この事例の依頼主
年齢・性別 非公開
相談に来られる前に掲示板運営者から任意でIPアドレス・タイムスタンプ(投稿した年月日時間分秒)の開示を受けていた依頼者が、IPアドレスから割り出された経由プロバイダに対し、さらに発信者情報を任意に開示することを求めていたところ、プロバイダ側が対応を先延ばしにし、投稿から6か月が経過した後になって、「弊社は問題となっているIPアドレスに係る回線をさらに他のプロバイダに提供しているので、発信者情報を保有していない」という趣旨の回答がされたため対応に行き詰ったことから、ご相談に来られました。
一般的にプロバイダは誹謗中傷等の投稿をした際のIPアドレスやタイムスタンプを、3か月~6か月程度しか保存していません。そのため、本件では依頼を受けて裁判所に対する申立て等をしても、情報を消去してしまったという理由で失敗することがかなり強く見込まれました。そのため、依頼者にその旨説明し、失敗して弁護士費用が無駄になるリスクを負ってでも事件処理を進めたいということであれば依頼を受けると伝えました。依頼者はそれでも事件処理を進めたいということでしたので、緊急のため最優先で準備をし、相談から3日後(書き込みから約7か月経過後)に裁判所に発信者情報消去禁止仮処分命令の申立てをしました。申立ての1週間後くらいにプロバイダ側から連絡が来ました。すると、そのプロバイダもさらに他のプロバイダに回線を提供しているとのことで、発信情報の保存をしてもらうことができませんでした。そこで、さらにその1週間後に、当該他のプロバイダに対して発信者情報消去禁止仮処分命令の申立てをしました。申立て後1週間が経過したころにプロバイダ側から連絡がありました。このときすでに書き込みから7か月半が経過していたので、正直なところ良い結果は期待していませんでしたが、発信者情報の特定と情報の保存をすることができたとのことでした。その後発信者情報開示請求訴訟を経て、発信者情報の開示を受けることができました。
本件の依頼者は、私の前にも何人か他の弁護士に本件を相談したそうですが、書込みから期間が経過しすぎていたことから依頼を全て断られたそうです。結果を残すことができる見込みが低いのに、安くない弁護士費用を依頼者に支払わせることを良しとしない弁護士も多くおり、その様な弁護士の判断は決して間違っていないと思います。私は見込みの薄い事件でも、依頼者がそのことを十分に理解したうえでそれでも依頼したいということであれば、明らかに無理な事件を除き、なるべく受任することにしています。結果見込みどおり失敗することもありますが、本件については受任して良かったと思いました。