8938.jpg
刑事司法改革法案、参議院で審議入り 「司法取引は被疑者には有用でない」と弁護士
2015年09月13日 10時03分

司法取引の導入や通信傍受の対象拡大、取り調べ可視化(録音・録画)の一部義務化などが盛り込まれた刑事司法改革関連法案が9月10日、参議院で実質審議入りした。ただ、成立までの審議の見通しは立っておらず、継続審議になる見込みだという。

「司法取引」は、被疑者・被告人が他人の犯罪事実を明らかにした場合、その見返りとして、検察官が起訴を見送ったり求刑を軽くしたりできる制度。対象となっている犯罪は、詐欺・贈収賄や企業の経済犯罪、薬物・銃器犯罪などに限定されている。

「関係ない人が冤罪(えんざい)に巻き込まれる」という批判もあり、衆院法務委員会での与野党協議では、「捜査機関と容疑をかけられた人が協議する過程に、弁護士が常時、関与する」という修正が盛り込まれた。また、司法取引に関する記録を捜査機関が作成することも確認された。

この「司法取引」について、刑事事件に取り組む弁護士は、どう受け止めているのだろうか。小笠原基也弁護士に聞いた。

司法取引の導入や通信傍受の対象拡大、取り調べ可視化(録音・録画)の一部義務化などが盛り込まれた刑事司法改革関連法案が9月10日、参議院で実質審議入りした。ただ、成立までの審議の見通しは立っておらず、継続審議になる見込みだという。

「司法取引」は、被疑者・被告人が他人の犯罪事実を明らかにした場合、その見返りとして、検察官が起訴を見送ったり求刑を軽くしたりできる制度。対象となっている犯罪は、詐欺・贈収賄や企業の経済犯罪、薬物・銃器犯罪などに限定されている。

「関係ない人が冤罪(えんざい)に巻き込まれる」という批判もあり、衆院法務委員会での与野党協議では、「捜査機関と容疑をかけられた人が協議する過程に、弁護士が常時、関与する」という修正が盛り込まれた。また、司法取引に関する記録を捜査機関が作成することも確認された。

この「司法取引」について、刑事事件に取り組む弁護士は、どう受け止めているのだろうか。小笠原基也弁護士に聞いた。

●「弁護士の関与は歯止めにならない」

「『他人の罪を申告する』ような司法取引は、冤罪を生み出しかねないという危険があります。

司法取引によって出てきた虚偽の情報に基づいて逮捕されたりすれば、たとえ最終的に証拠不十分で不起訴や無罪になっても、取り返しのつかない損害を受けることになりかねません」

弁護士の関与は、歯止めにならないのだろうか。

「協議に弁護士が関与しても、その後の捜査に弁護士が関与するわけではないので、弁護士の関与は歯止めになりません。

いまは対象犯罪が限られていますが、今後、共謀罪や独立教唆罪もある特定秘密保護法などにも拡大されることになれば、このような弊害が生じる危険性は一層大きくなることになります。

また、日本の場合、他人の罪を明らかにしたからといって、その人を軽く処分するということが、国民感情に沿うとは思えません」

●取引に応じるかどうかは「検察官しだい」

「日本のルールでは、刑事事件の被疑者を起訴するかどうかは、検察官が裁量判断によって決めることができます。このような考え方を『起訴便宜主義』といいます。

実際にこれまでも、他人の捜査情報を提供する代わりに、検察官が被疑者を不起訴にしたり、罪名を軽くするといった取引は、この起訴便宜主義の中で、行われているとされています。

このような取引には厳密な運用ルールがなく、取引の過程も不透明だという弊害があります。そのため、法制審議会の場ではこのような取引について『ルール化・透明化』をしたほうがよいといった議論もなされていました。

しかし、今回の司法取引制度の導入によって、従来の『取引』が禁止されるわけではなく、この点で改善が見込めるわけではありません」

●検察にとっては「大きな武器」だが・・・

 

被疑者・被告人にとっては、有利な制度とは言えないのだろうか?

「実務的にも、被疑者・被告人や弁護人にとっては、使いどころが難しい制度です。それは、取引に合意するかどうかの裁量が、検察官に与えられているからです。

たとえば、被疑者側が詳細な情報を提供したにも関わらず、取引に応じてもらえなかった場合、情報を取られただけで終わる可能性があります。一方で、開示する情報を制限すると、検察官が情報の真実性を判断できず、取引に合意しないということにもなりかねません。

つまり、どの程度の情報をどの時点で提供するかについて、被疑者側は非常に難しい選択をしなければならないことになります。

結局、この制度は、検察官に合意をするかどうかについての裁量が与えられている点で、検察官にとっては、有意な情報を取得するための大きな武器となりますが、被疑者・弁護人にとっては、さほど有用な制度ではないと考えられます。

取り調べの録画の対象が著しく狭い範囲でしか認められないのに対し、通信傍受の拡大とともに、この司法取引という強力な武器が捜査側に与えられるため、検察不祥事から始まったこの『改革』は、『検察の焼け太り』と言えるものでしょう」

小笠原弁護士はこのように指摘していた。

刑事司法改革関連法案は、国会での審議日程にめどが立たず、継続審議となる見込みだ。この際、司法取引について、もっとじっくりと議論してもらったほうが良いのかもしれない。

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る