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スギ花粉症は「公害病」? 国を訴えたらどうなる?
2013年03月21日 11時43分

花粉症の時期が到来し、目のかゆみや鼻炎、くしゃみに悩まされている人も多いのではないだろうか。環境省によると、今年は全国的にスギ・ヒノキ花粉の飛散量が多くなりそうだという。

花粉症の原因となる花粉にはスギ、ヒノキ、ブタクサ、マツなど、さまざまな種類があるが、代表的なのは春先に見られるスギの花粉症だ。1960年代に日本で初めてスギ花粉症が報告されて以来、年々増加傾向にある。

スギは、日本を代表する木材として建築や家具など多方面に使われてきた。戦後の高度経済成長の時代には、需要の増加に応えるため、政府が主導するかたちで植樹が推進され、全国の山にスギ林が作られた。

そのような経緯から、「花粉症は国策で行われた人口植林が原因だ」と批判する意見も一部にある。そこで、花粉症は公害病であるとして、国に対して損害賠償を求めた場合、訴えは認められるだろうか。湯川二朗弁護士に話を聞いた。

●「花粉症」国家賠償請求訴訟のための3つの考え方

花粉症の被害について、国家賠償請求訴訟をする方法として、湯川弁護士は「(1)国の植林政策を問題にする(2)国の植林行為を問題にする(3)実効的な花粉症対策をしない不作為を問題にする」という3つの方法が考えられると指摘する。

この点、(1)植林政策については「政策そのものを問うのは難しい」といい、(2)植林行為についても、「因果関係の特定の問題や過失の問題というハードルがある」と述べる。

そのうえで、国の植林行為と花粉症の蔓延の時間的なズレについて、次のように指摘する。

「国が植林事業を大幅に拡大し始めたのは1950年頃からですが、その時点ではスギ花粉症は顕在化しておらず、実際に花粉症が蔓延し始めたのは1980年頃からです。

したがって、国の責任を問えるのはその頃以降の植林となりますが、スギ花粉の量が増えるのは樹齢30年以上と言われていますから、結局、責任を問えるのはごく一部の範囲に限られるのではないでしょうか」

●国に対して裁判を起こす意味がないわけではない

また、(3)実効的な花粉症対策の不在についても、国の責任を問うのは難しい面があるという。

「行政権限の不行使が違法となるとしても、水俣病国家賠償請求事件の最高裁判決(平成16年10月15日)に照らしてみると、水俣病のような深刻な健康被害とはいいにくいでしょう。

また、患者数も極めて多く、対策費用も莫大に要します。実際のところ、国が全く花粉症対策をしていないわけでもないということからすると、国家賠償責任は認められにくいのではないでしょうか」

このように、花粉症について国の賠償責任が認められるかどうかについて、湯川弁護士は悲観的な見方を示している。しかし、訴訟を起こす意味がまったくないわけではないという。

「社会に問題提起をして、国にさらに花粉症対策を行わせることを目的として、国家賠償訴訟を提起してみる価値はあると思います。また、少しでも責任が認められる余地があるのであれば、提起してみる価値は十分あるのではないでしょうか」

多くの人にとって花粉症は春先の大きな悩みの種で、社会全体の生産性にもマイナスの影響を与えているのではないかと思えるほどだ。国に抜本的な対策を迫るためにも、誰かが裁判を起こすことは意味があるのかもしれない。

(弁護士ドットコムニュース)

花粉症の時期が到来し、目のかゆみや鼻炎、くしゃみに悩まされている人も多いのではないだろうか。環境省によると、今年は全国的にスギ・ヒノキ花粉の飛散量が多くなりそうだという。

花粉症の原因となる花粉にはスギ、ヒノキ、ブタクサ、マツなど、さまざまな種類があるが、代表的なのは春先に見られるスギの花粉症だ。1960年代に日本で初めてスギ花粉症が報告されて以来、年々増加傾向にある。

スギは、日本を代表する木材として建築や家具など多方面に使われてきた。戦後の高度経済成長の時代には、需要の増加に応えるため、政府が主導するかたちで植樹が推進され、全国の山にスギ林が作られた。

そのような経緯から、「花粉症は国策で行われた人口植林が原因だ」と批判する意見も一部にある。そこで、花粉症は公害病であるとして、国に対して損害賠償を求めた場合、訴えは認められるだろうか。湯川二朗弁護士に話を聞いた。

●「花粉症」国家賠償請求訴訟のための3つの考え方

花粉症の被害について、国家賠償請求訴訟をする方法として、湯川弁護士は「(1)国の植林政策を問題にする(2)国の植林行為を問題にする(3)実効的な花粉症対策をしない不作為を問題にする」という3つの方法が考えられると指摘する。

この点、(1)植林政策については「政策そのものを問うのは難しい」といい、(2)植林行為についても、「因果関係の特定の問題や過失の問題というハードルがある」と述べる。

そのうえで、国の植林行為と花粉症の蔓延の時間的なズレについて、次のように指摘する。

「国が植林事業を大幅に拡大し始めたのは1950年頃からですが、その時点ではスギ花粉症は顕在化しておらず、実際に花粉症が蔓延し始めたのは1980年頃からです。

したがって、国の責任を問えるのはその頃以降の植林となりますが、スギ花粉の量が増えるのは樹齢30年以上と言われていますから、結局、責任を問えるのはごく一部の範囲に限られるのではないでしょうか」

●国に対して裁判を起こす意味がないわけではない

また、(3)実効的な花粉症対策の不在についても、国の責任を問うのは難しい面があるという。

「行政権限の不行使が違法となるとしても、水俣病国家賠償請求事件の最高裁判決(平成16年10月15日)に照らしてみると、水俣病のような深刻な健康被害とはいいにくいでしょう。

また、患者数も極めて多く、対策費用も莫大に要します。実際のところ、国が全く花粉症対策をしていないわけでもないということからすると、国家賠償責任は認められにくいのではないでしょうか」

このように、花粉症について国の賠償責任が認められるかどうかについて、湯川弁護士は悲観的な見方を示している。しかし、訴訟を起こす意味がまったくないわけではないという。

「社会に問題提起をして、国にさらに花粉症対策を行わせることを目的として、国家賠償訴訟を提起してみる価値はあると思います。また、少しでも責任が認められる余地があるのであれば、提起してみる価値は十分あるのではないでしょうか」

多くの人にとって花粉症は春先の大きな悩みの種で、社会全体の生産性にもマイナスの影響を与えているのではないかと思えるほどだ。国に抜本的な対策を迫るためにも、誰かが裁判を起こすことは意味があるのかもしれない。

(弁護士ドットコムニュース)

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