ガス点検を装って男女2人に暴行を加え、現金などを奪ったとして、強盗致傷などの罪に問われた汪楠(ワン・ナン)被告人に対して、東京地裁(江口和伸裁判長)は11月5日、懲役13年(求刑・懲役14年)を言い渡した。
汪楠氏は中国残留孤児の2世などで構成される「怒羅権(ドラゴン)」の創設メンバーとされ、以前事件を起こして刑務所に入ったが、出所後の2015年から受刑者に本や手紙を送る「ほんにかえるプロジェクト」を始めるなど、更生支援に取り組んできた。
弁護側は、強盗の故意や共謀はなかったと主張していたが 、裁判所は退けた。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●ガス点検装い、現金や電子機器を奪う
判決によると、汪被告人は2023年3月、共犯者らと共謀し、東京・東池袋の事務所兼社員寮にガス設備の点検を装って侵入。
室内にいた男女2人の手首を結束バンドで縛るなどして暴行を加え、現金計約109万円や携帯電話、ノートパソコンなど計19点(約153万円相当)を奪い、男性に全治約3週間のケガを負わせたとして、住居侵入、強盗、強盗致傷の罪に問われた。
また、警察署での取調べ中、机の上にあったプリンターを壊して警察官の職務を妨害したとして、公務執行妨害と器物損壊の罪にも問われた。
●「ちょっと脅せば金を出す」発言を認定
争点は、汪被告人に強盗の故意と共謀があったかどうか。
東京地裁は、共犯者の証言を「具体的で、客観証拠とも整合的」として信用性を認め、事件の11、12日ほど前に汪被告人が「中国人が詐欺まがいをして集めた金がある」「ちょっと脅せば金を出す」などと話していたと認定。
被告人が狙おうとしていた2億円もの暗号資産のパスワードを聞き出すには「相当程度強度の脅迫行為が想定される」として、強盗の故意と共謀の成立を認めた。
●弁護側「強盗の故意、共謀ない」の主張退ける
弁護側は、汪被告人が「脅せば金を出す」と言ったとされる際に「まだ準備が整っていない」という趣旨の発言もしていたことを根拠に共謀の成立を否定した。
しかし、東京地裁は「(計画を)実行すること自体について否定するものとは解されない」とし、犯行前日にガス点検の偽造チラシを渡した行動から「遅くとも犯行前日には、犯行の実行を認識していた」と判断した。
●「主導的役割」懲役13年
東京地裁は事件を「組織的かつ計画的な犯行」とし、汪被告人を「犯行を主導する立場にあり、非常に重要な役割を果たした」「責任は共犯者らの中で最も重い」と断じた。
被害弁償もないことなども踏まえて、懲役13年を言い渡し、未決勾留550日を刑期に算入した。