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「預貯金」は遺産分割の対象…最高裁の初判断が実務に与えた「3つの影響」
2017年04月16日 09時03分

最高裁第1小法廷は4月6日、遺産相続問題で親族間が争っている場合に、預金の払い戻しを認めない判断を示した。日本経済新聞の報道によれば、裁判は、亡き母が残した3300万円の法定相続分(2分の1)の払い戻しを息子が求めたもので、2審の大阪高裁は払い戻しを認める判決を出していた。

今回、小法廷で2審判決を破棄した背景には、昨年12月に別の裁判で、最高裁大法廷が、預貯金を「遺産分割」の対象になると、過去の判例を変更したことがあげられそうだ。相続問題に詳しい弁護士はどう評価するのだろうか。須山幸一郎弁護士に聞いた。

最高裁第1小法廷は4月6日、遺産相続問題で親族間が争っている場合に、預金の払い戻しを認めない判断を示した。日本経済新聞の報道によれば、裁判は、亡き母が残した3300万円の法定相続分(2分の1)の払い戻しを息子が求めたもので、2審の大阪高裁は払い戻しを認める判決を出していた。

今回、小法廷で2審判決を破棄した背景には、昨年12月に別の裁判で、最高裁大法廷が、預貯金を「遺産分割」の対象になると、過去の判例を変更したことがあげられそうだ。相続問題に詳しい弁護士はどう評価するのだろうか。須山幸一郎弁護士に聞いた。

●昨年12月の最高裁判決とは?

「報道でも触れられているとおり、最高裁は、2016年12月19日、これまでの『預貯金は遺産分割とならない』としてきた判例を見直し、『普通預金債権、通常貯金債権、定期貯金債権は、相続開始と同時に当前に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となる』との初判断を示しました」

従来はどのように判断されていたのか。

「これまでの判例は、預貯金は原則として『法定相続分に従い、相続開始と同時に当然に分割して承継される』とされていました。

したがって、預貯金については、遺産分割を行わなくても、相続人は、銀行などの金融機関に対して、自己の法定相続分に見合う金額の払戻しを求めることができました。そして、金融機関が応じない場合には、自分の法定相続分に関する預金払戻請求訴訟を提起して最終的に払い戻しを受けることが出来ました。

また、家庭裁判所で、遺産分割調停・審判を行う際も、預貯金を遺産分割の対象とすることについて相続人の合意がない場合には、預貯金は遺産分割の対象から除外されていました」

●2016年12月最高裁の決定が与える「3つの影響」

「2016年12月の最高裁の決定が、『普通預金債権、通常貯金債権、定期貯金債権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となる』と判断して、預貯金の分割に関するルールを変更したことについて、実務的には大きく分けて3つの影響があると言われています。

1つめは、預金の払い戻し請求に対する金融機関の対応です。

これまでは、遺産分割前であっても、一部の相続人から自分の法定相続分に見合う額の払戻し請求を受けた場合、これに応じる金融機関もありました。しかしながら、今回の最高裁の決定を受け、相続人全員の遺産分割協議書を提出しなければ一部の相続人からの払い戻し請求には応じないという従来からの対応を徹底することになりました。

2つめは、遺産分割の結果が従来と異なる場合が出てくることになりました。

例えば、預貯金以外の遺産がほとんどない場合、被相続人からの生前贈与があるとして特別受益の主張をしたり、被相続人の療養看護に尽くしたとして寄与分を主張したくても、預貯金以外の財産がほとんど無い場合には、実際上は主張する意味がなく、相続人間に不公平が残ることがありました。

新しいルールにより、預貯金も遺産分割の対象とされることで、相続人間の実質的公平を図ることが出来る場面が出てくることになりました。

3つ目は、遺産分割協議・調停の長期化の可能性です。

従来のルールでは、たとえ不公平であっても最高裁の判断があるから仕方が無いとして特別受益の主張等を諦めることがあり、良くも悪くも遺産分割が早く終わることもありました。しかし、新しい決定のもとでは、特別受益等を主張する実益が出てきますので、遺産分割が長引く場面が出てくることが予想されます。

遺産分割の解決までに長期化する場合、相続開始後に必ず必要となる葬儀費用等の支出、相続税の納税資金などについて、被相続人の預金から円滑に支出できないケースが多くなることが想定され、相続人に資力がない場合には深刻な影響が生じる可能性があります」

どうやら、良い影響ばかりではなさそうだ。

●定期預金債権、定期積金債権も普通預金と同様に

須山弁護士によれば、今回の最高裁判決では、昨年12月の判断には含まれていない点もある。

「今回の4月6日の最高裁第1小法廷判決は、2016年12月の最高裁決定の判断には含まれていなかった『定期預金債権』、『定期積金債権』についても、12月の最高裁決定と同様の理由から相続開始と同時に当前に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるという判断を示したものです。

今後は定期預金債権、定期積金債権についても、普通預金と同様の取り扱いとなることが明示されました」

(弁護士ドットコムニュース)

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