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半沢直樹も恐れる「出向」 会社に命じられたら拒否できないの?
2013年09月26日 20時00分

異例の大ヒットとなったドラマ『半沢直樹』。視聴率が40%を超えた9月22日の最終回では、半沢が子会社に「出向」を命じられるという意外な結末となり、視聴者から「なぜ?」という声が相次いだ。

「出向」は、大銀行を舞台にしたこのドラマの重要なテーマ。銀行内の権力闘争や出世競争に敗れた者に対して命じられることが多く、「片道切符の島流し」という銀行員の絶望の象徴として描かれていた。半沢も、さまざまな難題をギリギリのところで解決することで、なんとか出向をまぬがれていたのだが・・・

しかしドラマを見ていて疑問だったのは、半沢の親友・近藤をはじめとする「出向を命じられた者たち」がみな、特に抵抗することもなく、その辞令に従っていたことだ。そもそも「出向」とは、法的にどういう意味をもつのか。そして現実の世界でも、出向辞令は絶対的なもので、拒否することはできないのだろうか。企業法務にくわしい今井俊裕弁護士に聞いた。

●「出向」とは、A社に所属したまま、別に雇用契約を結んだB社で働くこと

「『出向』とは、もともと雇用されていた企業Aを退職せずに雇用契約を維持しながら、別の企業Bと新たに雇用契約を締結する形式で、企業Bの業務に従事することです。

出向は、親会社・子会社間などのグループ企業間や、メイン金融機関とその融資先企業間などで幅広く行われています」

今井弁護士はこう切り出した。それでは、出向は本当に「絶望の象徴」なのだろうか。

「いいえ。その目的はさまざまです。親会社から子会社への経営指導や技術指導のための出向や、金融機関が融資先の財務状況をモニタリングするための出向など、業務上必要だから行うもののほか、将来の幹部候補生として呼び戻す前提で経験を積ませるなど、人事的にはむしろプラス評価と言える内容の出向もあります」

しかし当然ながら、マイナスの方向性を持つ「出向」もあるようだ。

「一方で、ポスト不足による余剰人員の処遇という目的や、取締役間の派閥争いで負けた側の子分たちを一掃するためといった目的で、出向が使われているのも事実です。

なかには、解雇通告すればトラブルが予想される者を実質的に企業から追放するためや、組合活動家を追放して労働組合を切り崩す戦術のためなどの、『不当な出向命令』もあります」

●元の会社に戻るのが前提の「出向」もある

しかし、出向の目的がさまざまということであれば、必ずしも「片道切符」とは限らないのではないだろうか。

「そうですね。元の会社への復帰が最初から予定されている出向もあります。

一方、いわゆる『片道出向』『片道切符』と呼ばれ、出向元へ戻ることは予定されていないものもあります。その場合は、結果的に出向先で定年まで働くこととなります」

それでは、そんな「片道」の出向は嫌だと、従業員が拒否することはできないのだろうか。

「出向を命じる場合は、就業規則にその定めがあり、かつ、出向先の処遇等について規定した出向規定等があることが前提です。採用されるときに提出する誓約書に記載がある場合もあります」

しかし、入社段階で「将来どこに出向することになる」と、正確に想定できる人がいるとは思えない。従業員は、規則や誓約書の文言にどこまで縛られるものなのだろうか。

●違法な出向命令は拒否できるが、もし「違法でない」と判断されれば進退窮まる

「出向命令には、必ずしも従業員の個別具体的な承諾までは不要というのが、裁判例のおおむねの傾向です。

出向命令が不当・違法で無効ならば、したがう法的義務はありません。しかし、その命令が有効であると判断された場合、出向命令に背いてしまうと、懲戒処分もあり得ます。

そうなると、従業員としては進退窮まる、微妙な地位に立つことになってしまいます」

つまり、出向命令が裁判所に有効と判断されるか、無効と判断されるかで、天と地ほどの差が生じることになるようだ。裁判所の判断を事前に予測できれば良いだろうが、それは難しいかもしれない。今井弁護士も「裁判例上は、出向命令が有効と判断されたもの、無効と判断されたもの双方ともに多数あります」と指摘する。

では、半沢直樹が命じられた「出向」はどうなのか……。今井弁護士は「もし、半沢直樹に対する出向命令の有効性が争われたとしたら、その命令の動機が不当かどうかについて、審理が集中するでしょうね」と話していた。

