この事例の依頼主
男性
相談前の状況
相手方企業で20年ほど営業職を勤めてきた相談者は、2年ほど前から異動先の上司(役員)から、ノルマを達成できていないことに対して皆の前で大声で怒鳴られる、後輩の育成ができていない、新人をやめさせてばかりいる、などと繰り返し発言され、ある日、同様のことを上司から言われ、県外への異動を命じられた際に、感情的になり、当該企業を辞める旨述べた。相手方企業はこれを引き留めなかった。しかし、後日、上司による上記言動は、相談者を辞めさせるためであると主張し、強迫による退職の意思表示であるから、取り消すと主張した。退職の意思表示が認められれば、その間の賃金が支払われていないことになるので、賃金の支払い請求を行った。
解決への流れ
代理人に就任し、相手方に対して内容証明郵便を送付し、民事交渉を開始した。相手方は、上司による言動は認めず、異動も命令ではなく、提案であったと主張。労働審判手続を申立て、審判期日も4回ほど設けられたが、相手方は支払いには応じなかった。そのため、通常の民事訴訟へ以降することになった。相談者は結果はともかく悔いが無いように最後まで戦いたいとの意向であったから、途中の和解交渉も断ることとし、尋問手続が行われた。尋問にて相手方上司による不適切な言動に関する心証は得られたものの、退職の意思表示が強迫によるものとまではいえないとの心証が開示された。そのため、相談者と相談の上、50万円での和解に応じることとした。
結果からすると、敗訴に近い和解金額であった。しかし、相談者は最後までしっかりと争いたいとの意向であったから、途中の和解交渉でも安易に譲歩することはなかった。近年、企業側が、真実は解雇手続なのに、労働者に退職合意書へサインさせることで退職を装う事例がある。解雇と退職とでは、法律構成も大きくことなり、争いやすさも変わってくるので、安易に退職届や退職合意書にサインしないようにしていただきたい。