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「漫画・アニメ」も視野に入れた「児童ポルノ禁止法改正案」の問題点とは?
2013年05月29日 16時05分

児童ポルノを持っているだけで犯罪」とする児童ポルノ禁止法改正案が5月29日、衆議院に提出された。自民・公明・維新の3会派による改正案は、児童ポルノの単純所持を禁止する規定を新たに設けるほか、「児童ポルノに類する漫画やアニメ」の規制も将来的に検討するという内容だ。

法案では、附則の第2条として、「児童ポルノに類する漫画やアニメ、CG」と児童の権利を侵害する行為との関連性について、政府が調査研究を行うという条項を設けた。そして、改正法施行から3年をめどに検討して、その結果に基づいて「必要な措置」を講ずるとしている。つまり、将来的に、漫画やアニメ、CG(ゲームなど)に規制をかけることを視野に入れた法改正が行われようとしているのだ。これを受けて、漫画・アニメの関係者には激震が走っている。

はたして、このような法改正は、児童の保護という目的に照らして、妥当といえる内容なのだろうか。特に、現実には存在しない少年や少女を描く漫画やアニメやゲームといった「フィクション」にまで規制をかける必要があるのだろうか。もし改正案が通れば、どんな事態が想定されるのか。表現規制問題に詳しい京都大学の曽我部真裕教授(憲法)に聞いた。

●児童ポルノ禁止法改正案の「3つの問題点」

「実在する児童に関する『児童ポルノ』の被害は深刻です。これに関しては、作り手や拡散する側だけではなく、受け手の側に罰則を課すことも一定程度、理解できます。しかし、今回の改正案にはいくつもの問題があります」

曽我部教授はこう述べて、次のような「3つの問題点」を指摘した。

(1)単純所持の処罰は『濫用』の危険性が大きい

「この法案のいう『児童ポルノ』はそもそも、定義が曖昧で、対象が広すぎるという問題点が指摘されています。つまり、誰もが持っているような写真集やグラビアについても、摘発される可能性が、完全には否定できない状態です。そのような状態を放置したまま『単純所持』を禁止し、罰則を加えてしまえば、捜査当局に過度の裁量権を与えることになると言えるでしょう。罰則を科す際には、児童ポルノ流通の実態をしっかりと把握したうえで、効果的かつ最小限の規制を工夫すべきです」

(2)被害児童が実在しない創作物の規制は、問題が全く異なる

「附則の2条にある『児童ポルノに類する漫画等』を、調査研究対象とするという点は、大きな問題をはらんでいます。まず前提として、児童ポルノを規制するのは、実在する児童の保護が目的です。しかし、具体的な被害児童が登場しない『児童ポルノに類する漫画等』はあくまで創作物で、『擬似児童ポルノ』とも言えない全く異質のものです。法律に、その目的と関係のない規制を紛れ込ませるのは不適切です。それだけでなく、不必要な規制は表現の萎縮効果を生み出しかねません」

(3)立法過程が不透明

「議員立法の立法過程は一般に、政府提出法案に比べても透明性が低いのが特徴です。特に今回の法案提出には唐突感がぬぐえません。単純所持の処罰や漫画等の規制については、必ずしも世論が明確だとも言えません。

本来これは、表現の自由にも関わる刑罰法規ですから、世論の形成に加えて、国会でも非常に慎重な議論が必要なはずです。そういった重要な法規を、国会議員に対する水面下の根回しという手法で、十分な議論を経ないまま成立させようとしているのだとすれば、その実質的な正統性には疑問を抱かざるを得ません」

おそらく、「児童をポルノや性的搾取の被害から救い出さなければならない」という児童ポルノ禁止法の目的に異論を唱える人は、まずいないだろう。しかし、その目的を達成するための手段として、今回の改正案が示すような規制が本当に必要なのか。国民の代表である国会議員には、しっかりと議論することが求められている。

【取材協力】

曽我部真裕(そがべ・まさひろ)京都大学大学院法学研究科教授(憲法学)。現在の研究テーマはメディア法制の国際比較。印刷メディアだけでなく、放送、インターネットにも考察範囲を広げつつある。著書に『反論権と表現の自由』(有斐閣,2013年)など。

