11528.jpg
踏切事故で亡くなった人から財布盗んだ疑いで逮捕、死者相手なら「窃盗」じゃなくなる?
2021年10月05日 13時22分

電車ではねられて死亡した男性の財布を盗んだとして都内の男性が逮捕されたというニュースが「人間として最低」と話題になっている。

NHK(10月4日)によると、事件が起きたのは今年8月。東京・中野区で自転車に乗った50代の男性が誤って踏切に侵入し、電車にはねられた。男性は病院に運ばれ、死亡が確認された。

被疑者は、倒れている男性の所持品から財布を盗み、現金を抜きとったうえで戻したとみられ、窃盗の疑いで逮捕された。

電車ではねられて死亡した男性の財布を盗んだとして都内の男性が逮捕されたというニュースが「人間として最低」と話題になっている。

NHK(10月4日)によると、事件が起きたのは今年8月。東京・中野区で自転車に乗った50代の男性が誤って踏切に侵入し、電車にはねられた。男性は病院に運ばれ、死亡が確認された。

被疑者は、倒れている男性の所持品から財布を盗み、現金を抜きとったうえで戻したとみられ、窃盗の疑いで逮捕された。

●刑法の授業で習う「死者の占有」

ネットでは「外道」など非難の声が多数だが、窃盗で起訴できるのかと疑問を呈する声も一部に見られる。というのも、この事例が法学の授業によく登場する「死者の占有」という有名論点にかかわっているからだ。

大雑把に言うと、盗まれた物に亡くなった人の支配(≒占有)は原則として及んでおらず占有離脱物横領となるが、死亡直後ではまだ及んでいるケースも考えられるのではないかという問題で、もし及んでいるとすれば窃盗罪として扱われることになる。

今回のケースを例に、司法試験予備校の講師もつとめる西口竜司弁護士に解説してもらった。

●死後どのくらいまで亡くなった人の占有物と言えるか?

「最近、私の沿線でも人身事故が後を絶ちません。新型コロナの拡大が影響しているのかなと思いますが、痛ましい気持ちで一杯です。そして、今回の報道を聞いてかなり驚きました。そんなことを考える人がいるのかという印象です。まずは救護を考えてほしかったですね」

――NHKの報道では、近所の人が「事故直後は男性がまだ生きていて、苦しそうな声が聞こえていた」旨を語っていました。

「事実関係は不明ですが、生きている人から財布を取っているといえれば、刑法235条の窃盗罪に当たる可能性が高いです。

ただし、財布の持ち主がすでに死亡していたような場合、死者の占有という難しい問題が出てきます。当たり前のことを書くと、死後2年も経過しているといったような場合、亡くなった方が占有をしているとはいえず占有離脱物横領罪が成立するだけです。

一方、死後2~3分といったような場合どうでしょうか。科学的に言えば亡くなられているわけですから窃盗罪ではなく、占有離脱物横領罪になるようにも思えます。要は守るべき占有というものがないので犯罪が変わります。もちろん、窃盗罪と占有離脱物横領罪の量刑についても罪の重さの違いから窃盗罪の方が圧倒的に重くなります。

しかし、人の死亡時期については、心肺停止状態という言葉があるように不明確なことが多いですね。たまたま亡くなっていれば占有離脱物横領罪、生存していれば窃盗罪というのも変です。

死者の占有は殺人事件のときに問題になることが多いのですが、判例は、殺害犯人との関係で、時間的・場所的に接着した範囲であれば全体的にみて被害者の生前の占有を保護して、窃盗罪の成立を認めます。かなりイレギュラーな考え方ですね」

――殺人事件ではない今回はどう考えられますか?

「事実関係がはっきりとしていないので何とも言えませんが、盗んだ時点で被害者の方が亡くなっていれば占有離脱物横領罪になるでしょう。殺害犯人ではないときは、前述の判例のように生前の占有を保護するという理屈は当てはまりません。

他方、被害者の方が生存されていた場合、窃盗罪の可能性もありますが、死亡していると犯人が思っていたような場合、同罪の故意が否定されてしまい、占有離脱物横領罪になってしまう可能性もあります。生存されていることをわかっていれば窃盗罪になります。いずれにせよ後味の悪い事件です」

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る