(弁護士ドットコムニュース)

異例の大ヒットとなったドラマ『半沢直樹』。視聴率が40%を超えた9月22日の最終回では、半沢が子会社に「出向」を命じられるという意外な結末となり、視聴者から「なぜ?」という声が相次いだ。

「出向」は、大銀行を舞台にしたこのドラマの重要なテーマ。銀行内の権力闘争や出世競争に敗れた者に対して命じられることが多く、「片道切符の島流し」という銀行員の絶望の象徴として描かれていた。半沢も、さまざまな難題をギリギリのところで解決することで、なんとか出向をまぬがれていたのだが・・・

しかしドラマを見ていて疑問だったのは、半沢の親友・近藤をはじめとする「出向を命じられた者たち」がみな、特に抵抗することもなく、その辞令に従っていたことだ。そもそも「出向」とは、法的にどういう意味をもつのか。そして現実の世界でも、出向辞令は絶対的なもので、拒否することはできないのだろうか。企業法務にくわしい今井俊裕弁護士に聞いた。

●「出向」とは、A社に所属したまま、別に雇用契約を結んだB社で働くこと

「『出向』とは、もともと雇用されていた企業Aを退職せずに雇用契約を維持しながら、別の企業Bと新たに雇用契約を締結する形式で、企業Bの業務に従事することです。

出向は、親会社・子会社間などのグループ企業間や、メイン金融機関とその融資先企業間などで幅広く行われています」

今井弁護士はこう切り出した。それでは、出向は本当に「絶望の象徴」なのだろうか。

「いいえ。その目的はさまざまです。親会社から子会社への経営指導や技術指導のための出向や、金融機関が融資先の財務状況をモニタリングするための出向など、業務上必要だから行うもののほか、将来の幹部候補生として呼び戻す前提で経験を積ませるなど、人事的にはむしろプラス評価と言える内容の出向もあります」

しかし当然ながら、マイナスの方向性を持つ「出向」もあるようだ。

「一方で、ポスト不足による余剰人員の処遇という目的や、取締役間の派閥争いで負けた側の子分たちを一掃するためといった目的で、出向が使われているのも事実です。

なかには、解雇通告すればトラブルが予想される者を実質的に企業から追放するためや、組合活動家を追放して労働組合を切り崩す戦術のためなどの、『不当な出向命令』もあります」

●元の会社に戻るのが前提の「出向」もある

しかし、出向の目的がさまざまということであれば、必ずしも「片道切符」とは限らないのではないだろうか。

「そうですね。元の会社への復帰が最初から予定されている出向もあります。

一方、いわゆる『片道出向』『片道切符』と呼ばれ、出向元へ戻ることは予定されていないものもあります。その場合は、結果的に出向先で定年まで働くこととなります」

それでは、そんな「片道」の出向は嫌だと、従業員が拒否することはできないのだろうか。

「出向を命じる場合は、就業規則にその定めがあり、かつ、出向先の処遇等について規定した出向規定等があることが前提です。採用されるときに提出する誓約書に記載がある場合もあります」

しかし、入社段階で「将来どこに出向することになる」と、正確に想定できる人がいるとは思えない。従業員は、規則や誓約書の文言にどこまで縛られるものなのだろうか。

●違法な出向命令は拒否できるが、もし「違法でない」と判断されれば進退窮まる

「出向命令には、必ずしも従業員の個別具体的な承諾までは不要というのが、裁判例のおおむねの傾向です。

出向命令が不当・違法で無効ならば、したがう法的義務はありません。しかし、その命令が有効であると判断された場合、出向命令に背いてしまうと、懲戒処分もあり得ます。

そうなると、従業員としては進退窮まる、微妙な地位に立つことになってしまいます」

つまり、出向命令が裁判所に有効と判断されるか、無効と判断されるかで、天と地ほどの差が生じることになるようだ。裁判所の判断を事前に予測できれば良いだろうが、それは難しいかもしれない。今井弁護士も「裁判例上は、出向命令が有効と判断されたもの、無効と判断されたもの双方ともに多数あります」と指摘する。

では、半沢直樹が命じられた「出向」はどうなのか……。今井弁護士は「もし、半沢直樹に対する出向命令の有効性が争われたとしたら、その命令の動機が不当かどうかについて、審理が集中するでしょうね」と話していた。

(弁護士ドットコムニュース)

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