(弁護士ドットコムニュース)

児童ポルノを持っているだけで犯罪」とする児童ポルノ禁止法改正案が5月29日、衆議院に提出された。自民・公明・維新の3会派による改正案は、児童ポルノの単純所持を禁止する規定を新たに設けるほか、「児童ポルノに類する漫画やアニメ」の規制も将来的に検討するという内容だ。

法案では、附則の第2条として、「児童ポルノに類する漫画やアニメ、CG」と児童の権利を侵害する行為との関連性について、政府が調査研究を行うという条項を設けた。そして、改正法施行から3年をめどに検討して、その結果に基づいて「必要な措置」を講ずるとしている。つまり、将来的に、漫画やアニメ、CG(ゲームなど)に規制をかけることを視野に入れた法改正が行われようとしているのだ。これを受けて、漫画・アニメの関係者には激震が走っている。

はたして、このような法改正は、児童の保護という目的に照らして、妥当といえる内容なのだろうか。特に、現実には存在しない少年や少女を描く漫画やアニメやゲームといった「フィクション」にまで規制をかける必要があるのだろうか。もし改正案が通れば、どんな事態が想定されるのか。表現規制問題に詳しい京都大学の曽我部真裕教授(憲法)に聞いた。

●児童ポルノ禁止法改正案の「3つの問題点」

「実在する児童に関する『児童ポルノ』の被害は深刻です。これに関しては、作り手や拡散する側だけではなく、受け手の側に罰則を課すことも一定程度、理解できます。しかし、今回の改正案にはいくつもの問題があります」

曽我部教授はこう述べて、次のような「3つの問題点」を指摘した。

(1)単純所持の処罰は『濫用』の危険性が大きい

「この法案のいう『児童ポルノ』はそもそも、定義が曖昧で、対象が広すぎるという問題点が指摘されています。つまり、誰もが持っているような写真集やグラビアについても、摘発される可能性が、完全には否定できない状態です。そのような状態を放置したまま『単純所持』を禁止し、罰則を加えてしまえば、捜査当局に過度の裁量権を与えることになると言えるでしょう。罰則を科す際には、児童ポルノ流通の実態をしっかりと把握したうえで、効果的かつ最小限の規制を工夫すべきです」

(2)被害児童が実在しない創作物の規制は、問題が全く異なる

「附則の2条にある『児童ポルノに類する漫画等』を、調査研究対象とするという点は、大きな問題をはらんでいます。まず前提として、児童ポルノを規制するのは、実在する児童の保護が目的です。しかし、具体的な被害児童が登場しない『児童ポルノに類する漫画等』はあくまで創作物で、『擬似児童ポルノ』とも言えない全く異質のものです。法律に、その目的と関係のない規制を紛れ込ませるのは不適切です。それだけでなく、不必要な規制は表現の萎縮効果を生み出しかねません」

(3)立法過程が不透明

「議員立法の立法過程は一般に、政府提出法案に比べても透明性が低いのが特徴です。特に今回の法案提出には唐突感がぬぐえません。単純所持の処罰や漫画等の規制については、必ずしも世論が明確だとも言えません。

本来これは、表現の自由にも関わる刑罰法規ですから、世論の形成に加えて、国会でも非常に慎重な議論が必要なはずです。そういった重要な法規を、国会議員に対する水面下の根回しという手法で、十分な議論を経ないまま成立させようとしているのだとすれば、その実質的な正統性には疑問を抱かざるを得ません」

おそらく、「児童をポルノや性的搾取の被害から救い出さなければならない」という児童ポルノ禁止法の目的に異論を唱える人は、まずいないだろう。しかし、その目的を達成するための手段として、今回の改正案が示すような規制が本当に必要なのか。国民の代表である国会議員には、しっかりと議論することが求められている。

【取材協力】

曽我部真裕(そがべ・まさひろ)京都大学大学院法学研究科教授(憲法学)。現在の研究テーマはメディア法制の国際比較。印刷メディアだけでなく、放送、インターネットにも考察範囲を広げつつある。著書に『反論権と表現の自由』(有斐閣,2013年)など。

(弁護士ドットコムニュース)

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