この事例の依頼主
50代 男性
依頼者は、自宅の改築工事を相手方である施工業者に依頼しました。この工事については、依頼者の職業上の必要もあり、仮住まいを用意せず、在宅のまま工事を行うことになりました。部屋の荷物については、工事の進捗状況に応じ、依頼者が移動させることになっていました。また、依頼者の職業上の必要性により、工事のスケジュールは事前に厳密に確定させておく必要がありました。依頼者は、上記条件を明示したうえで、複数の業者に工事の見積もり依頼をしたところ、相手方は他の業者よりも早く、かつ、安く工事を行うとして、依頼者からの工事の受注を取り付けました。しかし、いざ工事に着工すると、相手方は工程表どおりの工事を行いませんでした。依頼者が、工程表どおりに工事をしてもらわないと困るなどと繰り返し求めたところ、相手方は、依頼者が不合理な要求をするとして、ある日突然、職人や工具等を引き上げて、一方的に工事を中断してしまいました。当時の自宅の状況は、屋根や壁がはがされた状況であるにも関わらず、雨漏り防止等に必要な措置がされていないというひどいものでした。依頼者は、相手方に対し、工事の継続を求めましたが、依頼者がおよそ受け入れることのできない条件を受け入れることを条件に工事の継続をするなどと述べたことから、結局工事は再開されないまま、合意により解除されました。依頼者はその後、他の業者に工事を再発注し、自宅のリフォームを終えました。しかし、2つの業者に依頼したことで2重に費用が発生した結果、リフォームの内容は、当初予定していたものの5割程度となり、これに要した費用は、当初の予定よりも8,000,000円も多くなりました。依頼者は上記結果に不満を持ち、私に余分にかかった費用を取り戻してほしいと相談しに来ました。
建物建築工事が途中で終了した場合、工事の発注者(依頼者)は、受注者(相手方)に対し、工事の出来高に応じた報酬を支払う義務があります。依頼者は、私に相談に来た時点で、相手方に対し、9,000,000円を超える報酬を支払っていましたが、私はこの金額が不当であると考えました。しかし、自宅の工事は他の業者により既に完成されており、相手方が工事を中断したときの工事の進み具合がどの程度であったか、客観的に判断する資料がありませんでした。そこで、後に工事を発注した業者に連絡をとり、この点を証明する資料がないか確認しました。すると、工事の見積もりに利用した写真等が多数あるとのことでしたので、これらの写しを送ってもらい、あわせて、工事を引き継いだ当時の依頼者の自宅の状況の説明を受けました。これらをもとに裁判所に訴訟を提起したところ、約1年半(建築訴訟は検討すべき事項がかなり多くなるため、解決までに相当な時間を要します。しかし、その分得られる利益も多いことから、時間については目をつぶらざるを得ません)の審理の結果、和解により、最終的には請求額約12,000,000円に対し8,000,000円の支払いを受けることができました。
建築訴訟は、建物のどの部分に、どのような不具合があったか、本来の工事計画と比較し、どの点に不備があったか、工事がどの程度進行していたかなど、様々な項目を検討する必要があり、しかも、建物建築の見積書等を見ればわかるとおり、検討項目は他の事件と比較して、かなり多くなります。そのうえ、事件によっては建築に関する専門的知識も必要となります。そのため、東京地裁では、建築事件の専門部が設置されており(建築集中部)、本件も同部が担当することとなりました。また、本事件の審理では、建築専門家による専門委員が選任されました。最終的には、工事の細かい部分までは立証することができなかったものの、相手方が工事を放棄したことに合理的な理由がないとして、裁判所が上記8,000,000円を支払うよう相手方に強く働きかけ、その結果、上記8,000,000円満額の回収ができました。建築に関する事件は、法律上、建築上の専門知識が必要となるため、個人で対応することはお勧めできません。本件の私の依頼者は、私に相談するときには、1,000,000円で解決する内容の和解書に署名捺印をするところでした。このようなことにならないようにするため、弁護士に依頼することが必要な事件だと思います。