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入院中の高齢者から880万円を盗んだ元看護師「パートナーに見捨てられたくなかった」 涙ながらに語った動機
2023年08月25日 09時54分

勤務する病院に入院中の高齢患者3名のカバンなどからキャッシュカードを抜き取り、合計880万円もの現金を盗んだとして、窃盗罪に問われた元看護師の被告人女性(30代)に対して、大阪地裁は2023年7月、懲役3年、保護観察付執行猶予5年の判決を下した。

被告人はなぜ看護師の立場を悪用してしまったのか。裁判の中で明らかになった複雑な心情を追った。(裁判ライター:普通)

勤務する病院に入院中の高齢患者3名のカバンなどからキャッシュカードを抜き取り、合計880万円もの現金を盗んだとして、窃盗罪に問われた元看護師の被告人女性(30代)に対して、大阪地裁は2023年7月、懲役3年、保護観察付執行猶予5年の判決を下した。

被告人はなぜ看護師の立場を悪用してしまったのか。裁判の中で明らかになった複雑な心情を追った。(裁判ライター:普通)

●「お金がないと見捨てられる」

被害者の3名は、いずれも被告人が担当する患者であった。病室には財布など貴重品を入れるセーフティボックスもあったが、病院の中という安心感からか、ここには入れず無造作に置かれていることもあった。キャッシュカード等には暗証番号をメモ書きしているものもあり、被告人は、患者の荷物を整理する中でこうしたカードを見つけ、犯行に及んだという。

全4回の公判において、被告人は終始、憔悴した様子で、ぽつりぽつりと静かに言葉を発していた。

被告人の両親は離婚しており、次々に交際相手を変える母親のもとで育った。母親が交際相手を「社長」などと呼ぶ姿を目撃していた一方で、生活保護を受給していた父親の暮らしぶりは質素で、何も入っていない冷蔵庫が記憶に残っていた。成長するにつれ、人はお金があれば選ばれる、お金がなければ見捨てられるという思いを抱くようになったという。

被告人には交際関係にあった同性のパートナーがいたが、お金がなければ見捨てられるとの不安から事件を引き起こしてしまったと語った。また、職場で上司からパワハラを受け、メンタルクリニックを受診していたといい、精神的な不安も重なった。犯行後は「人のお金を盗んで何をしているんだろうという思いがあった」と供述した。

犯行時の心境については、「自分の預金残高が増えることに安心したかった」などとして、何かを購入しようとの目的があったわけではないと否認した。弁護側の情状証人として出廷した病院の同僚は、「質素な生活をしているので金遣いなどに変化を感じたことはない」と証言。 被害金には手をつけておらず、被害者3名には被害金の返還のほか、示談金も支払われていた。

看護師になったきっかけは「お金のためだった」という。病院からは解雇されており、「患者のために勉強したり、自分なりに頑張った結果、患者から『ありがとう』と言われる充実感はあった。自業自得だがとても悲しい気持ち」と、涙ながらに語った。現在は医療関係とは無関係のアルバイトを行っており、週に1度のカウンセリングにも通院している。

●被害者感情と下された判決

被害金が返還されたとはいえ、被害者の心の傷が癒えるものではない。

被害者の1人はすでに亡くなった。その家族は、書面にて「被害弁償を受け取ることで罪が軽くなってほしいとは思わない。厳罰に処して欲しい」と、強い感情を露わにした。同僚も「(患者との)信頼関係を失う行為で、修復するのが大変だとわかってほしい」と証言した。

判決では、看護師の立場を悪用した犯罪で、信頼を裏切る行為であると厳しく非難。パートナーから捨てられたくないという動機は正当化できないが、遊興費目的の犯行ではなく、被害額を超える弁償を行っているのは酌むべき情状であると認定した。事情を認識したパートナーの監督も期待できることから、求刑の4年に対して、懲役3年、保護観察付き執行猶予5年の判決を言い渡した。

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