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米国の凶悪犯に下された途方もない判決 「禁錮1000年」が日本にはないワケ
2013年08月13日 17時00分

約10年に渡って3人の女性を監禁していた被告人の男に、なんと「禁錮1000年」の判決が言い渡された――。といっても、これは日本ではなくてアメリカの話だ。

報道によると、被害者の女性3人は2002年〜04年にかけて行方不明になっており、当時16~20歳だった。今年5月、監禁されていたオハイオ州クリーブランドの住宅から1人が脱出に成功し、事件が発覚した。逮捕されたのは、この住宅を所有する53歳の男。起訴容疑は、監禁や強姦、暴行など977件に及んだという。

現地の裁判所は今回、男に「終身刑に加え、禁固1000年」という判決を下した。日本で1000年前といえば平安時代、紫式部が『源氏物語』を書いていたとされるころだ。男が刑期を勤め上げることは、実際にはあり得ないだろう。

さて、このような判決は日本では聞いたことがないが、それはなぜなのだろうか。もしかして日本の刑罰は、国際的な基準に比べて「刑期が短すぎる」のだろうか。刑事事件にくわしい徳永博久弁護士に聞いた。

●無期懲役や死刑があるため、それほど不都合はない

「アメリカで禁固1000年があり得るのは、複数の罪を同時に犯した場合、各罪ごとに刑期を定めた上で、それらを足し算しているからです。

一方、日本では、確定裁判を受けていない複数の罪を犯した場合には、まとめて『併合罪』(刑法45条)にするという決まりがあります。

――併合罪とは?

「かみ砕いていうと『刑期をまとめて処理する』ということです。併合罪の場合の刑期は、刑法47条で、下記のように定められています。

(1)最も重い罪に科せられる法定刑(上限)の1.5倍まで

(2)各犯罪の法定刑の合計を超えない範囲であること」

――実際の計算はどうなる?

「もし3つの犯罪を犯して、それぞれの法定刑(上限)が1年、2年、10年だとすると、(1)10年の1.5倍は15年ですが、(2)全部の合計は13年なので、結局は最大13年になるということですね。

さらに、有期刑(期間の定めがある懲役・禁固刑)は、併合罪などの場合でも、上限が30年までとされています(刑法14条2項)」

――「日本だけ軽すぎる」ということにはならない?

「上限30年の有期刑では足りないような重い罪を犯した者に対しては、期間の定めがない無期刑(無期懲役・無期禁固)や、さらには死刑が適用されます。

ですから、アメリカのように『禁錮1000年』という判決を下すことができなくても、実際の不都合はないようです」

――なるほど、インパクトの差は激しいが、実際の違いはそれほどでもないということか。日米で、どうしてそんなに差が?

「日本の刑法は、自由刑(懲役刑・禁固刑)を執行する効果として、『受刑者を更生させ、再び罪を犯すことのない市民として社会に復帰させる』という側面に、より期待しているのだろうと考えます。

この点にどこまで期待し、重視するかの差が、日米の違いにつながっているのではないかと思います」

(弁護士ドットコムニュース)

約10年に渡って3人の女性を監禁していた被告人の男に、なんと「禁錮1000年」の判決が言い渡された――。といっても、これは日本ではなくてアメリカの話だ。

報道によると、被害者の女性3人は2002年〜04年にかけて行方不明になっており、当時16~20歳だった。今年5月、監禁されていたオハイオ州クリーブランドの住宅から1人が脱出に成功し、事件が発覚した。逮捕されたのは、この住宅を所有する53歳の男。起訴容疑は、監禁や強姦、暴行など977件に及んだという。

現地の裁判所は今回、男に「終身刑に加え、禁固1000年」という判決を下した。日本で1000年前といえば平安時代、紫式部が『源氏物語』を書いていたとされるころだ。男が刑期を勤め上げることは、実際にはあり得ないだろう。

さて、このような判決は日本では聞いたことがないが、それはなぜなのだろうか。もしかして日本の刑罰は、国際的な基準に比べて「刑期が短すぎる」のだろうか。刑事事件にくわしい徳永博久弁護士に聞いた。

●無期懲役や死刑があるため、それほど不都合はない

「アメリカで禁固1000年があり得るのは、複数の罪を同時に犯した場合、各罪ごとに刑期を定めた上で、それらを足し算しているからです。

一方、日本では、確定裁判を受けていない複数の罪を犯した場合には、まとめて『併合罪』(刑法45条)にするという決まりがあります。

――併合罪とは?

「かみ砕いていうと『刑期をまとめて処理する』ということです。併合罪の場合の刑期は、刑法47条で、下記のように定められています。

(1)最も重い罪に科せられる法定刑(上限)の1.5倍まで

(2)各犯罪の法定刑の合計を超えない範囲であること」

――実際の計算はどうなる?

「もし3つの犯罪を犯して、それぞれの法定刑(上限)が1年、2年、10年だとすると、(1)10年の1.5倍は15年ですが、(2)全部の合計は13年なので、結局は最大13年になるということですね。

さらに、有期刑(期間の定めがある懲役・禁固刑)は、併合罪などの場合でも、上限が30年までとされています(刑法14条2項)」

――「日本だけ軽すぎる」ということにはならない?

「上限30年の有期刑では足りないような重い罪を犯した者に対しては、期間の定めがない無期刑(無期懲役・無期禁固)や、さらには死刑が適用されます。

ですから、アメリカのように『禁錮1000年』という判決を下すことができなくても、実際の不都合はないようです」

――なるほど、インパクトの差は激しいが、実際の違いはそれほどでもないということか。日米で、どうしてそんなに差が?

「日本の刑法は、自由刑(懲役刑・禁固刑)を執行する効果として、『受刑者を更生させ、再び罪を犯すことのない市民として社会に復帰させる』という側面に、より期待しているのだろうと考えます。

この点にどこまで期待し、重視するかの差が、日米の違いにつながっているのではないかと思います」

(弁護士ドットコムニュース)

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