若い世代を中心に利用が広がるマッチングアプリ(マチアプ)。しかし、見知らぬ人とのやりとりが思わぬ被害につながることがあります。
弁護士ドットコムには「プロフィール写真をスクショされて晒された」という切実な相談が寄せられています。
相談者の女性によると、マッチングアプリで出会った男性が、女性の登録写真を勝手にSNSに投稿しました。その後、「職場の人にお前のこと『不細工だ』と言われた」とからかわれ、女性はショックで外出できなくなったといいます。
本人に許可なくマッチングアプリのプロフィール写真をSNSへ投稿する行為に問題はないのでしょうか。もし「晒し」に遭ったら、どう対応すればよいのでしょうか。杉本拓也弁護士に聞きました。
●投稿者に問われるさまざまな法的責任
──マッチングアプリの登録写真を勝手にSNSに投稿する行為には、どのような法的問題がありますか。
マッチングアプリのプロフィール写真を「本人の同意」なくSNSへ転載する行為は、一般に違法となりえます。
まず、容貌を無断で公表されない利益(人格権の一内容である肖像権・プライバシー権)の侵害にあたります。
加えて、写真が本人の撮影したものであれば、無断転載は著作権(複製権・公衆送信権)の侵害となります。
撮影者が他人で著作権者が別にいる場合でも、本人の肖像権は独立して保護されます。アプリの利用規約が第三者による転載を禁じている例も多く、規約違反としてアカウント停止等の運用上の措置が取られることもあります。
──SNSの投稿に「不細工」などと侮辱的なコメントを添える行為はどうでしょうか。
事実の摘示により社会的評価を低下させれば名誉毀損(刑法230条/民法709条)となりえます。真実性や公共性があるかどうかが違法性阻却の論点になりますが、私的な晒しでは通常認められないでしょう。
また、そこまで至らない場合でも、人格的価値を傷つける表現であれば、名誉感情侵害(侮辱)として民事上の不法行為責任を追及することができます。
被害者の氏名が示されていなくても、画像や属性の組合せで「特定可能」な状態であれば、法的責任を問う余地があります。
●被害に遭ったらまず「証拠保全」
──実際にこのような被害に遭った場合、どのような法的手段や対応が考えられますか。
実務上は、次のような流れとなります。
(1)証拠保全(画面・URL・投稿ID・日時・コメントの保存) (2)プラットフォームへの削除申請(規約違反・権利侵害主張) (3)裁判所の仮処分による迅速な削除
2025年4月1日施行の「情報流通プラットフォーム対処法」(情プラ法)により、大規模プラットフォームには削除対応の迅速化・運用の透明化が義務付けられ、申し出から14日以内の回答等が求められることになりました。
2025年5月には、Google、LINEヤフー、Meta、TikTok、Xの5社が大規模事業者として指定されています。
投稿者への慰謝料請求で、身元特定が必要な場合は、2022年に創設された非訟手続「発信者情報開示命令」を利用し、サイト運営者と接続事業者に対する開示を一体で申し立てることができます(従前より迅速に開示が可能です)。
特定後は、肖像権・プライバシー権侵害や名誉毀損に基づく慰謝料、弁護士費用相当額等の賠償請求を求めることができます。悪質な事案では、名誉毀損罪・侮辱罪の刑事告訴も検討に値します。
被害に遭った場合は、早めに弁護士へ相談し、削除と拡散防止を最優先に、加害者特定と賠償請求の是非を段階的に判断するのがよいでしょう。