練習に余念がないという。

弁護士ドットコムにも、「聞き直して次の改善につなげたい。こっそり録音していいのでしょうか」との相談が寄せられている。中には友人と共有したり、同じ企業を志望する人たちのためにSNSで公開したりしたいとの声もある。

こうした行為は法的にどうなのか? 竹花元弁護士に聞いた。

2025年の卒業に向けて、現大学3年生の就職活動が始まっている。今春卒業の大卒内定率(2月1日時点)が91.6%と「売り手市場」とはいえ、人気の職種を勝ち取りたい学生たちは面接の練習に余念がないという。

弁護士ドットコムにも、「聞き直して次の改善につなげたい。こっそり録音していいのでしょうか」との相談が寄せられている。中には友人と共有したり、同じ企業を志望する人たちのためにSNSで公開したりしたいとの声もある。

こうした行為は法的にどうなのか? 竹花元弁護士に聞いた。

●無断録音OK=公開OKではない

――企業側に告げずに録音する行為は違法なのでしょうか?

話し手の承諾を得ずに行う録音を、「無断録音」や「秘密録音」といいます。企業の担当者とのやり取りや面接の様子を無断録音しても、それ自体は法的に問題のない行為です。

ただし、無断録音した音声をSNSなどで公開したことによりその企業や話した人物が特定できる場合には、法的な問題が生じる可能性があります。

具体的には、公開した録音内容が企業やその人物の社会的評価を低下させる場合に名誉毀損が成立する余地がありますし、そうでない場合でも、プライバシーの侵害に当たる余地があるといえます。

録音すること自体は法的に問題ありませんが、それを公開することには慎重であるべきでしょう。

――「次の面接に生かしたいので録音していいですか」と許可を取ったほうがいいですか?

許可を得る必要はありません。

なお、許可を得ようとしたが明確に断られた場合、それでも無断録音して後日(内定後などに)無断録音の事実が判明したら、「相互に確認した約束を破った人」とネガティブに評価されるリスクがあります。企業が採用過程における無断録音を理由とする懲戒処分などはできないと考えられますが、あえて許可を取るメリットは乏しいといえます。

●無断録音でもハラスメントの証拠になり得る

――これまでも圧迫面接、就活中のセクハラやオワハラ(他社選考の辞退を強要する)などが問題とされ、学生側からも「証拠として残しておきたい」との声があります。

無断録音した音声を証拠として、交渉や訴訟などでハラスメントを立証することは可能です。録音は非常に重要な証拠となります。パワハラやセクハラなどハラスメント行為の違法性が争点となる裁判では、ハラスメント言動の存在を被害者側が立証する必要がありますが、無断録音やそれを書き起こした資料が証拠としてしばしば使われます。

無断録音であることを理由に証拠としての価値が否定されることは基本的になく、むしろ直接的な証拠である録音は、多くの事件で立証の決め手になります。

裁判例には、ハラスメント申し出後に行われた法人内の「ハラスメント防止委員会」(ハラスメントについて確認・調査を行う委員会)におけるやりとりの録音が証拠から排除されたことがあります。しかし、この裁判例は、同委員会が「申立人及び被申立人並びに関係者のプライバシーや人格権の保護も重要課題」としており、同委員会における審議の秘密は「秘匿されるべき必要性が特に高い」ことを理由としており、かなり例外的な判断とみるべきでしょう。

職場における上司・同僚とのやり取りや会議の録音が証拠としての能力を否定されることは考えづらいといえます。

――オンライン説明会などでは「録音・録画は禁止」などと注意する企業もあります。

企業側が無断録音をやめさせることはできないと考えるべきでしょう。たとえ、面接の際に「録音禁止」というルールを周知しても、ハラスメントなど企業側とトラブルになった際には、そのルールに反して録音した音声も証拠として機能すると考えられます。

この点、裁判例では、働き始めた後の事案ですが、上司らから録音禁止を繰り返し命じられたにもかかわらず従わないことを理由の一つとする解雇が有効と認められたことがあります。しかし、同事案は当該従業員の勤務態度に大きな問題があったケースであり、「『録音禁止』に反したから懲戒処分や解雇ができる」と安易に考えられるものではありません。

あくまで、職場における無断録音は、証拠になるという意味でも、録音を理由に懲戒処分や解雇はできないという意味でも、基本的に問題ないと考えるべきでしょう。

――就活生や従業員の無断録音について企業はどのような姿勢で向き合えばよいのでしょうか。

スマートフォンなどの携帯機器を使い、誰でも、いつでも、録音ができる時代です。ハラスメントに該当する音声がSNSに流出したり、報道で取り上げられれば、企業が社会的に強い非難を受け、謝罪に追い込まれることもあります。今やハラスメント対策は企業の存続にかかわる問題です。

また、録音は一部を切り取って取り上げられるのが実情であり、発言の文脈までは見てもらえないことが多いと認識すべきです。企業は、採用活動中においても、内定後や稼働開始後においても、録音された内容のどの部分が切り取られても問題がないような言動をとることを徹底して心がけるべきでしょう。

録音を禁止したとしても、ハラスメントの予防にも、ハラスメント問題による企業ダメージの回避にも、役に立ちません。まずはハラスメントが起こらない職場を作ること、ハラスメントが生じた場合には、早期に解決を図る体制をとることが何より大切です。

採用募集バナー

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る