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京都祇園で起きたてんかん暴走事故の被害者と遺族は損害賠償請求ができるのか
2012年04月18日 19時50分

4月12日、京都府京都市東山区の祇園で軽ワゴン車の暴走により19人が死傷するという悲惨な事故が起きてしまった。この事故で軽ワゴン車の運転手であった藤崎晋吾容疑者も死亡し、事故の原因について本人の口から語られることはなくなってしまったが、事故の原因究明以外にも重要な問題が残っている。それは、事故の被害者あるいはその遺族の損害賠償は容疑者死亡によってどうなるのか、という問題だ。

もし容疑者が生存していた場合は、被害者や遺族は容疑者に対して民事上の損害賠償請求が当然に可能だ。それに加えて、容疑者は起訴され、刑事裁判で有罪判決を言い渡されることになる。しかし、容疑者が死亡した場合は物理的に起訴することが不可能になるので、刑事上の手続きでは不起訴処分になってしまうのだ。

それでは被害者や遺族による民事上の損害賠償請求も、刑事上の手続き同様、容疑者死亡により不可能になるのだろうか。

損害賠償請求について詳しい萩原猛弁護士によると、

「警察は、藤崎容疑者について、当初は自動車運転過失致死傷罪(刑法211条2項)、その後は殺人罪(刑法199条)の容疑で捜査しているようです。どちらの犯罪容疑も民事上は不法行為に該当しますので、同容疑者は、被害者・遺族に対し、不法行為に基づく損害賠償義務を負担します(民法709条)。しかし、同容疑者も本件事故によって死亡してしまったために、損害賠償義務は、一応同容疑者の相続人が相続しますが、相続放棄という手続をとれば、相続人はこの義務を免れることができます(民法939条)。」

「また、藤崎容疑者は、勤務先会社の車を業務上運転して事故を起こしたようですから、同会社は、自動車の所有者に発生する自動車損害賠償保障法上の運行供用者責任(同法3条)を負担すると共に、運転者の勤務先会社に発生する使用者責任の負担も考えられます(民法715条)。さらに、自動車の所有者は、自賠責保険だけでなく、対人賠償無制限の任意保険に加入していることが多いでしょう。藤崎容疑者の勤務先会社がそういった任意保険に加入していれば、被害者・遺族は、保険会社に対し保険金請求することが可能でしょう。」

「しかし、もし、藤崎容疑者に殺人罪が成立するなど、故意に本件事故を引き起こしたということになれば、任意保険の保険会社は免責され、勤務先会社の使用者責任の成否も微妙になるでしょう。この場合は、自賠責保険の被害者請求しかできなくなります(自賠法16条)。また、本件事故が藤崎容疑者のてんかんの症状に起因するものだとすると、同罹患(りかん)の事実を知ることによって、同人の自動車運転を阻止すべきであった者の過失責任が生じる余地があるでしょう。」

つまり、今回の事故が故意によるものなのかどうか、また、てんかんの症状の影響があったのか、保険の加入状況など、絡み合う様々な条件が整理されない限り、被害者や遺族に対する損害賠償がどうなるかは判断できないということだ。

もし仮に藤崎容疑者に殺人罪が成立し、てんかんの影響はなかったと判断された場合は、藤崎容疑者の相続人が相続放棄すれば、被害者や遺族は自賠責保険の被害者請求しかできなくなってしまう。自賠責保険の場合、保険支給額の上限金額は低く抑えられている。たとえば、被害者死亡という最悪のケースでも自賠責保険の上限支給額は3000万円にすぎないため、被害者や遺族が受けた損害の全額弁償を受けることができないのだ。

現在は警察の捜査が進められている段階だが、はたして事故の原因はどのように判断されるのか。捜査の行方を注視しつつも、とにかくこのような事故が2度と起きぬことを願うばかりである。

(弁護士ドットコムニュース)

4月12日、京都府京都市東山区の祇園で軽ワゴン車の暴走により19人が死傷するという悲惨な事故が起きてしまった。この事故で軽ワゴン車の運転手であった藤崎晋吾容疑者も死亡し、事故の原因について本人の口から語られることはなくなってしまったが、事故の原因究明以外にも重要な問題が残っている。それは、事故の被害者あるいはその遺族の損害賠償は容疑者死亡によってどうなるのか、という問題だ。

もし容疑者が生存していた場合は、被害者や遺族は容疑者に対して民事上の損害賠償請求が当然に可能だ。それに加えて、容疑者は起訴され、刑事裁判で有罪判決を言い渡されることになる。しかし、容疑者が死亡した場合は物理的に起訴することが不可能になるので、刑事上の手続きでは不起訴処分になってしまうのだ。

それでは被害者や遺族による民事上の損害賠償請求も、刑事上の手続き同様、容疑者死亡により不可能になるのだろうか。

損害賠償請求について詳しい萩原猛弁護士によると、

「警察は、藤崎容疑者について、当初は自動車運転過失致死傷罪(刑法211条2項)、その後は殺人罪(刑法199条)の容疑で捜査しているようです。どちらの犯罪容疑も民事上は不法行為に該当しますので、同容疑者は、被害者・遺族に対し、不法行為に基づく損害賠償義務を負担します(民法709条)。しかし、同容疑者も本件事故によって死亡してしまったために、損害賠償義務は、一応同容疑者の相続人が相続しますが、相続放棄という手続をとれば、相続人はこの義務を免れることができます(民法939条)。」

「また、藤崎容疑者は、勤務先会社の車を業務上運転して事故を起こしたようですから、同会社は、自動車の所有者に発生する自動車損害賠償保障法上の運行供用者責任(同法3条)を負担すると共に、運転者の勤務先会社に発生する使用者責任の負担も考えられます(民法715条)。さらに、自動車の所有者は、自賠責保険だけでなく、対人賠償無制限の任意保険に加入していることが多いでしょう。藤崎容疑者の勤務先会社がそういった任意保険に加入していれば、被害者・遺族は、保険会社に対し保険金請求することが可能でしょう。」

「しかし、もし、藤崎容疑者に殺人罪が成立するなど、故意に本件事故を引き起こしたということになれば、任意保険の保険会社は免責され、勤務先会社の使用者責任の成否も微妙になるでしょう。この場合は、自賠責保険の被害者請求しかできなくなります(自賠法16条)。また、本件事故が藤崎容疑者のてんかんの症状に起因するものだとすると、同罹患(りかん)の事実を知ることによって、同人の自動車運転を阻止すべきであった者の過失責任が生じる余地があるでしょう。」

つまり、今回の事故が故意によるものなのかどうか、また、てんかんの症状の影響があったのか、保険の加入状況など、絡み合う様々な条件が整理されない限り、被害者や遺族に対する損害賠償がどうなるかは判断できないということだ。

もし仮に藤崎容疑者に殺人罪が成立し、てんかんの影響はなかったと判断された場合は、藤崎容疑者の相続人が相続放棄すれば、被害者や遺族は自賠責保険の被害者請求しかできなくなってしまう。自賠責保険の場合、保険支給額の上限金額は低く抑えられている。たとえば、被害者死亡という最悪のケースでも自賠責保険の上限支給額は3000万円にすぎないため、被害者や遺族が受けた損害の全額弁償を受けることができないのだ。

現在は警察の捜査が進められている段階だが、はたして事故の原因はどのように判断されるのか。捜査の行方を注視しつつも、とにかくこのような事故が2度と起きぬことを願うばかりである。

(弁護士ドットコムニュース)

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