今年の夏は、地域によって41℃を超えるなど、過酷な暑さが続いている。こうしたなか、従業員に「暑さ手当」を支給する企業も出てきている。
多くは建設業や物流業など、屋外で働く作業員を対象とするものだ。ある工務店では、最高気温が30℃以上(真夏日)に500円、35℃以上(猛暑日)に1000円を支給。また、求人サイト「クロスワーク」によると月2万円を支給する企業もあるという。
ただ、現場作業でなくとも、この猛暑では身体への負担は小さくない。営業の外回りはもちろん、内勤であっても出勤だけで体力が消耗してしまう。日傘や首を冷やすアイテム、ハンディファンを持ち歩く会社員の姿も珍しくなくなった。
今後、企業は一般のオフィス勤務者にも「暑さ手当」を支給すべきなのか。労働問題にくわしい笠置裕亮弁護士に聞いた。
●「現場作業でなくても暑さ手当の支給は望ましい」
──建設や物流など、現場作業者に対しては「暑さ手当」を支給する企業が増えてきています。オフィス勤務の一般社員については、リモートワーク可能な場合もありますが、出勤や営業先への外出など、暑さの影響を受ける場面はあります。こうした社員にも手当は必要でしょうか。
日本の年平均気温は、変動を繰り返しつつも上昇傾向にあり、特に1990年代以降は猛暑日が増えています。そうした中で、長時間の外出や勤務があれば、身体への負担は避けられません。
企業が防止すべきなのは、業務中に社員が熱中症を発症することです。熱中症のリスクは、本人が暑さに慣れているか(暑熱順化)に大きく左右されます。
熱中症が生じやすいのは、作業初日や休憩を取らずに長時間にわたり連続する作業など、身体がまだ順応していないタイミングです。
その意味では、屋外作業を続けている人よりも、冷房の効いた室内で働く人のほうが、暑さへの耐性が低く、外回りの際にリスクが高まる可能性があります。
したがって、営業活動などの際にスポーツドリンクの購入や日傘の使用を奨励する意味でも、現場作業に従事しない社員への手当支給は、熱中症予防の観点から望ましいといえます。
●倒れた同僚をどう助けるか──企業が果たすべき役割
──社員の健康を守るため、企業にはどんな対応が求められているのでしょうか。
厚労省は「職場における熱中症予防基本対策要綱」を定めており、企業は次の4つの柱に基づいて、社員の熱中症予防対策を講じる必要があります。
(1)作業環境管理(作業現場における直射日光を防ぐなど)
(2)作業管理(作業時間の短縮、暑熱順化、服装など)
(3)健康管理
(4)労働衛生教育
このうち、特に対策が遅れているのが、(2)作業管理と(4)労働衛生教育でしょう。
熱中症での死亡事例は、製造業や建設業で最も多く発生しています。これらの業種では、納期や工期が発注元との契約で定められており、それを守ることが優先されがちです。しかし、近年の異常気象を踏まえれば、これらの慣習にとらわれず、余裕のあるスケジュール設定が不可欠です。
また、熱中症の死亡事例では「初動の遅れ」がしばしば指摘されています。屋外での危険な作業は複数でおこなわせるとともに、倒れた同僚に迅速に対応できるよう、初期症状や救急処置を全員が理解しておくことが重要です。