BTSのJINさんが、イベントの際に日本人の50代女性から頬にキスをされ、韓国の警察がこの女性に対する捜査に着手した、と報じられています。
聯合ニュースの2月27日の報道によると、2024年6月に、BTSのJINさんとファン約1000人がハグをするイベントが開催された際、このイベントに参加していた50代の日本人女性がJINさんの頬に、許可なくキスなどをしたとのことです。
イベント直後からSNSでは、今回の女性かどうかは不明ながらも、JINさんに無理やりキスしたファンがいたと問題視されていました。
報道によれば、韓国の警察は、国際刑事警察機構(インターポール)を通じて日本の警察に捜査協力を要請し、女性の身元を特定し、先月立件したとのこと。警察はこの女性に出頭を要請するなどの捜査に着手したそうです。
今回、事件は韓国で起きましたが、韓国の人気俳優や歌手は日本でも同様のイベントを行っています。もし日本で起きたファンイベントで、無理やりキスした場合、どのような罪に問われるでしょうか。
● 日本であれば、不同意わいせつ罪や暴行罪となる
日本であれば、「不同意わいせつ罪」(刑法176条。6カ月以上10年以下の拘禁刑(※2025年6月1日まで懲役))や、各都道府県の「迷惑防止条例違反」、「暴行罪」(刑法208条。2年以下の懲役または30万円以下の罰金)の成立が考えられます。
この中では、不同意わいせつ罪が最も重いのですが、公共の場で頬にキスをした行為について、「わいせつ」と評価されるかは微妙です。
次に、迷惑防止条例違反について検討します。
東京都の場合なら、「卑わいな言動」に対し、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます(条例5条1項3号、8条1項2号)。
この「卑わいな言動」は、不同意わいせつ罪における「わいせつ」よりも範囲が広いと考えられているため、こちらにあたると評価される可能性もあります。
ハグも許されるイベントでの、頬へのキス、ということで、あいさつ的な意味合いが強く、卑わいな言動とも評価できないという評価がされた場合には、暴行罪にとどまることになります。
● 韓国の「性暴力処罰法」違反とされている
共同通信の報道(2月27日)によると、韓国警察が「性暴力処罰法違反」の疑いでこの女性に出頭を求めたとしています。
この「性暴力処罰法」が韓国のどの法令を指しているのかは、必ずしもはっきりしません。
韓国では、刑法で性犯罪についての処罰規程が置かれているほか、「性暴力犯罪の処罰等に関する特例法(以下、「特例法」といいます。)」があるようです。
この中で、本件にあてはまりそうなものとして、まず、韓国刑法の「強制わいせつ」にあたる罪があります。
暴行または脅迫により、人に対しわいせつな行為をした者は、10年以下の懲役または1500万ウォン以下の罰金とされているようです(韓国の刑法298条。なお1500万ウォンは日本円に換算すると約150万円)。
次に、特例法の中に、公園・集会場所その他公衆が密集する場所で人に対しわいせつな行為をした者は、3年以下の懲役又は3000万ウォン以下の罰金とされる規定があるようです(特例法11条)。
また、この女性が最初からJINさんに承諾なくキスする目的で、それを秘してイベント会場に入ったとすると、日本法の場合なら建造物侵入罪(日本の刑法130条前段)が成立し得ます。
この解釈を前提とするならば、体育館への立ち入りを「人の管理する建造物」への侵入にあたるとみて(韓国刑法319条1項)、さらにこの建造物侵入+強制わいせつが、特例法3条1項の「特殊強制わいせつ」にあたるとして、無期懲役または5年以上の懲役、という考え方も一応成り立ち得るようには思います。
ただ、これらの条文の解釈が韓国でどのように行われているのか、ということについてまでは筆者には分かりません。
日本であれば、特例法3条1項まで適用するのは法定刑が重すぎるとは思いますし、条文の文言から素直に適用されそうなのは、特例法11条かと思われます。