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AIで作り出した「カスハラ客」と対話するトレーニング、毅然と断る難しさを実感
2024年04月15日 10時10分
#カスタマーハラスメント

客が暴言をはいて働く人の就業環境を害するカスタマーハラスメント(カスハラ)。東京都が防止条例制定を決めるなど社会問題になっている。そうした中、生成AIが作り出した「カスハラ客」を相手に、対応を自主トレするアプリが登場した。どんな技術なのか。弁護士ドットコムニュース編集部の記者と筆者が、「カスハラ客」を接客した。(ライター・田中瑠衣子)

画像タイトル 顧客の声を受け止めた理想的な対応だとアイコンの表情も穏やかになっていく

客が暴言をはいて働く人の就業環境を害するカスタマーハラスメント(カスハラ)。東京都が防止条例制定を決めるなど社会問題になっている。そうした中、生成AIが作り出した「カスハラ客」を相手に、対応を自主トレするアプリが登場した。どんな技術なのか。弁護士ドットコムニュース編集部の記者と筆者が、「カスハラ客」を接客した。(ライター・田中瑠衣子)

画像タイトル 顧客の声を受け止めた理想的な対応だとアイコンの表情も穏やかになっていく

●「AIカスハラ客」の剣幕に名乗ることを忘れてしまう

自主トレアプリ「iRolePlay(アイロールプレイ)」はインタラクティブソリューションズ(東京)が開発した。コールセンターやホテル、自治体の窓口などカスハラ被害が多そうな場面を用意してもらい、デモンストレーションを体験した。

最初は通信機器会社のコールセンター。記者はオペレーターとして対応する。

「インターネットがつながらないんだよ!」 「お前の名前はなんだ。早くしろっ」

スタートから男性客に怒鳴られた。

AIの剣幕にオペレーター役の記者は「ご不便をおかけして申し訳ありません」と言うのがやっと。AIは「急いでくれ。なんでつながらないんだよ」とせかす。

ルーターのランプの点滅確認や、デバイスを再起動してもネットにはつながらない。「変わらない。他に何か方法はないのか?」とAIが詰め寄る。一度、ルーターの電源を切り、入れ直すよう提案するとようやくネットにつながった。

AI客の攻撃は急激にトーンダウンし、最後は「お前のおかげだ。ありがとう」と言ってもらえた。

終了後、記者の対応の評価が出た。極端に悪いところはなかったが「聞き取る力」に課題ありという結果になった。

改善策も提示された。「顧客の発言を肯定し、理由を説明することが重要です」と、ルーターランプの点滅確認の時の対応に改善の余地があるという。

同社代表取締役の関根潔さんが解説する。

「今回のロールプレイでは、最後まで名前を名乗ることを忘れてしまっていましたよね。聞かれていることに、きちんと答えることは意外と難しいんです。コールセンターではこれがお客さんを怒らせる原因になってしまうこともあります」

画像タイトル インタラクティブソリューションズ代表取締役の関根潔さん

●独自の会話解析技術を活用、論点整理と分析で自然な会話に

代表取締役の関根さんは、もともと製薬会社でデジタルマーケティングの仕事をしていた。現場で営業担当者が苦労している姿を見ていたこともあり、独立後に営業スキルをつける自主トレアプリを開発した。これをベースに2023年、社会問題化するカスハラに対応するプログラムを作った。

アプリには最初にカスハラ客の属性や、どんな暴言に苦慮しているかといった情報や人格、データを入力する。するとAIが論点を整理し、オリジナルのQ&Aを作ってくれる。

「特徴は自然な会話ができることです。AIが会話を解析して論点を整理し、話題を適切に制御することで幾通りもの会話ができます」(関根さん)。同社が独自に開発した技術と、ChatGPTなどを組み合わせている。

独自の技術が注目され、銀行などでの導入実績があるほか、人手不足に悩むコールセンターからの問い合わせが増えているという。

画像タイトル 一方的な拒絶で、AIの怒りを増大させてしまったホテルのフロント対応のデモ

●ホテルのフロント対応、火に油を注いだ悪手 

コールセンターに続き、ホテルの悪質な宿泊客に応対するデモを筆者も体験した。

AI客「今すぐ最上階のスイートルームに案内してくれ。通常料金の半額でな」

いきなりの高い要求にしどろもどろになる。 筆者「お客様…...ほ、本日は別のお客様が利用しておりますので、難しいです。申し訳ございません」

AI客「そんなの関係ない。他の客をどけてその部屋を用意しろ。料金は譲歩しろ。俺は常連だ」

押し問答が続いた。

筆者「申し訳ございませんが、これ以上無理を申し上げられると宿泊をお断りします。……警察に通報します」

AI客「警察だと?笑わせるな。こんなところ二度と使わん!他にいいホテルはたくさんある」

これまでのカスハラ取材で「理不尽な要求には毅然とした対応をとることが大事。警察に通報することもいとわない」と聞いていたので、断固拒否した。ただ「とにかく断ろう」と思うあまり、一方的な対応に終始し、AI客の怒りがどんどん大きくなっていくのが分かった。人が相手だったら大変なことになっているだろう。

「断ろうという気持ちが前に出すぎて、顧客の声を受け止めずコミュニケーションが足りなかったように思います」と関根さんは言う。

このバージョンは「理不尽な顧客は断ると決めても、いざその場面になると断りにくいので練習したい」という企業の声から開発したそうだ。実際、断ることは非常に難しかった。企業は悪質な客を断るルールを決めた上で、AIと練習するのが効果的だという。

同社は今後、その場で答え方をアドバイスする機能もつける計画だ。カスハラが原因で離職者が出ることは企業にとって大きな損失になる。時間や場所を選ばずにトレーニングでき、評価がブレないAIは、いい練習相手かもしれないと思った。

(撮影場所 WeWork Hanzomon PREX South)

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