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安倍首相が改憲案、9条3項「自衛隊の明文化」主張…どんな意味があるのか?
2017年05月20日 09時46分

安倍晋三首相が5月3日、憲法改正を目指す集会にビデオメッセージで登場し、2020年に新たな憲法を施行する考えを表明した。ビデオメッセージでは、改正項目として、憲法9条の1項、2項を残し、自衛隊を明文で書き込むという案を明らかにして、大きな話題となった。

安倍首相は、「多くの憲法学者や政党の中には、自衛隊を違憲とする議論が今なお存在しています。『自衛隊は、違憲かもしれないけれども、何かあれば、命を張って守ってくれ』というのは、あまりにも無責任です」として、自衛隊の明文化を主張した。

このメッセージは、憲法9条の3項に自衛隊を明記して、自衛隊を合憲化するものとみられている。

自衛隊を憲法に明記することにどのような意味があるのか。今回の発言の意図をどうとらえればいいのか。猪野亨弁護士に聞いた。

安倍晋三首相が5月3日、憲法改正を目指す集会にビデオメッセージで登場し、2020年に新たな憲法を施行する考えを表明した。ビデオメッセージでは、改正項目として、憲法9条の1項、2項を残し、自衛隊を明文で書き込むという案を明らかにして、大きな話題となった。

安倍首相は、「多くの憲法学者や政党の中には、自衛隊を違憲とする議論が今なお存在しています。『自衛隊は、違憲かもしれないけれども、何かあれば、命を張って守ってくれ』というのは、あまりにも無責任です」として、自衛隊の明文化を主張した。

このメッセージは、憲法9条の3項に自衛隊を明記して、自衛隊を合憲化するものとみられている。

自衛隊を憲法に明記することにどのような意味があるのか。今回の発言の意図をどうとらえればいいのか。猪野亨弁護士に聞いた。

●なぜ、あえて明文化する必要があるのか

自民党が野党時代の2012年に発表した憲法改正草案では、軍隊については「国防軍」として規定し、その創設をめざすものでした。

安倍氏が今回、言い出したものは憲法9条1項2項はそのままにして3項に自衛隊を明記するというものです。

9条1項2項をそのままにして3項を創設すると戦力を保持しないと規定しながら戦力である自衛隊を明文で認めるという矛盾が生じます。もっとも従来の政府見解からは、9条1項2項でも自衛隊は合憲だったわけですから、矛盾もないということにはなります。

しかし、そうであれば何故、敢えて3項で明文化する必要があるのか、ということです。

安倍氏は、その理由として、自衛隊に対しては多くの学者と政党から違憲だと言われてきたが、その自衛隊に対し、いざというときに命を張って守ってくれというのは無責任だ、というものですが、全く理由になっていません。

従来から自民党政権は自衛隊を合憲だと言ってきましたし、違憲だという憲法学者の声などまるで無視していました(安保法制制定のときが一番顕著でした)。

●自衛隊の装備や行動に歯止めがかからなくなることを危惧

これまで自衛隊違憲論が果たしてきた役割は大きなものがあり、この違憲論こそが自衛隊の軍拡や行動を押さえてきたという側面があります。野党から国会で自衛隊の装備や行動の拡大について追及されたときでも自民党政権としても憲法の枠組み(政府見解でいう自衛のための必要最小限度の実力とそこから導かれる専守防衛など)の中でと言わざるを得なかったのも憲法9条があったからこそです。

ところが9条3項に明文化されてしまうということになると、こうした枠組みが全てすっ飛んでしまうのではないかということです。自衛隊が明文化されれば、それに必要な装備、行動は行う、ということを堂々とやれるようになるということでもあります。

それを先取りするような形で、現在、巡航ミサイルの配備まで浮上してきていますが、敵基地の先制攻撃も視野においていますから、専守防衛と言ってきたこととは明らかに矛盾します。

実際にも第2次安倍政権後、従来の政権が憲法違反としてきた集団的自衛権行使を閣議決定でひっくり返すという立憲主義を蹂躙するようなことをしてきましたが、それでも集団的自衛権行使の容認も形式上は上記憲法の枠組みを全く無視することができないという制約はありました。これで自衛隊が明文化される憲法改正が国民投票で承認されてしまうということになれば、「国民の声」を背景に自衛隊の装備や行動の拡大に対して、集団的自衛権行使に関しても今以上に歯止めが掛からなくなることが危惧されます。

自衛隊の明文化は、現状を追認する以上に自衛隊の任務等が拡大されていく可能性があることに思い至るべきです。これまでも徐々にですが自衛隊は肥大化してきましたが、それを追認するだけでなく、さらに肥大化を招きかねません。何といっても条文上の根拠があることになるのです。

従って、自衛隊が合憲と考えているからといって安易にこの明文改憲に賛成することは検討した方が良いでしょう。

(弁護士ドットコムニュース)

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