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国分太一さんが申し立てた「日弁連の人権救済制度」って何? 裁判とは違うの?
2025年10月23日 16時03分
#日弁連 #人権救済 #日本テレビ #国分太一

元TOKIOの国分太一さんが10月23日、自身を番組から降板させた日本テレビの対応について、日本弁護士連合会(日弁連)に人権救済の申立てを行ったことが報じられました。

共同通信(10月23日)によると、国分さんは、日テレの人気番組を降板させられた際に、具体的な事実を告知されなかったため、対外的な説明ができず、他番組の降板やスポンサー契約解除などの影響を受けたと主張しているそうです。

「人権救済制度って何?」「裁判とは違うの?」と疑問に思った人も多いでしょう。この仕組みを、具体的な例を交えながら解説します。

元TOKIOの国分太一さんが10月23日、自身を番組から降板させた日本テレビの対応について、日本弁護士連合会(日弁連)に人権救済の申立てを行ったことが報じられました。

共同通信(10月23日)によると、国分さんは、日テレの人気番組を降板させられた際に、具体的な事実を告知されなかったため、対外的な説明ができず、他番組の降板やスポンサー契約解除などの影響を受けたと主張しているそうです。

「人権救済制度って何?」「裁判とは違うの?」と疑問に思った人も多いでしょう。この仕組みを、具体的な例を交えながら解説します。

●人権救済制度とは?

この制度は、私たちの基本的人権を守るために、日弁連という弁護士全員が加入する組織が独自に行っている活動です。

日弁連の人権救済制度を一言で言うと、「裁判を起こさなくても、人権侵害の解決を目指せる、弁護士会による公的な仕組み」です。

日本の弁護士には、「基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする」という法律上の役割があります。この使命に基づき、人権侵害の被害者からの申立てを受け付け、その解決を目指すのが人権救済制度です。

●裁判との決定的な違い

人権救済制度は、裁判ではありません。

裁判所が出す「判決」には強制力があり、損害賠償などを命じることができますが、人権救済制度で出される「措置」には強制力はありません。その代わり、日弁連は専門家の団体として、「これは人権侵害である」という弁護士会としての公的な判断を示します。

強制力がない代わりに、手続きは無料で行え、裁判では解決しにくいデリケートな人権問題や、組織の不当な判断に対し、法律のプロとしての見解を世に示すことができるのです。

なお、日弁連が出す措置には、人権侵害の程度に応じて、「警告」(最も重い)、「勧告」、「要望」といった段階があります。

このほか、意見の表明、助言・協力、再審請求支援などを行っています。

●国分さんの申立ての内容

国分さんの申立ての内容は、デイリー新潮の報道(10月22日)などからみる限り、ハラスメント等の事実それ自体を争おうとしているわけではなく、「日テレの対応の、手続き上の不当性」を日弁連に公的に認定してもらうことのようです。具体的には、以下の点が問題となりそうです。

「不当な決定プロセス」の是正: 降板決定に至るまでの調査で、国分さん側に十分な弁明(自分の言い分を言う)の機会がなかったことや、どの行為が具体的に問題とされたかの説明がなかったなど、不利益を課すための正当な手続(適正手続)を踏んでいない

「説明責任の妨害」の是正: 日テレ側から「口外するな」と指示され、どのような事実が問題とされているのかも明かされなかったため、国分さんが何を発言して良いのかがはっきりしない。このままだとスポンサーやファンに対し、謝罪と説明を行う機会と手段を奪われてしまう

国分さんは、日弁連に「警告」や「勧告」を出してもらうことで、「日テレの対応は間違いだ」という「お墨付き」を得て、社会に対して説明責任を果たすための道筋を開くことを目指しているようです。

●措置には強制力はないが、影響力は大きい

日弁連の人権救済措置(警告、勧告、要望など)には、裁判のような強制力はありませんが、社会的・法的な影響力は大きいものがあります。

これは、全国の弁護士が所属する、日本の法曹界の一部である日弁連が、法律のプロとして公に人権侵害と認めたことを意味するからです。措置を受けた側も、その重みを無視することはできず、事態の改善や再発防止に向けた対応をとることが期待できます。

●これまでの実例

この人権救済制度は、組織の不当な判断や差別的な取り扱いを是正するために、これまでも実際に使われています。

実例1:障害を理由とする大学教員への不当な取り扱い(2025年5月14日公表)

視覚障害のある大学教員が、大学側から障害を理由として、授業を割り当てられないなどの不当な差別的取扱いを受けたとして、人権救済を申し立てました。日弁連は調査の結果、大学の対応に問題があったとして、大学に対して「警告」や「要望」を出しました。

なお、大学側は2025年度後期から申立人に授業を割り当てたと主張しているようです。

実例2:私企業ウェブサイトでのヘイトスピーチ(2022年3月28日公表)

私企業が運営するウェブサイトに、同社のCEOの名義で特定の民族への差別的な言動(ヘイトスピーチ)が掲載されたことに対し、人権救済が申し立てられました。日弁連は、ヘイトスピーチを放置したことは人権侵害であるとして、私企業に対して「警告」を行いました。

その後、日弁連は改善状況等について会社と当時の代表取締役に照会を行ったそうですが、現時点(2025年10月23日現在)では回答は得られていないようです。

国分さんの申立ては、日弁連の判断という公的な評価を得ることで、テレビ局の対応の是非を問い、社会に問題を提起する、一歩と言えるでしょう。

(弁護士ドットコムニュース・弁護士/小倉匡洋)

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