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主婦作家が有名ブランドを訴えた「ねこ刺繍」著作権訴訟が和解、何がポイントだったのか?
2016年03月08日 11時29分

白シャツの胸ポケットからネコがひょっこり顔を出している――。そんな「ねこ刺繍」のデザインで人気の刺繍アーティストhiroko氏が、作品の絵柄をフランスの有名ブランド「ポール & ジョー」の一部商品に使用されたと訴えていた裁判で、両者の和解が成立した。ポール & ジョー側はhiroko氏の刺繍作品の著作権を認め、対象商品がそれに抵触する恐れがあることから対象商品の販売を停止し、hiroko氏が訴訟を取り下げることで双方が合意した。

(両者の比較画像については、ポール&ジョーのサイトhttp://www.paulandjoe.com/en/actualites-105.htmlに掲載)

白シャツの胸ポケットからネコがひょっこり顔を出している――。そんな「ねこ刺繍」のデザインで人気の刺繍アーティストhiroko氏が、作品の絵柄をフランスの有名ブランド「ポール & ジョー」の一部商品に使用されたと訴えていた裁判で、両者の和解が成立した。ポール & ジョー側はhiroko氏の刺繍作品の著作権を認め、対象商品がそれに抵触する恐れがあることから対象商品の販売を停止し、hiroko氏が訴訟を取り下げることで双方が合意した。

(両者の比較画像については、ポール&ジョーのサイトhttp://www.paulandjoe.com/en/actualites-105.htmlに掲載)

●「ハンカチ1枚でも個人のクリエイターとして声を上げねばいけない」

報道によると、hiroko氏は奈良県に住む主婦で、胸ポケットからネコが顔を覗かせる刺繍を施したシャツを写真共有サイト「フリッカー」に掲載したことから人気に火がついた。猫好きの次男のために私的に作ったものだったが、写真を見た海外のファンから届いた熱烈な声に応じ、注文を受けるようになったという(現在は注文は受け付けていない)。

一方で、「ポール & ジョー シスター」は「ポール & ジョー」のセカンドライン(普及版)で、アイコンのひとつであるネコのプリントを施した衣服や雑貨が人気を集めていた。hiroko氏は、その2015年秋冬のコレクションに、自身の刺繍と酷似した商品(タオルハンカチ、シューズ、シャツ、ジャケット)を発見した。hiroko氏は「ハンカチ1枚でも個人のクリエイターとして声を上げねばいけない」と考え、「ポール & ジョー」側に、使用をやめるよう警告したが、受け入れられなかったため、今年1月に使用の差し止めなどを求めて提訴していた。

hiroko氏は和解を受けて、ブログで「私は同じような問題を抱えている個人の弱小な立場のイラストレーターさんや写真家さんにも『個人が企業に何か言っても無駄』ではなかったことを伝えたいです。(しんどかったけど)」と感想をつづっている。

●争点は何だったのか?

今回の問題について、著作権の問題に詳しい齋藤理央弁護士に聞いた。

「和解に関する両者の発表を見た限りですが、ポール & ジョーは著作権侵害そのものを認めたわけではないようです。あくまで、刺繍にhiroko氏の著作権が存在することと、ポール & ジョーの商品がhiroko氏の『著作権に抵触する恐れがある』ことを認めるに留めています。

争われていたのは、シャツのデザイン全体の著作権ではなく、シャツにあしらわれたネコの刺繍そのものの著作権のようです。具体的に争われていたのは、次の2点だったと考えられます。

(1)hiroko氏の刺繍に著作物性があったのか、

(2)ポール & ジョーがhiroko氏の刺繍に依拠していたのか(参考にして作品を作り出したのか)

著作権は、対象に創作性が認められる場合に初めて成立します。hiroko氏の刺繍は、色づかいなどに創意工夫を凝らされているようであり、創作性があると判断される可能性は高いと思われます。つまり、ポール & ジョーもhiroko氏の刺繍の『著作物性』は肯定される可能性が高いと判断したのではないでしょうか。

そこで次に問題となるのがポール & ジョーのデザインが、hiroko氏の刺繍に依拠しているかどうかです。つまり、hiroko氏の刺繍を参考にポール & ジョーのプリントが作成されたかどうかです。

ポール & ジョーが、ポール & ジョーのプリントについて独自に創作していることを立証しなければならないか、将来的にそうなる可能性を十分に予見しなければならない局面となったのではないかと思われます。

ポール & ジョーが独自創作性の立証について、困難であるとか、立証は可能でも、得られるメリットに比べて負担が大きすぎるので、和解したほうが得策と判断したのではないかと推測されます」

(弁護士ドットコムニュース)

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