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「ハブが怖くて飲みました」酒気帯び運転で驚きの供述…“離島弁護士”が明かす「人間くさいハブ事件」
2025年06月29日 08時22分

日本の鹿児島や沖縄に生息するハブは、そこで暮らす人に影響を与えている。ときには法律問題にまで深くからんでくることがある。

鹿児島県の奄美大島や奄美群島では2024年度にハブによる49人の咬傷者が発生した。

島ではハブをめぐる事件も発生するようだ。

ハブの恐怖をやわらげるため飲酒したと語った道路交通法違反事件の被告人。空き地を放置するとハブが出没すると主張し、他人の土地で野菜を育てていた人。

離島の困りごとを扱ってきた弁護士が忘れがたい「ハブ事件」を振り返る。

日本の鹿児島や沖縄に生息するハブは、そこで暮らす人に影響を与えている。ときには法律問題にまで深くからんでくることがある。

鹿児島県の奄美大島や奄美群島では2024年度にハブによる49人の咬傷者が発生した。

島ではハブをめぐる事件も発生するようだ。

ハブの恐怖をやわらげるため飲酒したと語った道路交通法違反事件の被告人。空き地を放置するとハブが出没すると主張し、他人の土地で野菜を育てていた人。

離島の困りごとを扱ってきた弁護士が忘れがたい「ハブ事件」を振り返る。

●「司法過疎地」で働く弁護士

ハブが法律問題にどのように関連してくるのか。判例サイトを検索しても、ハブをめぐる事件はなかなか見つけることができない。

だが、奄美群島と沖縄を行き来して活動する弁護士の鈴木穂人さんは、そんなことはないと話す。

画像タイトル 鈴木穂人弁護士(本人提供)

鹿児島奄美市、沖縄石垣市など弁護士が少なく「司法過疎地」と呼ばれる全国6カ所の地域で法律事務所を構える「弁護士法人 空と海」(事務所名そらうみ法律事務所)。鈴木さんは南西諸島全域をカバーする。

「奄美で働いて14年になりますが、ハブが直接的に事件・事故の原因になったものは見聞きしたことはありません。ただ、背景にハブの存在があることはありました」

●「ハブが怖いから奮い立たせるため酒を飲んだ」

鈴木さんが担当した道路交通法違反事件を振り返る。被告人は夜中に奄美市内を酒気帯び運転して捕まった。

「公訴事実自体はよくあるものですが、酒を飲んだ経緯はハブ取りをしていたからだというのです。

『夜行性のハブを捕まえようとしたがハブは怖い。自分を奮い立たせるために酒を飲んだ』と話します。ハブを1匹つかまえると3000円で役場で買取してもらえます。3匹でも捕まえれば9000円。所得水準が決して高くなく、就労の機会も限られている奄美では、3000円は小さくありません。

法廷ではそのような背景を明らかにしていくわけです。たしか罰金数十万円の判決が科されました。ハブ取りをして、この罰金では割に合わないということを被告人質問で聞きました」

彼の行動はまったく褒められたものではないが、人間臭くて憎めないところもあると鈴木さんは言う。

●破産事件で「雑収入:ハブ買取3000円」

奄美の人であれば周知の事実であることも、転勤間もない裁判官には理解してもらわないといけない場面もある。

「破産事件では申立人の家計表(家計簿)を出して月の収支を明らかにしなければいけません。その収入欄にハブをつかまえて3000円もらった雑収入が計上されていることがあります」

また、支出欄には「ハブ取り棒」や「ハブを保管するためのカゴ」の購入費用などが記載されていることもあるという。

「ハブに近づかずとも捕まえられる特殊な加工がされているハブ取り棒は、島のホームセンターで売っています。だいたい数千円くらいでしょうか。島の裁判所に赴任してまもない裁判官には『この支出は何か?』と尋ねられることがありまして、言わずもがなですが口頭で説明するようなこともあります」

画像タイトル 鹿児島県奄美大島 ホノホシ海岸「ハブに注意」の看板(Nita Limo / PIXTA)

鹿児島県が公開しているハブの買上状況によれば、2024年度は2万103匹が購入されている(名瀬保健所と徳之島保健所管内などの合計)。1匹につき3000円で単純計算すると、年間約6000万円以上が支払われたことになる。

●「放置すればハブが出るじゃないか」相続した空き地めぐるトラブル

鈴木さんがどうしても「忘れがたい」という依頼を最後に紹介する。

10年ほど前のこと、父親から相続した土地をめぐって、東京に住む男性から依頼が寄せられた。

奄美大島からフェリーで20分ほど離れた加計呂麻島。この島で相続した土地で、地域の住人が無断で野菜を育てていた。「不法占有」というのが依頼人の弁だった。

受任した鈴木さんが明け渡しを求める内容証明を送ったところ、相手住人は「鈴木さんは現場を見てないじゃないか」と立腹した様子。

加計呂麻島を訪ねると、住人と集落の区長が待ち構えていた。

公民館の隣にある土地は、集落の“一等地”だ。土地は綺麗な畑として使われていた。

「放っておけば雑草が生えて裏の山からハブや猪が入り込んでくる。この一等地にハブが出てしまうと集落が困る」というのが言い分だった。

実際に裁判になれば、明け渡しはほぼ確実に認められる。ただ、空き地にすることで、集落をハブの不安にさらすことは、集落出身の依頼人の父親や依頼人自身にとっても不名誉なことかもしれない。

依頼人に事情を説明し、島に住む親戚に無償で貸して、畑を続けてもらうという結論におさまった。

「奄美に赴任して数年経ったころの僕の中では原因がハブだという理屈はすとんと腑に落ちるものでした。これは全国で問題となっている空き地・空き家問題だと思うのですが、そこにハブが関係してくるところが独特なところです」

【鈴木穂人弁護士略歴】
1977年、京都市生まれ。2001年、立命館大学政策科学部卒業。派遣社員・フリーター・議員秘書等を経て、2008年、京都産業大学法科大学院修了。2009年、弁護士登録。桜丘法律事務所に入所。2011年に奄美大島の末広町法律事務所(ひまわり基金法律事務所)に2代目所長弁護士として赴任。2016年、「弁護士法人空と海 そらうみ法律事務所」を開設。2020年にそらうみ法律事務所浦添事務所を開設。

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