9618.jpg
笹子トンネル事故で遺族が「提訴」 知っておくべき訴訟のポイントは?
2013年05月14日 15時00分

昨年12月の中央自動車道笹子トンネル(山梨県)の天井崩落事故で、当時ワゴン車に乗っていて犠牲になった5人の遺族たちが、中日本高速道路(名古屋市)などに対して損害賠償を求める訴訟を5月15日に起こすと報じられている。

各社の報道によると、遺族は中日本高速道路と保守・点検業務を担っていた中日本ハイウェイ・エンジニアリング東京(本社、東京都新宿区)の2社に対し、事故を回避する注意義務を怠った過失があるとして、使用者責任などを問う。今回、遺族の代理人を務める弁護士は、国の責任を合わせて指摘しながらも、訴訟が長びく懸念などから国賠訴訟は断念したという。

高度成長期のインフラが続々と老朽化する中、今回のような痛ましい事故を繰り返さないためには、しっかりと業者や国が負うべき責任範囲を明確にしておく必要があるだろう。訴訟を見守るうえで知っておくべきポイントを、前川直輝弁護士に整理・解説してもらった。

●責任は明らか。遺族の気持ちに配慮しつつ、原因の徹底究明を

——損害賠償は認められるでしょうか。

「トンネルの壁や天井が道路に落下して、直接自動車に衝突するなどした場合、中日本高速道路株式会社はその安全点検や補強・改修工事を怠った責任がありますし、点検の不備についてその任に当たっていた会社も責任を負うことが明らかでしょう」

——それでは、訴訟は今後どうなりそうですか。

「一般に、損害賠償訴訟の直接的な目的は金銭の支払ですから、責任に争いがなければ、和解が成立するケースも多いです。しかし、今回は未曾有のトンネル事故で、多数の死傷者が出ていますから、ご遺族や被害者の方々としては、一体何が原因で事故が発生したのか、真実を解明したいというご希望が強いのではないかと想像します」

——原因解明とは、具体的にはどんなことですか。

「今回の事故原因については、天井板を支えるボルトが外れていたことが挙げられています。その点について、検査で見落としがあったのは間違いないにしても、それ以外の要因も複数考えられます。検査の方法、人員体制、ボルトや周辺部品の耐久性、天井の構造上の欠陥、トンネル自体の構造が適切であったか、というように複合的な原因が重なった可能性があります。

二度と同じことが起こらないように、事故原因を徹底的に究明し、各地の道路を管理する国、地方自治体、企業に十分な管理を行わせる。原告の皆さんの気持ちに十分配慮する必要はありますが、今回の裁判はその契機とするべきです」

前川弁護士は「私たちもいつこういう被害に遭うか分からないのですから、自分たちの問題として推移を見守りたいものです」と話す。今回、国賠訴訟は提起されないようだが、国や自治体側も責任が全くないとはいえないだろう。その責任を自覚して、しっかりと原因究明に取り組んでもらいたい。

(弁護士ドットコムニュース)

昨年12月の中央自動車道笹子トンネル(山梨県)の天井崩落事故で、当時ワゴン車に乗っていて犠牲になった5人の遺族たちが、中日本高速道路(名古屋市)などに対して損害賠償を求める訴訟を5月15日に起こすと報じられている。

各社の報道によると、遺族は中日本高速道路と保守・点検業務を担っていた中日本ハイウェイ・エンジニアリング東京(本社、東京都新宿区)の2社に対し、事故を回避する注意義務を怠った過失があるとして、使用者責任などを問う。今回、遺族の代理人を務める弁護士は、国の責任を合わせて指摘しながらも、訴訟が長びく懸念などから国賠訴訟は断念したという。

高度成長期のインフラが続々と老朽化する中、今回のような痛ましい事故を繰り返さないためには、しっかりと業者や国が負うべき責任範囲を明確にしておく必要があるだろう。訴訟を見守るうえで知っておくべきポイントを、前川直輝弁護士に整理・解説してもらった。

●責任は明らか。遺族の気持ちに配慮しつつ、原因の徹底究明を

——損害賠償は認められるでしょうか。

「トンネルの壁や天井が道路に落下して、直接自動車に衝突するなどした場合、中日本高速道路株式会社はその安全点検や補強・改修工事を怠った責任がありますし、点検の不備についてその任に当たっていた会社も責任を負うことが明らかでしょう」

——それでは、訴訟は今後どうなりそうですか。

「一般に、損害賠償訴訟の直接的な目的は金銭の支払ですから、責任に争いがなければ、和解が成立するケースも多いです。しかし、今回は未曾有のトンネル事故で、多数の死傷者が出ていますから、ご遺族や被害者の方々としては、一体何が原因で事故が発生したのか、真実を解明したいというご希望が強いのではないかと想像します」

——原因解明とは、具体的にはどんなことですか。

「今回の事故原因については、天井板を支えるボルトが外れていたことが挙げられています。その点について、検査で見落としがあったのは間違いないにしても、それ以外の要因も複数考えられます。検査の方法、人員体制、ボルトや周辺部品の耐久性、天井の構造上の欠陥、トンネル自体の構造が適切であったか、というように複合的な原因が重なった可能性があります。

二度と同じことが起こらないように、事故原因を徹底的に究明し、各地の道路を管理する国、地方自治体、企業に十分な管理を行わせる。原告の皆さんの気持ちに十分配慮する必要はありますが、今回の裁判はその契機とするべきです」

前川弁護士は「私たちもいつこういう被害に遭うか分からないのですから、自分たちの問題として推移を見守りたいものです」と話す。今回、国賠訴訟は提起されないようだが、国や自治体側も責任が全くないとはいえないだろう。その責任を自覚して、しっかりと原因究明に取り組んでもらいたい。

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る