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人気キャラの「中の人」はおじさん!? 夢を壊された子どもは慰謝料請求できる?
2013年07月28日 12時20分

夏休みも真っ盛りだ。今年も各地のテーマパークでは、様々なキャラクターや特撮物のヒーローたちが、子どもたちに夢を与えている。

一方、ネットではしばしば、こういったキャラクターの「中の人」が確認できる暴露写真が流れ、話題になる。人前でかぶり物を外すのは、本来あってはならないことだろうが、ただでさえ暑いこの季節、着ぐるみとなれば、「中の人」の体調しだいでは仕方ないケースもあるのだろう。

しかし、子どもにとっては、その現実はあまりに酷かも知れない。あのキャラクターの「中の人」はおじさんだった――!? もし、そんな場面に遭遇し、目撃した子どもが「偽物だ。裏切られた」と泣いてしまった場合、「中の人」に慰謝料を請求することはできるのだろうか。エンターテインメント業界の企業法務にくわしい唐津真美弁護士に聞いた。

●よほど特殊な場合でなければ慰謝料請求は難しい

「これは子どもにとっても親にとっても、本当に胸が痛む経験でしょう。子どもが精神的ダメージを受けたことは間違いありません。しかし、『中の人』に慰謝料が請求できるかどうかは別です。

慰謝料請求が認められるためには、『テーマパークのキャラクターは見える所でかぶり物を外さないだろう』という期待が、法的に保護されている必要があります。

こういう権利は『期待権』と呼ばれることもありますが、日本の裁判所はいわゆる期待権の保護には慎重な態度をとっています。特殊な事情がない限り、慰謝料請求は難しいでしょう」

――特殊な事情とは?

「もし、慰謝料が認められるとすればそれは、たとえば次の4つの条件が全て満たされるような場合だと思われます。

(1)テーマパークから着ぐるみの『中の人』に対して、所定の場所以外でかぶり物を外さないよう明確な指示がある

(2)『中の人』も、来場者が上記の『期待』を持っていることを十分に認識している

(3)子どもたちにショックを与えようと、意図的に幼い子どもの目の前でかぶり物を外した

(4)急激な体調の悪化など、その場でかぶり物を外さざるを得ない理由がない」

――では、建物の陰でかぶり物を外して、たまたま見られたような場合は法的には問題ない?

「そうとも言えません。『中の人』には、所定の場所以外ではかぶり物を外さない義務が、雇用契約や業務委託契約で定められている場合があるからです。もし『中の人』がこの義務に反して、テーマパークへのクレームや、テーマパークのイメージダウンを引き起こせば、テーマパークから『中の人』に対する損害賠償請求が認められる可能性があると思います。

質問にあるような『暴露写真』が一瞬で世界中に拡散する現代においては、こういった問題に対するテーマパーク側の危機管理が、一層重要になっていると言えるでしょう」

「中の人」の責任はなかなか重大なのだ。それにしても、これだけ暑いと、着ぐるみで子どもたちに夢を与える「中の人」の方が、よほどヒーローという気がしてくる。この夏も、どうか体調を崩すことなく、子どもたちの夢を守ってあげてほしい。

(弁護士ドットコムニュース)

夏休みも真っ盛りだ。今年も各地のテーマパークでは、様々なキャラクターや特撮物のヒーローたちが、子どもたちに夢を与えている。

一方、ネットではしばしば、こういったキャラクターの「中の人」が確認できる暴露写真が流れ、話題になる。人前でかぶり物を外すのは、本来あってはならないことだろうが、ただでさえ暑いこの季節、着ぐるみとなれば、「中の人」の体調しだいでは仕方ないケースもあるのだろう。

しかし、子どもにとっては、その現実はあまりに酷かも知れない。あのキャラクターの「中の人」はおじさんだった――!? もし、そんな場面に遭遇し、目撃した子どもが「偽物だ。裏切られた」と泣いてしまった場合、「中の人」に慰謝料を請求することはできるのだろうか。エンターテインメント業界の企業法務にくわしい唐津真美弁護士に聞いた。

●よほど特殊な場合でなければ慰謝料請求は難しい

「これは子どもにとっても親にとっても、本当に胸が痛む経験でしょう。子どもが精神的ダメージを受けたことは間違いありません。しかし、『中の人』に慰謝料が請求できるかどうかは別です。

慰謝料請求が認められるためには、『テーマパークのキャラクターは見える所でかぶり物を外さないだろう』という期待が、法的に保護されている必要があります。

こういう権利は『期待権』と呼ばれることもありますが、日本の裁判所はいわゆる期待権の保護には慎重な態度をとっています。特殊な事情がない限り、慰謝料請求は難しいでしょう」

――特殊な事情とは?

「もし、慰謝料が認められるとすればそれは、たとえば次の4つの条件が全て満たされるような場合だと思われます。

(1)テーマパークから着ぐるみの『中の人』に対して、所定の場所以外でかぶり物を外さないよう明確な指示がある

(2)『中の人』も、来場者が上記の『期待』を持っていることを十分に認識している

(3)子どもたちにショックを与えようと、意図的に幼い子どもの目の前でかぶり物を外した

(4)急激な体調の悪化など、その場でかぶり物を外さざるを得ない理由がない」

――では、建物の陰でかぶり物を外して、たまたま見られたような場合は法的には問題ない?

「そうとも言えません。『中の人』には、所定の場所以外ではかぶり物を外さない義務が、雇用契約や業務委託契約で定められている場合があるからです。もし『中の人』がこの義務に反して、テーマパークへのクレームや、テーマパークのイメージダウンを引き起こせば、テーマパークから『中の人』に対する損害賠償請求が認められる可能性があると思います。

質問にあるような『暴露写真』が一瞬で世界中に拡散する現代においては、こういった問題に対するテーマパーク側の危機管理が、一層重要になっていると言えるでしょう」

「中の人」の責任はなかなか重大なのだ。それにしても、これだけ暑いと、着ぐるみで子どもたちに夢を与える「中の人」の方が、よほどヒーローという気がしてくる。この夏も、どうか体調を崩すことなく、子どもたちの夢を守ってあげてほしい。

(弁護士ドットコムニュース)

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